U-23フランス代表戦をフカボリ! U-23フランス代表戦をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第102回のテーマは、U-23フランス代表戦について。先日17日、U-23日本代表がパリ五輪に向けて開催国U-23フランス代表と直前の強化試合を行った。強豪国相手に1-1のドローで終えた日本代表から見えてきた課題と収穫を福西崇史が解説する。

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先日17日にU-23日本代表は、開催国U-23フランス代表と強化試合を行いました。結果的に1-1のドローとなりましたが、内容的には大敗を喫していてもおかしくなく、選手や監督は大きな差を感じたと思います。ただ、それよりも多くの気づき得た非常に有意義な試合だったと思います。そのなかで個人的に気になった点をいくつか解説したいと思います。

まず一つはスピード感でしょう。フランスのパス、判断、フィジカル、どのスピードをとってもA代表クラスでした。ボールを持って少しでも悩めば素早い寄せですぐに挟み込まれ、あるいは追い込まれ、ボール保持者の判断だけでなく、周りの味方の動き出しも早くなければあっという間に詰んでいました。

守備においてもプレッシャーに1人、2人と行っても3人目以降も素早く判断し、連動していなければ打開されました。

例えば相手センターバックに対して、FWひとりがまず前から中を切りながらプレスに出てはめに行く場面で、次の人がボランチを消すことを気にしすぎて横にずれるのが遅れ、サイドバックへ遅れてプレスに行ったことで、縦にドリブルで運ばれて中にパスをつけられてしまうということがありました。

そういったもっと後ろの状況を見た追い込み方ができなければ、あのレベルではボールは奪えないというのがよくわかりました。このレベルの差はショックなところでもありましたが、このスピード感を五輪本番前に体感できたことで、初戦のパラグアイを相手にしたとき、プレッシャーが緩く感じるくらいかもしれません。これはこの試合一番の収穫だったと思います。

次は攻撃についてですが、日本が先制した場面は、藤田譲瑠チマの素早い寄せと藤尾翔太のプレスバックでうまく挟み込み、良い守備から得点に繋げたと思います。ただ、ビルドアップから攻めるとなったときに、がっちりとマークにつかれて攻め手がなくなり、はめられるという場面が散見されました。

あれだけマークにつかれているのならば、中盤をうまくローリングしてマークを外すとか、相手は1アンカーで左右の広い範囲を見ていたので、左右のどちらかのスペースが空いた瞬間に斜めにパスを差し込むとか。相手のインサイドハーフに対して、こちらのサイドハーフとサイドバックで数的優位を作ることも可能でした。チームとしてフランスのプレスを回避するための工夫、アクションが足りませんでした。

フランスは日本のプレスに対して一つ奥の味方へパスを飛ばして、飛ばされた選手がサポートに入るなど工夫があったし、シンプルに前線のアレクサンドル・ラカゼットやジャンフィリップ・マテタへ難しいことをせず簡単にハイボールを送る場面も多くありました。

パラグアイ相手でもはめられたときに、フランスのように一つ飛ばして先が見えるようにしておかなければ、かなり難しくなると思います。

続いて守備に関してですが、守備ラインの選手たちが会場の雰囲気や相手のレベルに飲まれていたのか、不安定だったので「これは怖いな」と思いました。

とくに西尾隆矢はカバーの判断が遅かったし、木村誠二や高井幸大にしても最初のほうはうまくカバーリングができていたけど、そこにフランスが1人、2人と攻撃に厚みを加えてくると対応できなかったです。行く、行かない、カバーする、この3つを瞬時に正しく判断しなければ、フランスのレベルにはついていけませんでした。

もちろん、守備ラインだけの話ではなく、中盤でどう限定して、どこに追い込んで、どう後ろで奪うかというところで、中盤の選手もかなり振り回されて限定できていなかったので、後ろとしては難しい部分もありました。チーム全体と個人、両方の判断のレベルを上げなければいけないと思います。

最後はひとつひとつのプレーの精度。パスを受けるにしても足元に止めるのか、動かしながらコントロールするのか。それによって状況は変わるのに、ワンテンポ遅く、精度が低いことで寄せられ、仕方なく後ろへ戻すシーンが非常に多かったです。

相手を誘き出すためのバックパスではなく、逃げて下げることが多いので、相手の状況は変わらず、いつまでも相手のプレスから抜け出せない状態が長かったと思います。

個人的に気になった4点を挙げましたが、決してネガティブではないです。試合直前にフランスに到着して、コンディションが悪かったことも大きく影響していたと思いますし、あくまでもこれらを大会前に知ることができたというのが大きいと思っています。

日本の前に初戦の相手であるU-23パラグアイ代表もフランスと強化試合をして1-4と大敗しましたが、日本も内容としては似たようなものです。メダルを取るためには、このレベルが求められると痛感したと思います。

ただ、日本は引き分けたことで純粋に足りなかったことに選手たちは向き合うことができるでしょう。これがスコアの上でも大敗していたらそのショックを引きずっていたかもしれません。

内容はボロボロでも "引き分けた"という結果は、オーバーエイジのいない日本にとって自信を失わず、メンタル的に大きな支えになると思います。それによって若い選手たちはフランス戦の経験から成長できるでしょう。

明朝2時にいよいよ初戦パラグアイ戦のキックオフを迎えますが、大岩剛監督率いる五輪代表チームを信じて応援したいと思います。

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福西崇史

福西崇史ふくにし・たかし

1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

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