なでしこジャパン注目のホープ・藤野あおば選手 なでしこジャパン注目のホープ・藤野あおば選手

■スペインやブラジルなどに勝つ策とは?

パリ五輪で、なでしこジャパンが挑む本大会の予選は"死の組"と目される。スペインにブラジル、ナイジェリア。いずれも一筋縄ではいかない強豪国ばかりだ。

だが、7月13日に行なわれた国際親善試合のガーナ戦(金沢ゴーゴーカレースタジアム)において芸術的な直接FK弾と高精度なセットプレーで1ゴール1アシストと活躍したMF藤野あおばは、「むしろスペインが初戦の相手で良かった」と、意気軒昂(けんこう)だ。

次世代のエースと呼び声が高い彼女に、まずはそのグループステージ(GS)の展望を聞いた。

「当初、組み合わせについては厳しいグループに入ったなと。でも、どのグループを見てもタフですからね。スペイン(7月26日、以下すべて日本時間)、ブラジル(7月29日)、ナイジェリア(8月1日)という順番は、かえって戦いやすいと感じました。

理由は、勝ち点や得失点差を計算しながらではなく、割り切って初戦から勝ちにこだわって全力で立ち向かえるから。シンプルに2勝すれば、ほぼGS突破は確定になりますし」

では対戦国に関してどう分析しているのか。昨年の女子W杯GS第3戦(7月31日)で4-0と圧勝したスペインについてはこうだ。

「スペインは昨年のW杯王者になりましたが、GSで対戦したので、臆せずに戦いたいです。その試合で日本が得点したのは、ほとんどカウンターからでした。当然、対策はしてくると思いますけど、必ず隙は出てきます。その一瞬のわずかな隙を見逃さずに突けば、必ず勝機は生まれます」

一方、国際大会のシービリーブスカップ3位決定戦(4月10日)でPK戦の末に敗れたブラジルに関してはどのようにとらえているのか。

「ブラジルは個の力を明確に打ち出してきますね。ひとつひとつのプレーで魅せようとしたり、相手を手玉に取るような傾向が強いです。股抜きしてニヤリとされると、本当に悔しいです(苦笑)。

守備面でもマンツーマンで挑んでくるので、こちらは数的優位をつくることが大事になります。それと、1対1でも極力負けないようにするのがポイントですね」

そして、ナイジェリア。2022年10月6日、藤野がなでしこジャパンでデビューした際の対戦相手でもある。結果こそ2-0の勝利に終わったが、A代表のレベルの高さを痛感させられた。それだけに警戒は怠らない。

「それまで、アンダー世代の世界大会でアフリカ勢とは戦ってきましたけど、全然違うなって。身体能力というか、脚のバネが尋常じゃないんです。ボールを奪うときでも脚がグーッと伸びてくるし、空中戦の競り合いでは、驚異的な跳躍力を見せつけてきて。

やはり個人能力で挑んでくるので、こちらとしてはポジショニングを巧みにアングルをつくって、相手を引き出し、そこで生じるスペースをみんなで共有して一気に攻め込むのが得策かと思います」

■中2日の強行軍、カギになるのは......

昨年のW杯では試合ごとの間隔は中3~5日だったが、パリ五輪の場合は中2日と非常にタイトだ。疲労回復を含めたチーム全体としての取り組みがカギになってくる。藤野はコミュニケーションこそが重要だと力説する。

「中2日、さらに移動もありますからね。体力的には相当厳しいでしょうし、試合を想定した紅白戦などの実戦練習もそこまで多くこなせないかと。だとすれば、大事なのはコミュニケーションなんです。

東京五輪のときはコロナ禍でみんな一緒に食事をすることもできなかったそうですが、今回はできます。ピッチ上でお互いにポジションが近い選手は密に話し合えますけど、例えばFWとGKといった選手間だとやりとりは難しいんですよ。

そういった意味で、円卓ではいろいろ意見交換もできるから、食事の時間は貴重になります」

若手の藤野からすると、チームの雰囲気は昨年のW杯からさらに良くなり、まとまりを見せているという。

「主将のDF(熊谷)紗希さんを筆頭に、MF(長谷川)唯さんや上の世代の皆さんが積極的に話しかけてくれて。私からすれば、サッカーに目覚めるきっかけとなったのが、小2のときに見た11年の女子W杯決勝戦。PK戦にもつれ込んで、4人目のキッカーを務めた紗希さんは今の私と同じ20歳でした。

あの大舞台で決められたわけですから、神様みたいな存在です。最初にお会いしたときはまともに話せるか不安でした。でも、紗希さんはすごく気さくで、少しだけ天然なところもあって、チャーミング。紗希さんを中心にしっかりまとまっていると思います」

■今のサッカー少女たちに金メダル獲得の瞬間を

シュート、パス、ドリブル。どれを取っても卓抜したセンスを誇る藤野。所属する日テレ・東京ヴェルディベレーザでも主力としてチームを牽引してきた。「WEリーグアウォーズ」において、22-23シーズン、23-24シーズンと、2年連続でベストイレブンにも選出されている。

「ベレーザでは、相手の逆を突くドリブルとか、相手が予想できないパスを出すなど、トリッキーなプレーを磨いてきました。小さい頃、憧れだったのはブラジルの攻撃的MFロナウジーニョ。

他人も生かし自分も生きる創造的なプレー、楽しいサッカーをずっと目標にしてきました。ドリブルで相手を抜くとか、決定的なスルーパスも気持ちいいんですけど、やっぱり達成感があるのはゴールを決めたときなんです。だから、機軸はあくまでもゴールゲッターでありたいです」

点取り屋の気質なだけに、昨年のW杯準々決勝のスウェーデン戦(8月11日)に敗れ、8強止まりに終わったのは悔やんでも悔やみ切れないという。以来、シュート練習にはいっそう注力してきた。

「W杯で得た教訓は、少ないチャンスでも質の高いシュートできっちり得点しないと優勝には近づけないということ。前線の選手の決定率の高さが、表彰台、メダルに直結するんだと。なので、左右偏りなく、確かなインパクトで弾道のきれいなシュートを打つ練習を重ねてきました」

藤野あおば

もうひとつ、貪欲なまでの積極性というのも、この1年で開花したという。パリへの切符を手にしたアジア最終予選、北朝鮮との第2戦(2月28日)でのヘディングによる決勝弾はまさに意識改革の表れだった。

「(DF清水)梨紗さんからのクロスは、(MF清家)貴子さん狙いの軌道だったのはわかっていましたけど、自分のゴールで絶対に勝ちたいと思って飛び込んだんです。今までの自分だったら、そこまではできなかった。

でも、試合前には紗希さんたちが『ここで勝たないと、日本の女子サッカーの未来がなくなる。絶対に結果を出そう!』って。試合全体を通して私は全然良くなかったので、ここで点を取らなければ、なでしこジャパンの前線を担っている意味がないなと。とにかく無我夢中でしたね」

意地でつかんだパリへの切符。この大会では、金メダル獲得はもちろんだが、さらに自分へのテーマとして課していることがあるのだそう。

「五輪では、プレーも当然ですけど、ピッチ内外で、たくさんコミュニケーションを取って、チーム全体を先導できるようになりたいんです。殻を破って、積極的にアクションを起こしたいですね」

実はフランスに行くのが、人生初の藤野。幼少期には父親が出張先のパリ土産でパリ・サンジェルマンのユニフォームやエッフェル塔のミニチュアをくれたという。ずっと、憧れていた国。いよいよ花の都の芝に立つ。

「11年、小学生だった私たちサッカー少女は皆、W杯で頂点に立った紗希さんたちから夢と希望を与えてもらえました。今度は私たちが、これからサッカーを始める、あるいは始めようと考えている少女たちに、なでしこジャパンがパリで金メダルを獲る瞬間を見せたいです。日本女子サッカーの未来に向かってバトンをつなぐために」

●藤野あおば(Aoba FUJINO)
2004年1月27日生まれ、東京都出身。MF&FW。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。華麗なドリブルに精度の高いシュート、プレースキックが武器。年代別代表でも活躍、U-20W杯準優勝を経験。昨年のW杯では、日本人選手W杯史上最年少ゴールも記録

高橋史門

高橋史門たかはし・しもん

エディター&ライター。1972年、福島県生まれ。日本大学在学中に、『思想の科学』にてコラムを書きはじめる。卒業後、『Boon』(祥伝社)や『relax』、『POPEYE』(マガジンハウス)などでエディター兼スタイリストとして活動。1990年代のヴィンテージブームを手掛ける。2003年より、『週刊プレイボーイ』や『週刊ヤングジャンプ』のグラビア編集、サッカー専門誌のライターに。現在は、編集記者のかたわら、タレントの育成や俳優の仕事も展開中。主な著作に『松井大輔 D-VISIONS』(集英社)、『井関かおりSTYLE BOOK~5年先まで役立つ着まわし~』(エムオンエンタテインメント※企画・プロデュース)などがある。

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