読売ジャイアンツ 前半戦を首位で折り返した巨人。ヘルナンデスや丸が躍動し、大勢や大城など頼れる主力も復調したことで7月はオールスター前まで11勝4敗と好調を維持 読売ジャイアンツ 前半戦を首位で折り返した巨人。ヘルナンデスや丸が躍動し、大勢や大城など頼れる主力も復調したことで7月はオールスター前まで11勝4敗と好調を維持

真夏の祭典、オールスターが幕を閉じ、いよいよ後半戦に突入したプロ野球。開幕直後から順位が目まぐるしく入れ替わり、交流戦以降も大混戦が続くセ・リーグだが、果たして頭ひとつ抜け出す球団は現れるのか? 上位4球団を中心に、この先の戦いを展望する!

※成績は7月22日時点です。

* * *

■真夏の戦いのカギを握る〝本拠地問題〟

いよいよ後半戦に突入したプロ野球では、セ・リーグの異常事態が続いている。7月15日時点で1位から4位までわずか0.5ゲーム差。オールスター前の時点でも3.5ゲーム差の超大混戦なのだ。

「ひいきチームに優勝の可能性がある状況は面白いかもしれませんが、野球の内容や質の面ではどこもパッとせず、本命不在。しっかりと戦力が整い、滑らかな野球をすれば、昨季15.5ゲーム差で優勝したオリックスや今季のソフトバンクのように独走する球団が出てくるものです」

こう語るのは、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏。お股氏は今季同様、強者不在で大混戦になったシーズンとして、1992年のセ・リーグを思い出すという。

「92年は最終的に野村克也監督率いるヤクルトが優勝しましたが、1位から4位までわずか3ゲーム差。野村ヤクルト黄金期到来の手前で、まだそこまでの強さはありませんでした」

実際、92年のヤクルトの勝率は、セ優勝チームでは歴代ワースト2位の.531。貯金はわずか8しかなかった。この勝率を下回るのは73年、巨人がV9最後の優勝を果たしたシーズンの勝率.524だ。

「私も生まれる前なので記録で知るだけですが、優勝した巨人の貯金はわずか6。全盛期の力はなく、経験の差で優勝したのでしょう。1位と2位は0.5ゲーム差。最下位までも6.5ゲーム差でした」

混戦時に抜け出すためのカギはなんなのか?

8月以降の戦いを見据える上で、お股ニキ氏はまず、「どの球場で戦うかを考慮すべき」と指摘する。上位4球団では東京ドームを本拠地とする巨人以外、3球団とも本拠地が屋外球場なのだ。

「7月19日の神宮でのヤクルト戦で、DeNAの先発であるアンドレ・ジャクソンが熱中症で緊急降板。ほかにも体調不良の選手が続出しました。

この例に漏れず、酷暑下の屋外球場は体への負担が大きく、ドームが主戦場の巨人が有利なのは明らか。巨人は8月、最終週に屋外球場が続く以外、遠征を含めてドームでの試合が中心となるため、日程面でも恵まれています」

甲子園を本拠地とする阪神はこの点で不利になるはずだが、昨季は真夏の〝死のロード〟期間を中心に京セラドームで8戦全勝。むしろドームの利を得て優勝に近づいたのは記憶に新しい。

「今季も東京ドームとバンテリンドームを含めると、8月は屋外とドームが半々。かつての〝死のロード〟という感覚はないですが、今年は残暑も厳しい予報。9月は屋外球場で連戦が続くため、過酷な戦いになるでしょう」

9月に屋外球場での試合が続くのは広島も同様。加えて、投手力が売りの球団にとって、夏は不利な季節だ。

「暑さに加え、夏休みで6連戦が続くのも厳しい。選手層の厚さと体力が試されます。今年は〝飛ばないボール〟の傾向があるとはいえ、気温の高い夏はボールが飛びやすくなるので、広島や阪神のような投手主体のチームはますます厳しい戦いになっていくはずです」

■相次ぐ主力の離脱。4球団の課題と期待

ここからは球団別に課題や今後の期待ポイントなど、現状の戦力分析をしていこう。

【巨人】まずは前半戦を首位で折り返した巨人。7月はオールスター前まで11勝4敗と好調であり、「ここにきて投打共に戦力が整備されてきた」とお股ニキ氏は語る。先発投手では7月に3連勝を挙げた来日2年目左腕、フォスター・グリフィンの存在が大きい。

「グリフィンは、私も来日前から『広島で沢村賞を受賞したクリス・ジョンソンのようだ』と評価していた投手です。今季序盤は良くなかったですが、2軍でキッチリ仕上げてきました。5年目左腕の井上温大も成長していて、先発の駒はそろっています」

さらに、抑えの大勢が6月30日に復帰。以降、安定した投球を続けている。

「大勢は体調が万全であれば投げる球は別格。不在時に抑えを務めたアルベルト・バルドナードとうまく使い分ければ、いい状態が続きそうです」

野手陣もポジション変更を巧みに行なうことでうまくやりくりができている。

「交流戦から合流したエリエ・ヘルナンデスの存在、丸佳浩の好調が非常に大きい。また、打撃のいい大城卓三の一塁起用が当たりました。岡本和真もレフトで起用するなど戦術に幅があります。門脇誠の復調も期待したいですが、その分、ルーキーの泉口友汰が打撃でも奮闘しています」

5月に入団し、交流戦で躍動した巨人・ヘルナンデス。規定打席未満ながら打率3割をマークするなど打線を牽引 5月に入団し、交流戦で躍動した巨人・ヘルナンデス。規定打席未満ながら打率3割をマークするなど打線を牽引

巨人の課題は坂本勇人の復調だ。今季は2軍落ちも経験し、1軍復帰後もオールスター前まで15打数1安打だった。

「35歳という年齢もあるでしょうが、今季の外に広いストライクゾーンに対応できていません。少しベース寄りに立ち位置を変えるだけで変化はあるはず。内野ならどこでも守れる新外国人ココ・モンテスを獲得したのも、坂本の奮起を促す意図があるかもしれません」

広島東洋カープ 交流戦後しばらく首位をキープしていた広島。チーム防御率2.16を誇る12球団ナンバーワンの投手陣、菊池と矢野による盤石の二遊間など、守備は堅い 広島東洋カープ 交流戦後しばらく首位をキープしていた広島。チーム防御率2.16を誇る12球団ナンバーワンの投手陣、菊池と矢野による盤石の二遊間など、守備は堅い

【広島】続いて、交流戦後にしばらく首位をキープしたものの、前半戦を2位で折り返した広島。強みはもちろん、チーム防御率2.16を誇る12球団ナンバーワンの投手陣だ。

「防御率0点台の大瀬良大地、1点台の森下暢仁と床田寛樹の3本柱はどの球団も対戦したくないはず。広島は2年前、映像分析システムのホークアイを導入。そのデータの使い方もわかってきたのでしょう。また、球団OBの黒田博樹さんがアドバイザーを務めているのも大きいです」

救援陣の状態はどうか?

「昨季最優秀中継ぎ投手の島内颯太郎が2軍落ちしましたが、前半戦で6敗を喫するなど明らかに状態は良くなかった。それでも塹江敦哉らが奮起し、抑えの栗林良吏は盤石。この投手陣は今後も大崩れはしないでしょう」

では、なぜ広島は首位陥落してしまったのか?

この点に関して、「以前から好打者として推していた末包昇大が6月末に肉離れで離脱してしまった影響が大きい」とお股ニキ氏は指摘する。

左打者が並ぶ広島打線で異彩を放つ右の大砲、末包。6月末に肉離れで離脱し、チームは貧打にあえいでいる 左打者が並ぶ広島打線で異彩を放つ右の大砲、末包。6月末に肉離れで離脱し、チームは貧打にあえいでいる

「広島は打線が課題です。末包の離脱後、7月はチーム打率が2割を切り、チーム本塁打も3本だけ。左打者中心のピストル打線のため、右の長距離砲である末包がいるといないとでは相手投手に与えるプレッシャーが変わる。後半戦のどのタイミングで末包が戻ってこられるかが重要ですが、へたに焦らず、万全の状態で戻ってきてほしいです」

横浜DeNAベイスターズ 開幕から2カード連続で勝ち越し、リーグ首位に立ったDeNA。その後は最下位に転落するなど好不調が激しく、首位と2.5ゲーム差の3位で前半戦を折り返した 横浜DeNAベイスターズ 開幕から2カード連続で勝ち越し、リーグ首位に立ったDeNA。その後は最下位に転落するなど好不調が激しく、首位と2.5ゲーム差の3位で前半戦を折り返した

【DeNA】今季、開幕直後に首位を経験したDeNA。その後は好不調が激しく、首位と2.5ゲーム差の3位で折り返した。

「DeNAの浮沈の鍵を握るのはタイラー・オースティンの存在。過去4年、フル稼働したことはないですが、試合に出れば打ってくれる。巨人もヘルナンデスの加入がポイントだったように、野手で軸となれる存在がいるかどうかは大きいです」

ただ、オースティンが万全でも、不安材料は多い。

「戦力面では上位4球団で一番厳しい。打線はオースティンに加えて牧 秀悟、宮﨑敏郎らがそろい、度会隆輝も新人としてはよく対応しています。ただ、中継ぎ陣の質と層は他球団と比べて物足りない上に、守備でのミスが多すぎます」

毎年ケガや手術を繰り返すDeNA・オースティン。今季も1ヵ月ほど離脱していたが、1軍復帰後は打ちまくっている 毎年ケガや手術を繰り返すDeNA・オースティン。今季も1ヵ月ほど離脱していたが、1軍復帰後は打ちまくっている

確かにチーム打率はリーグ1位を誇る半面、チーム防御率は3点台。失策数も阪神と並んでリーグワースト。勝負どころでミスも目立つ。後半戦の切り札として緊急補強した新外国人、マイク・フォードは救世主になるか?

「映像で見る限り、打撃が硬いです。疲労骨折で離脱した筒香嘉智の穴埋め、オースティンがケガをした場合の代役という立ち位置でしょう」

阪神タイガース 日本一連覇を狙う昨季の王者、阪神。主力の野手がケガや不調で1軍に定着できず、打線は近本頼りの苦しい状況が続く。盤石投手陣も登板過多で疲労困憊か 阪神タイガース 日本一連覇を狙う昨季の王者、阪神。主力の野手がケガや不調で1軍に定着できず、打線は近本頼りの苦しい状況が続く。盤石投手陣も登板過多で疲労困憊か

【阪神】連覇を狙う阪神だが、交流戦初日に首位を明け渡して以降は苦戦が続き、4位が定位置になりつつある。

「今年の飛ばないボールと広すぎるストライクゾーンの影響を最も受けているのが阪神かもしれません。主力組の打撃が崩れた上、極端な投高打低シーズンのため、強みの投手力で差がつけられない。加えて、昨季良くなった守備もまた悪くなっています」

実際、野手は木浪聖也がケガで戦列を離れ、中野拓夢も打撃は低調。大山悠輔、佐藤輝明、森下翔太は2軍落ちを経験し、チーム打率と本塁打数はリーグ最下位だ。

昨季、恐怖の8番打者として日本シリーズ制覇に貢献した阪神・木浪。骨折で離脱していたが、オールスター前に戦線復帰を果たした 昨季、恐怖の8番打者として日本シリーズ制覇に貢献した阪神・木浪。骨折で離脱していたが、オールスター前に戦線復帰を果たした

「近本光司頼みの打順シャッフルを2回ほど試しましたが、長続きはしませんでした。外国人枠が余っているのに補強にも動かず。こうなれば大山と佐藤輝が復調できるかどうかにかかってきます」

結果、打てないしわ寄せが投手陣の負担増にもつながった。

「前半戦で3完封の才木浩人は出色の出来でしたが、長いイニングを任せすぎたせいか、最近は明らかに疲れが出ている。また、接戦ばかりとはいえ、中継ぎの桐敷拓馬に頼りすぎ。

抑えのハビー・ゲラと岩崎優も5月の段階で登板過多気味。野手出身監督が陥りがちな、投手への配慮や思いやりにやや欠けるような起用や運用が続いています」

確かに、オールスター前の時点で桐敷は41試合、岩崎は38試合、ゲラは35試合登板とフル回転だ。

「ただでさえ僅差での登板が続くため、心理的負担も大きい。本来、投手力で勝負する球団ほど、リリーフは大事なシーズン終盤に連投できるよう、力を温存しておきたいところです」

頼みの綱は、肘と肩の手術で育成契約が続いていた髙橋遥人が支配下復帰を果たしたことか。2軍では実戦復帰後最長の8回103球を投げ、復活を期待させるが......。

「夏までいい位置につけ、ほかの投手が疲れてきた頃に髙橋が復活してチームを勢いづける、という状況が理想だったはず。とはいえ、故障明けで過度な期待を寄せては負担にもつながってしまいます」

■〝大混セ〟を抜け出すカギは二遊間にあり

上位4球団とは水をあけられているが、4位とは4.5ゲーム差の5位で前半戦を折り返した中日、その後ろを1.5ゲーム差で追う最下位ヤクルトの状況も見ておこう。

「中日は近年の積極的なトレードや補強で戦力はそれなりに整いました。ただ、2軍で打率1割台の中田 翔を上げて、1軍で打率3割近く打っている石川昂弥を落とすなど、立浪和義監督のチグハグな采配やマネジメントが目立ちます」

ヤクルトも同様に采配面で問題を抱えているという。

「優勝したときは滑らかだった采配、選手運用はどこへやら。超投高打低シーズンでチーム防御率3.40の投手陣も厳しいです。ただ、ヤクルト最下位の最大の要因は塩見泰隆の離脱。何度も言うように、野手の主力が抜けると戦力は大幅に落ちます」

果たして、〝大混セ〟を抜け出すのはどの球団なのか?

「ここから主力に故障者が出るかどうかでも変わってきますが、戦力面では巨人が一歩リード。その次が広島です」

お股ニキ氏は「過去の優勝チームに欠かせない要素がこの2球団にはある」と続ける。

「優勝するチームは二遊間がしっかりしているもの。その点でも巨人と広島が抜けています。広島は菊池涼介と今季躍進した矢野雅哉のコンビが盤石。巨人も吉川尚輝が今やリーグ屈指の二塁手ですし、ショートを争う門脇と泉口も守備は悪くない。最終的には坂本勇人のショート電撃解禁も策としては十分アリです」

前述した92年の優勝が決まったのは残り1試合、73年は最終戦での決着だった。同様に今年も最後までもつれるのか? セ・リーグの夏は例年以上にアツくなりそうだ。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

オグマナオトの記事一覧