連日熱戦展開中のパリ五輪。ぜひ注目したい競技は卓球女子団体だ。早田ひな、平野美宇、張本美和と史上最強のメンバーが王者中国に挑戦。金メダルまでの道程をシミュレーションしてみた!
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■世界王者とは平野美宇が対戦を!
連日熱戦が繰り広げられているパリ五輪。日本勢が各競技で奮闘を見せている中、初の金メダル獲得に向けて期待されるのが卓球女子団体チームだ。
2012年のロンドン五輪で石川佳純、福原 愛、平野早矢香の3人で初の銀メダルを獲得して以来、2016年のリオでは石川、福原、伊藤美誠で銅、2021年に行なわれた東京五輪では石川、伊藤、平野美宇で銀メダルを獲得した。
迎える今大会はエースの早田ひなを筆頭に、2度目の出場となる平野、16歳の張本美和と過去大会と比較してもバランスのとれた最強布陣がそろった。第2シードに入り、金メダルを見据える3人。だがその前に立ちはだかるのが、卓球界に王者として君臨し続ける中国チームだ。
今回の中国でエースを担うのが孫穎莎。シングルスの世界ランキングではここ数年1位をキープして女王に君臨してきた。
2000年生まれの孫穎莎は早田や平野と同学年にあたる23歳で、前回の東京で五輪初出場を果たすと、団体戦では金メダル獲得に貢献し、シングルスでも銀メダルに輝いた。
身長が162㎝と体格に恵まれているわけではないが、それを感じさせないフィジカルを備えた選手である。女子選手の〝男子化〟が進んできたといわれる近年の卓球界を象徴するひとりであり、小柄ながら技術に加えてパワーを併せ持っており隙がない。
さて、ここで団体戦のルールだが、まずはダブルスが1試合、その後シングルスが4試合行なわれ、先に3試合を取ったチームの勝利となる。チームは3人編成で、ひとりがシングルスに2回出場。ふたりはシングルス、ダブルスに1回ずつ出場する。
その中で、孫穎莎はシングルスでの2回起用が濃厚で、初戦のダブルスの後の2番手として出場する可能性が高い。
日本女子チームの孫穎莎を相手にした戦いは、エースの早田が五輪前の時点で0勝15敗と白星を挙げることができていない。
この両者は昨年行なわれた「アジア大会」ではシングルスで金メダルをかけて戦い早田が敗戦。今年2月の「世界卓球団体戦」でも決勝で戦い、4番手で早田が敗れるなど、大舞台の要所で阻まれてきた。
そんな強敵なのだが、パリ五輪前の時点で日本では唯一、平野が孫穎莎にシングルスで勝利している。昨年夏に行なわれた「WTTコンテンダーザグレブ」の決勝で対峙した平野は、バックハンドを中心とした力強いラリーで世界女王と互角の打ち合いを演じた。
平野のもともとの持ち味であったテンポの速いラリーだけでなく、スピードを抑えて緩急も織り交ぜるなど、孫穎莎を左右だけでなく前後の揺さぶりで翻弄し、レシーブのミスを誘う姿も見られた。
団体戦3人目のメンバーとして選出された張本も昨年12月の「WTTファイナルズ名古屋」ではフルゲームの激闘を演じたが、早田と同じく勝ち切るには至っていない。中国選手の中でも現状群を抜く存在である孫穎莎に対しては、相性を考えれば平野の起用が金メダル獲得に向けて近づくかもしれない。
■王曼昱には張本で対抗!
また、孫穎莎と同じくシングルス、団体戦に出場する陳夢は前回東京五輪のシングルス金メダリストであり、中国チームでは最年長の30歳と屋台骨を担う。
代表発表前最後の大会となった5月の「サウジスマッシュ」で優勝を飾りシングルスの出場権を獲得するなど、土壇場での粘りと勝負強さが光る。選手としても攻守において穴の少ない選手であり、厳しい局面での戦いにおいても最後は勝ち切ってしまうのがこの選手のスゴさである。
そんな陳夢に対しては、2月に世界卓球の決勝で勝利した早田の存在が鍵を握る。このときは、粘り強さが持ち味の陳夢に早田も粘りを見せて対抗した。
ラリーでは我慢の展開が続く中、押し返す場面も徐々に増え始め、最後はデュースを取り切って白星につなげた。このいいイメージのままパリで戦うことができれば、エースの早田を陳夢にぶつけるという手は十分に考えられるだろう。
そして、3人目は王曼昱。シングルスで世界ランキング2位の王曼昱は176㎝と高身長で守備範囲も広く、ラリーにおいて守備で粘りながらも、攻撃面でも機を見て前に出ることもできる。今大会はシングルスの出場は逃したものの、ランキングが示すように世界でも三本の指に入る選手であるのは間違いない。
王曼昱に対して日本勢は孫穎莎と同様に苦戦を強いられてきており、厳しい戦いが予想される中でも期待したいのが張本だ。銅メダルを獲得した4月の「ITTF男女ワールドカップ」の準決勝で王曼昱と対戦しており、敗れたものの2ゲームを奪い、2-4と激闘を演じた。
昨年から今年にかけて中国トップ選手との試合を多くこなし経験値を高めてきた張本だが、この試合では先に2ゲーム差をつけられた展開でもメンタル的に崩れずに、終始攻撃的な姿勢が目立った。普段は感情をあまり表に出さない王曼昱が勝利の瞬間、喜びを爆発させたのが張本の奮闘ぶりを物語っていた。
中国選手の特徴がある中で、パリに向かうまでの戦いを考えると、孫穎莎に平野、陳夢に早田、王曼昱に張本を起用できれば個人では拮抗した戦いにつなげられる可能性は十分にある。
■ダブルスで早田を起用!
日本チームの団体戦において鍵を握るのはダブルス。第2シードで中国とは決勝まで当たらない組み合わせの女子にとって、金メダル獲得に向けての最大のテーマだ。
先に述べたように、中国は孫穎莎をシングルスに専念させて2勝を狙ってくることが予想されるため、ダブルスにおいては陳夢と王曼昱のペアが濃厚。このふたりは前回の東京五輪でも決勝で石川、平野ペアの前に立ちはだかり、日本は敗戦した。
それ以降の国際大会でもペアを組んできており、世界ランキングでも7月23日発表時点で首位に立っている。
今回の日本チームのメンバーでは平野、張本ペアが国内外の大会を戦ってきており、団体戦においてもダブルスの候補に入ってくる。
2月のメンバー確定後は「シンガポールスマッシュ」や「サウジスマッシュ」に参戦したが、共に1回戦で敗れており、パリでの本戦までにどのような連係の立て直しが図られたのかは注目したいところ。
一方で、今回唯一のサウスポーとしてメンバー入りしている早田は伊藤美誠とのダブルスで全日本選手権を5連覇し、世界卓球でもメダル獲得経験があるなど、ダブルスの名手でもある。今回のパリ五輪でも張本智和との混合ダブルスに出場しており、これまでの実績を考えてもダブルスの候補として計算できれば心強い。
平野、張本ともそれぞれペアを組んだ経験があり、中国が右・右のペアであることを考えても、左・右で組むことが可能な早田の起用は効果的だろう。
ただ、早田は混合ダブルス、女子シングルスに続いての団体戦への出場となり、自身初の五輪の舞台で連戦が続く中、準備面や体力的な部分が懸念として残る。〝最後の秘策〟として考えていいかもしれない。
卓球女子団体の1回戦は8月5日(月)から行なわれ、決勝は8月10日(土)の22時(日本時間)。激しい金メダル争いが予想される中、打倒中国へどのような布陣で挑むのか要注目だ。