優勝候補、超大型投手、地方大会でドラマを生み出したチーム、初の2部制など、夏の高校野球の注目ポイントをチェック! 優勝候補、超大型投手、地方大会でドラマを生み出したチーム、初の2部制など、夏の高校野球の注目ポイントをチェック!

8月7日に開幕する夏の甲子園。今年のキーワードは改革元年。そんな変動の大会を制するチームはどこだ!?

■ポイント① 栄冠はどこに輝く? 優勝候補校に注目

今大会、優勝争いの中心になりそうなのは、甲子園春夏連覇を狙う健大高崎(群馬)と2年連続センバツ準優勝の報徳学園(兵庫)。そして高校野球界の大横綱・大阪桐蔭の3校だ。

健大高崎はかつて「機動破壊」のキャッチフレーズで走塁面を前面に出す戦い方をしていたが、現在はドラフト候補の正捕手・箱山遥人(はこやま・はると)らパワフルな選手が目立つ。

箱山遥人(はこやま・はると)健大高崎・群馬/チームを今春のセンバツ優勝に導いたドラフト候補の大型捕手 箱山遥人(はこやま・はると)健大高崎・群馬/チームを今春のセンバツ優勝に導いたドラフト候補の大型捕手

「大がかりな野球で球場のファンを味方につけたい」(青栁博文監督)という思いから「スペクタクルベースボール」の新たな旗印を掲げるが、どの程度浸透しているかは未知数。

今夏の群馬大会準決勝では天敵・前橋育英に9回6点差を追いつかれる死闘の末、9-8で辛勝している。夏の甲子園で観衆の予想を超える戦いができれば、新フレーズが定着するかもしれない。

報徳学園は今大会の目玉であり、ドラフト1位候補にも挙がる今朝丸裕喜(けさまる・ゆうき)が最大の注目。最速151キロの角度のある快速球はひと目見ただけで「ただ者ではない」と察知できる。独特の感性の持ち主でチーム内外から「つかみどころがない」と評されるキャラクターも魅力のひとつだ。

今朝丸裕喜(けさまる・ゆうき)報徳学園・兵庫/身長188㎝と上背があり、最速151キロをマークする本格派右腕 今朝丸裕喜(けさまる・ゆうき)報徳学園・兵庫/身長188㎝と上背があり、最速151キロをマークする本格派右腕

大阪桐蔭は今春センバツ準々決勝で報徳学園に敗れたが個々の能力は突出している。今夏、「事実上の決勝戦」といわれた大阪大会準決勝では宿敵・履正社に12-2(5回コールド)で完勝した。高校通算33本塁打の主砲であるラマル・ギービン・ラタナヤケが不振と見るや、あっさりとスタメンから外す選手層は脅威だ。

甲子園春夏連続出場チームの中では、関浩一郎(せき・こういちろう)、原田純希(はらだ・あつき)と投打に軸になる存在がいる青森山田や2年春から数えて4回目の甲子園マウンドを踏む好右腕・高尾響(たかお・ひびき)を擁する広陵(広島)も要注目。

関浩一郎(せき・こういちろう)青森山田/身長186㎝、最速152キロの右腕。変化球も鋭い 関浩一郎(せき・こういちろう)青森山田/身長186㎝、最速152キロの右腕。変化球も鋭い

高尾 響(たかお・ひびき)広陵・広島/2年生の春から数えて4回目の甲子園のマウンドを踏む好右腕 高尾 響(たかお・ひびき)広陵・広島/2年生の春から数えて4回目の甲子園のマウンドを踏む好右腕

九州地区内で突出した実力を誇る神村学園(鹿児島)やセンバツでは青森山田に敗れて初戦敗退に終わったものの、しぶとく粘り強い野球ができる京都国際もダークホースになりそう。

センバツ不出場組ではドラフト上位候補の石塚裕惺(いしづか・ゆうせい)ら強打者を擁する花咲徳栄(埼玉)、藤田琉生(ふじだ・りゅうせい)、福田拓翔(ふくだ・たくと)の左右二枚看板を擁する東海大相模(神奈川)、和歌山大会決勝まで4試合連続無失点のコールド勝ちと圧倒的な実力で勝ち上がった智弁和歌山も楽しみだ。

■ポイント② 身長190cm前後の大型投手に注目

日本人の体格が欧米の水準に近づいているためか、今や身長180㎝台の高校球児でも「大型選手」とはいわれなくなった。そして今年は全国で190㎝前後の有望投手が続出している。

今大会ナンバーワン右腕と目される今朝丸裕喜は188㎝。それを超えるインパクトがあるのは、東海大相模のエース左腕・藤田琉生だ。198㎝の上背はバレーボールをしていた両親譲り。バレーボールのスパイクを打つことで、腕の振りの矯正に役立てていたという。

好投手を複数擁する智弁和歌山には197㎝、104㎏と縦にも横にも大きな中西琉輝矢(なかにし・るきや)がいる。今夏はリリーフ中心に登板し、自己最速の149キロを計測した。

以前までは「大型選手=不器用」というイメージがあったが、大谷翔平(現・ドジャース)の出現以降は薄れた感がある。藤田も「あいつはデカいから動けないと思われるのは嫌なので」と俊敏性を養ったそうだ。

■ポイント③ 来年のドラフト候補、2年生スターに注目

今大会には2025年のドラフト戦線をにぎわせそうな2年生の有望投手が多い。中でも森陽樹(もり・はるき/大阪桐蔭)、福田拓翔(東海大相模)、石垣元気(いしがき・げんき/健大高崎)、宮内渉吾(みやうち・しょうご/中京大中京・愛知)の4右腕は「ビッグ4」と呼びたい好素材だ。

森はプロスカウトの間で早くも「ドラフト1位有力」という声が挙がるほどの逸材。190㎝、86㎏とたくましい肉体で、最速151キロの快速球はチームメイトから「ピストルの弾丸みたい」と評されている。今夏の大阪大会決勝では15奪三振の快投で甲子園出場に花を添えている。

森 陽樹(もり・はるき)大阪桐蔭/190㎝、86㎏のたくましい肉体で最速151キロを誇る 森 陽樹(もり・はるき)大阪桐蔭/190㎝、86㎏のたくましい肉体で最速151キロを誇る

福田は明石ボーイズ(兵庫)から神奈川へとやって来た本格派右腕。最速150キロの快速球は打者に向かって加速する体感の球質でプロのスカウト好み。スライダー、フォークなどの変化球の精度も高い。

石垣は身長177㎝と4人の中で最もサイズは小さいが、最高球速は154キロと世代トップをひた走る。今春のセンバツ決勝で先発し、8回1失点と初制覇に大きく貢献した。今大会は故障でメンバーから外れたが、2年生左腕・佐藤龍月(さとう・りゅうが)との二枚看板は来年まで甲子園の名物になりそうだ。

宮内はベールに包まれた大型右腕だ。193㎝の高身長から最速149キロのストレートを投じる未完の大器。チーム内に最速149キロを計測した3年生左腕の中井遥次郎(なかい・ようじろう)らがいたこともあり、今夏は登板機会が限られた。甲子園でデビューを果たせるか。

■ポイント④ 低反発バット対応の打者に注目

今春、高校野球界で大きな転換点があった。金属バットの反発係数を抑えた「低反発バット」が導入されたことだ。春のセンバツでは大会31試合で出た本塁打数がわずか3本(うちランニング本塁打1本)。23年の12本、22年の18本には遠く及ばず、外野手が前寄りに守るチームが続出した。

だが、高校生は慣れるのも早い。今は低反発バットを振りこなす選手が目立っている。青森山田の主砲・原田純希は今夏の青森大会準々決勝・八戸学院光星との大一番で2打席連続本塁打をマーク。170㎝、97㎏の体形は、不朽の名作『ドカベン』(原作・水島新司)の主人公・山田太郎を彷彿とさせる。

早稲田実(西東京)の宇野真仁朗(うの・しんじろう)は高校通算64本塁打を誇る今大会の注目スラッガー。特筆すべきは高校生ながら木製バットを使いこなしていること。今夏の西東京大会でも2本塁打を放っている。

最近は宇野に限らず、「低反発より木製のほうが振りやすい」と語る高校球児が増えている。今大会は何人の選手が木製バットで打席に入るかに着目するのも面白いだろう。

■ポイント⑤ 新旧の斎藤佑樹に注目

一昨年は東北勢として初の全国制覇、昨年は全国準優勝と強烈なインパクトを残した仙台育英(宮城)。だが、今夏は身長193㎝の剛球右腕・山口廉王を擁しながら宮城大会決勝で敗れている。

王者を倒したのは、春夏通じて甲子園初出場となる聖和学園(宮城)。仙台育英戦で先発登板したのは背番号10の斎藤佑樹(さいとう・ゆうき)。2006年夏の甲子園で"ハンカチ王子"として脚光を浴びた、斎藤佑樹(当時・早稲田実)と同姓同名の右投手だった。といっても、聖和学園の斎藤は右のサイドハンドで打たせて取る投球を持ち味にする。

決勝戦の試合後には報道陣の要望を受けてハンカチで顔を拭く珍光景も見られた。"本家"である斎藤佑樹は『熱闘甲子園』(ABCテレビ・テレビ朝日系)のキャスターを務めるだけに甲子園で"新旧ハンカチ王子"の対面が実現するのか興味深い。

■ポイント⑥ "金農旋風"再び、吉田弟に注目

2018年の夏の甲子園は"金農旋風"が吹き荒れた。エース右腕・吉田輝星(現・オリックス)が獅子奮迅の投球を見せ、下馬評ではノーマークだった金足農(秋田)が決勝戦まで進出したのだ。あれから6年、吉田の弟である吉田大輝(よしだ・だいき)が2年生ながらエースとなり、今夏の甲子園出場を決めている。

現時点で最速145キロに達したストレートと「兄以上」と評判のスライダーを武器にする。厚みのある下半身と負けず嫌いな性格は兄譲りだ。

吉田大輝(よしだ・たいき)金足農・秋田/2018年に"金農旋風"を起こした吉田輝星の弟。2年生にしてエースを担う 吉田大輝(よしだ・たいき)金足農・秋田/2018年に"金農旋風"を起こした吉田輝星の弟。2年生にしてエースを担う

6年前の甲子園では、片膝を突いてさやから刀を出すようなしぐさをする「侍ポーズ」が話題になった。大輝も秋田大会でセンターの髙橋佳佑(たかはし・けいすけ)と示し合わせて"シャキーン"と侍ポーズを決めている。なお、髙橋もまた2018年甲子園準優勝メンバーの髙橋佑輔の弟であり、そのドラマ性も驚異的だ。

■ポイント⑦ 地方退会でドラマを生んだチームに注目

今夏の山梨大会準々決勝・日本航空対帝京三で「事件」は起きた。同点の9回裏、2死満塁の場面で日本航空の打者がセンター前に抜ける打球を放つ。誰がどう見てもサヨナラのシーンで、敗戦を悟った帝京三の一部の選手たちはグラウンドで泣き崩れた。

ところが、審判から「アウト」の判定が下される。日本航空の一塁走者・雨宮英斗(あめみや・えいと)が喜びのあまり、二塁ベースを踏む前に歓喜の輪に加わっていた。それを帝京三の守備陣が見逃さず、二塁でフォースアウト。サヨナラが取り消される事態になった。

日本航空にとって気持ちの切り替えが難しい展開だったが、さらにドラマが待っていた。延長11回裏、先ほどの汚名返上とばかりに雨宮が同点タイムリーヒットを放つ。最後は押し出し四球で日本航空がサヨナラ勝ちを収めた。

勢いに乗った日本航空は山梨大会で優勝し、甲子園へ。「勝負は最後までわからない」と生きた教訓を得た日本航空が聖地でどんな戦いを見せるか。

■ポイント⑧ 監督解任の逆境をはねのけたチームに注目

三重県の高校野球界で衝撃が走った。6月中旬に公立の強豪校である菰野(こもの)のベテラン監督が体罰・不適切な発言をした疑いがあるとして解任されたのだ。

30年以上にわたって菰野ひと筋で、西勇輝(現・阪神)、岡林勇希(現・中日)らを育て上げた指揮官の離脱。精神的動揺が広がっても不思議ではない中、菰野の選手たちは力強く戦い抜く。安定感のある2年生左腕・栄田人逢(えいだ・とあ)の好投もあって16年ぶり3回目の甲子園行きを決めた。

代わりに監督に就いた森田亮太監督は昨秋に放送されたドラマ『下剋上球児』(TBS)のモデルとされる白山高校での指導歴もある。教育困難校だった白山で根気強く指導にあたった経験が選手に寄り添う指導につながったのかもしれない。森田監督の指導者としての「下剋上」にも注目したい。

■ポイント⑨ 猛暑下、陰で支える審判の努力に注目

近年は高校野球の判定を巡るトラブルがネット界をにぎわせている。今夏も千葉大会決勝の木更津総合対市立船橋で守備妨害を巡る判定、島根大会準決勝の大社(たいしゃ)対開星では三塁走者へのタッチを巡る判定が物議を醸した。

だが、審判も人の子。当然、ミスはある。そんな中、高校野球界は深刻な「審判不足」に悩まされている。ある審判経験者は「精神的にずぶとくなければ、高校野球の審判なんて続けられない」と明かす。

本業の仕事をやりくりして試合日程を合わせ、誤審の恐怖におびえ、ほぼボランティアで審判を務めているのだ。審判を守るためにも、高校野球界でもビデオ判定の導入が検討される時期が来ているのかもしれない。

■ポイント⑩ 初の導入。朝夕2部制に注目

近年、夏の高校野球の試合中に足をつるなど、熱中症の症状を訴える選手が続出している。深刻な暑さ対策として打たれた新たな一手は「2部制」の導入である。

通常なら3試合を続けるところ「午前の部」の2試合、「夕方の部」の1試合に分けて開始。酷暑時間帯での試合を避けることで、選手の体調を守る狙いがある。2部制は8月7日の開幕日からの3日間試験的に運用される。果たして2部制は新たな甲子園の文化として根づくのか。

今大会は8月7日から17日間開催予定。低反発バット、判定方法、酷暑対策、歴史的な転換点を迎えそうな今大会を制するチームはどこだ!?

菊地高弘

菊地高弘きくち・たかひろ

1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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