山本萩子やまもと・しゅうこ
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。
熱く燃え上がったパリ五輪もまもなく閉幕。普段はあまり観戦しない競技でも、オリンピックになると熱心に見てしまうのが面白いですよね。
夜中に大きな声で叫びそうになったのが、男子バスケットボールの日本対フランス戦。終了間際まで4点リードで大金星かと思われたものの、残り10秒でファウルを取られて、同点に追いつかれます。延長戦で惜しくも敗れた日本代表ですが、その奮闘には多くの人が心打たれたはずです。
試合後にSNSでは「誤審では!?」という声も多く見られました。それだけ日本中が試合に熱くなっていたということでもありますが、試合後にファウルの瞬間を切り取った写真を見ると、これは確かに難しい判定だなと感じました。ビデオ判定である「チャレンジ」の権利が残っていたら......。我がヤクルトの、翌日の試合でのチャレンジの権利をひとつ差し上げたい......などと、あまりの悔しさゆえに考えていました(笑)。
これはオリンピックに限らず言えることですが、スポーツの試合において、熱くなるあまり選手が審判の判定に不満を示すシーンや、ファンの間でも判定をめぐって議論がなされることがあります。
審判が人間である限り、誤審はスポーツにつきものです。過去にも誤審で試合展開が大きく変わり、禍根を残したことがたくさんありました。
しかし、近年ではビデオ判定やAIなどを導入し、それを少しでも減らす努力がなされています。MLBでもマイナーではストライクゾーンを自動判定する装置が導入されていますし、審判のジャッジに異議を唱えたいときの「リクエスト」という制度は多くのスポーツで導入されています。
これは、繰り返されてきた誤審という悲劇を減らすための知恵でもありますよね。リクエストはその際たる例です。人間の審判だけでは判断できないことを、テクノロジーでカバーする。これは産業革命を経て、人間が辿ってきた歴史そのものと言えるのかも。
とはいえ"一軍"では、世界初となるAI審判を導入した韓国プロ野球で「すっぽ抜けがストライク判定される」という事件も起きています。まだまだ問題点も多いとのことですが、この先、もっとテクノロジーが進化したときにスポーツがどう変わっていくのか、ワクワクしますね。
人間に話を戻すと、オリンピックを見ていて思ったのは、「審判のレベルにも差があるのかもしれない」ということでした。たとえば、"柔道大国"フランスと"柔道祖国"日本が対戦するときは、それ以外の国から審判を出す必要がありますが、裾野の広さが審判のレベルに直結するような気がしたんです。
野球でいうと、日本の国民的スポーツのひとつですから、プロを経て審判になる方もいます。また、プロ経験がなくても審判を目指そうとする方もいらっしゃいます。
審判とはプレーヤーのセカンドキャリアだけではなく、夢を持てる職業として成り立っています。実際、私の幼なじみもプロ野球の審判を夢見て、養成学校に通っているそう。この事実は審判のレベルを底上げする大きな力になっているのだと思いました。
メジャーでも、野球経験のない人がコーチになることもありますし、必ずしも「いい審判」は「いい選手」である必要はないわけですよね。スタジアムに行くと、選手の試合出場数などの記録表彰に立ち会うことがありますが、審判も表彰されることがあります。多くの試合をさばいてきた記録は、選手と比べても遜色ないからです。
かつて番組をご一緒していた黒木知宏さん(ロッテ一軍投手コーチ)は、ある審判の方を「その人が球審の日はいい結果が出ていた」とおっしゃっていました。それはストライクゾーンの判定だけでなく、「ナイスボール!」の掛け声や仕草、マウンドへの返球の仕方ひとつとっても、なんだか心地がよかったんだとか。
こういう話はあまり表に出ないですよね。失敗ばかりがやり玉にあげられ、常に正しくて当たり前。審判というのは多くの人から文句を言われる大変なお仕事なのでしょう。
審判という仕事のつらさや、人間の審判だからこそ生まれた名シーンの数々もあるかもしれないことを心にとめて、普段からリスペクトをもって試合を見たいと思います。それでは。
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。