町田は攻略されたのか? 福西崇史がフカボリ! 町田は攻略されたのか? 福西崇史がフカボリ!

不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第105回のテーマは「失速気味のFC町田ゼルビアはついに攻略されたのか」。現在首位の町田が直近4試合で1勝1分2敗と苦しんでいる。2巡目に入って対策が進み、猛威を振るった町田のサッカーにも攻略法がついに見つかったのか。町田の現状とリーグ終盤に向けた展望を福西崇史が解説する。

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今季、J1初挑戦のFC町田ゼルビアは開幕から好調で、第27節を終えた時点でも勝ち点53で首位につけています。ただ、直近では第24節の横浜F・マリノス戦に1-2で敗れ、リーグ中断再開後もセレッソ大阪戦でスコアレスの引き分け、湘南ベルマーレ戦は0-1の敗戦。先日のジュビロ磐田戦で4-0と大勝して、4試合ぶりの勝利となりました。

ここ4試合で1勝1分2敗と勝ち点を取りこぼすことが増えた町田に対して「ついに町田が攻略されてきたか」という見方をする人もいるかもしれません。でもまだ"対策"はされてきたけど、"攻略"まではされていないと思います。

町田はやることがはっきりしていて、守備では前からのハイプレスではめに行き、奪ったボールを素早くショートカウンター、あるいは長身FWオ・セフンにロングボールを当てて相手を押し込み、セカンドボールを拾ってゴールに迫る。

現状はまだそのやりたいことがはまっているか、はまっていないかだけだと思います。町田は先制できれば勝てると思いますが、そこで粘られると難しい展開を強いられる傾向があります。優勝するチームは、粘られてもここぞというタイミングにチーム全体でギアを上げて勝ち点を取りにいけるものです。

たしかに2巡目になって確かに対策はされています。町田が苦戦する試合も増えてきました。それでも「町田が攻略された」と言えるほど、なにもできない試合はないし、順位もいまだに首位です。

ただ、町田が一つ抜けているかといえば、それもまた違うと思います。町田はすでに6敗もしているにもかかわらず首位で、サンフレッチェ広島も10分けしているのに2位。そこから下も5位のヴィッセル神戸まで7ポイント差しかありません。上位陣が揃って勝ち点を落とすことが何度もあり、勝ち点差はなかなか縮まらない。

全体の結果を見ても今季はとくに引き分けが多く、6位横浜FMから18位磐田までたったの10ポイント差。例年と比べてもより力が拮抗して、第27節を終えても「今季はこのチームが強い」とはっきりと言えるチームは一つもないと思います。

そのなかでも町田がわずかに抜けて首位にいるのは、明確なスタイルがあるので結果が出ないときでも迷うことなく、割り切ったサッカーができる。それを黒田剛監督が我慢強く続けられるようマネジメントできていることが大きいと思います。

黒田監督は失敗してもいいから今季はこのスタイルを貫いて、それで結果が出たら良しだし、結果が出なかったら次に向けた改善ができる。なによりブレることが一番良くないと言います。それがうまくいって今は結果が出ていますが、結果が出なくなったらスタイルを維持しつつ、改善策を考える。シンプルですが、このブレないマネジメントは多少結果が出ないときでも迷走しない大きなポイントだと思います。

また、他のチームと比べて、誰か一人のタレントに強く依存していないことも挙げられます。例えばオ・セフンは確かに強力だけれど、彼がいないときはミッチェル・デュークがいます。誰が出ても町田のスタイルに沿って振れ幅が小さくチームとしてのパフォーマンスを発揮できるので、大きく崩れることがない。

それから、チームのスタイルに合った選手を確実に補強できていること。この夏の補強でもブリストル・シティに移籍した平河悠に代わって日本代表の相馬勇紀を加え、そのほかにも杉岡大暉、中山雄太、白崎凌兵と、実力と経験があってスタイルにも合う選手を次々と獲得しました。フィールドプレイヤーが4人も変わる、しかもその多くが代表クラスとなれば前半戦とはまた違うチームになるので、対策が進んだとしても前半戦の対策でははまらない可能性もあります。

そもそも今季はクラブとしてはJ1初挑戦ではありますが、シーズン前の補強で昌子源、谷晃生、仙頭啓矢、柴戸海らJ1での経験と実力を持った選手を数多く補強し、J1で勝てるチームを整えてきました。プレミアリーグのマンチェスター・シティやニューカッスルのように、今の首位という順位は、投資に見合ったある意味当然の結果だと思っています。

Jリーグにこれだけ大胆に大金を投じ、それをちゃんとマネジメントできる監督を招聘して現場とフロントの連携が取れた的確な補強ができるクラブはそうありません。むしろ投資に見合った結果が出せないクラブは多いです。そのなかで町田の補強の的確さは強みになっています。それを羨ましく思う現場の人は多いと思います。

それでも繰り返しになりますが、力が抜けたチームはありません。上位5チームの勝ち点差は7で直接対決も残っているので、まだどこが優勝するかはまったくわからない状態です。これからどんな展開で最終盤に向かっていくのか、楽しみながら注目してほしいと思います。

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福西崇史

福西崇史ふくにし・たかし

1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

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