里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第17回では、「夢をつかむために意識すべきこと」に関する考え方に迫ります!

「夢をつかむために意識すべきこと」について語った里崎智也氏(右)と五十嵐亮太氏(左) 「夢をつかむために意識すべきこと」について語った里崎智也氏(右)と五十嵐亮太氏(左)

■「毎日がチャンスであり、同時に試験でもある」

――前回は「いくつになっても、夢は持ち続けていたほうがいいのか?」という話題で盛り上がりましたが、夢をつかむために意識していたほうがいいこと、気をつけたほうがいいことがあればぜひ伺いたいと思います。

五十嵐 以前も言ったけど、チャンスをつかむためには常にアンテナを張って、いろいろなことに対するセンサーを研ぎ澄ますことが一番なんじゃないですかね。

里崎 本音を言えば、僕の場合は「チャンス」という意識、要は概念がほぼないですね。だって、あえてチャンスという言葉を使うとすれば、毎日がチャンスの連続であり、試験の連続だと思っているから。

五十嵐 毎日の仕事だったり生活だったり、そういうことがチャンスであり試験であるということ? 「チャンス」というのはわかるけど、「試験」ってなんですか?

里崎 僕らって、小学生の頃からずっと野球をやってきたけど、毎日毎日練習をしてレギュラーの座をつかんで、週末には試合をやって勝ったり負けたりしながら少しずつ強くなっていって、そこからいろいろな大会に出て優勝を目指して......。それが中学時代も、高校時代も、それ以降もずっと続いてプロ野球選手になったわけだけど、それって、毎日が試験だったようなものでしょ? でも、結果的にプロ野球選手になれたから、それはある意味では「チャンス」でもあったと言えるし。

五十嵐 毎日が試験って、ずっと追い詰められているようで、なんかイヤだな(笑)。まぁ、確かにその考え方もわかるけど、それだと明確に「今がチャンスだ」という瞬間がわかりづらくないですか?

里崎 わかりやすいかどうかはこの際、あまり関係ないと思うけどな。

五十嵐 僕が考えるチャンスというのは、もっとハッキリと「今がチャンスの時だ」っていう瞬間のことだと思います。僕の場合、プロではずっと中継ぎを任されていたけど、起用方法を見ていればチーム内の序列がよくわかって、初めの頃は大差で負けている場面での起用が続いていた。そこで実績を残したことで僅差での起用となって、やがて勝っている試合の大事な場面を任されるようになる。その頃、「今がチャンスなんだな」って理解できたし、それが本当のチャンスだという気がしますね。

■「今日失敗すれば、明日はない」という意識

里崎 現役を引退してもう何年も経ったけど、僕は今でも「毎日が試験だ」という考えは持ってるよ。ということは、逆に考えれば「毎日がチャンスだ」って言えるのかもしれないけど。

五十嵐 今、サトさんはいろいろな仕事をしているけど、それも「チャンスであり、試験である」と考えて臨んでいるんですか?

里崎 もちろん。今、この瞬間もそう。亮太との対談もまた、僕にとってはチャンスであり、試験でもある。そんな思いは強いけどね。プロ野球の解説の仕事も、毎日が試験のようなもの。だからどうしても「チャンス」という概念が希薄になっているんだよね。

五十嵐 サトさんの言う「試験」というのは、ひとつひとつの仕事に全力を尽くすという意味では、プロとして正しい姿勢だと思います。思いますけど、やっぱり、それは「チャンス」とは別のものだという気がしますね。

里崎 これも以前の話に戻るけど、それが「キャリア組とノンキャリア組の違い」と言えると思いますね。僕のように看板も実績も持たないノンキャリア組の場合は、毎日が試験のようなもので、ひとつひとつのテストをクリアしていくしかない。だから、それは同時にチャンスであって、すべてに気を抜けないし、手も抜けないもの。そんな意識は昔も今も変わらずに持っているな。

五十嵐 やっぱり、それは生きづらいですよ。「毎日が試験」だなんて、学生時代のことを思い出してすごくイヤな気持ちになる(苦笑)。

里崎 でも、「毎日が試験状態」が続いていると、それが当たり前のことになるから、意外と「苦しいなぁ」とは思わなくなるよ。学生時代に苦しかったのは、3カ月に一度程度、中間テストや期末テストがあったから、その時期が近づいてくると憂鬱になっていただけで、毎日試験だったら特に気にならなくなるから(笑)。

五十嵐 サトさんはそうかもしれないけど、僕はイヤです(笑)。じゃあ、毎日の試験で結果を残し続けてきたから、今のサトさんがあるということですか?

里崎 もちろん。昨日の仕事で「里崎は面白い」となったから、今日の仕事があるわけで、今日の試験に失敗すれば、明日の仕事もなくなっていくわけだから。その積み重ねで、今の状態がある。それは間違いないと思いますね。だって、僕よりも実績のある解説者なんてたくさんいる中で、「里崎じゃなきゃダメだ」と思ってもらうためには、試験をクリアしていないとダメでしょ? これは僕に限らず、どんな職業の人にも当てはまることだし、フリーランスの人なんか、特にそうでしょ。

■ダメならダメで、すぐに次に向かう潔さを

五十嵐 じゃあ、もしも試験に失敗してしまったらどうしますか? もう、取り返しがつかないことなのか、それともリカバリーは可能なのか?

里崎 相手から求められていないのなら、もうあきらめるしかないよね。違うところに行くしかない。だって、第一志望の会社に落ちたら、第二志望の会社に入るじゃない。いつまでも第一志望の会社にこだわって、「どうしても入社したいんです」って力説したって、入社試験に落ちたのは現実なんだから。「君の情熱に負けたよ、入社しなさい」ということにはならないわけだから。

五十嵐 そのあたりは見切りの速さも重要だし、ある種の潔さというのか、割り切りや見極めも大切になってきますね。可能性が少ないことにいつまでもこだわり続けていても決していい結果は生まれないと思うから。

里崎 前回、「夢には賞味期限がある」と言ったように、ひとつがダメなら、また別の可能性を探すというのはアリだよね。今はSNSがあるから自分から発信できる手段もあるし、昔のような守りの姿勢ではなく、攻めの姿勢で挑戦することもできるわけだから。昭和、平成は受け身であり守りだったけど、令和は自分から攻めていくこともできる。この武器は積極的に使ったほうがいいでしょ。

五十嵐 そのためには自分のやりたいことや、できることを積極的に発信したり、関心があることを自らアピールしたりすることも大切になってきますね。サトさんは、飽きられないために意識していることとかありますか?

里崎 僕の場合、まず考えるのは「自分が楽しめるかどうか?」ということ。そして、「僕が楽しいのなら、周りも楽しんでくれるはず」っていう意識を持っているかな。

五十嵐 それは、僕もまったく一緒。まずは自分が楽しくないと、見てくれている人に楽しんでもらうことはできないと思っているから。ただ、たまに「こんなに自分だけ楽しんでもいいのかな?」って不安になることもあるけど(笑)。

里崎 僕の場合、そんな不安は一切ない。とにかく「自分が楽しければ、みんなも楽しいはずだ」って信じているから(笑)。

五十嵐 そこまできっぱりと言い切れるサトさんはさすがだよ(笑)。僕の場合は、「単なる自己満足じゃないのか?」って思いが、やっぱり頭のどこかにはあるから。

――さて、議論も盛り上がってきましたが、そろそろ時間となりました。次回は、たった今五十嵐さんが口にした「自己満足に陥らずに自分のやりたいことをやるライフハック」について伺いたいと思います。また次回も、よろしくお願いします。

里崎五十嵐 了解です。次回もよろしくお願いします!
(連載第18回に続く)

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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