188㎝、112㎏の巨体から繰り出すパワフルな打撃が持ち味の末包。チーム屈指の長距離砲だ 188㎝、112㎏の巨体から繰り出すパワフルな打撃が持ち味の末包。チーム屈指の長距離砲だ

ペナントレースはすでに4分の3を消化し、"最終コーナー"を回って佳境に入ったプロ野球。果たして、セ・パで繰り広げられる白熱の上位争いを制するのはどの球団なのか? 野球評論家・お股ニキ氏が徹底展望する!【プロ野球セ・パ上位争いワイド①】

■3球団の戦力は拮抗している

7月15日時点で広島、巨人、阪神、DeNAが0.5ゲーム差にひしめき合っていたセ・リーグだが、そこからDeNAが大きく離され、三つどもえの戦いへ。現在は広島と巨人が激しく競り合い、阪神が追いかける展開となっている。ちょうど1ヵ月前の『週刊プレイボーイ』本誌記事で「巨人と広島がリードする」とこの状況を予見していたのは、本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。

「結局、ペナントレースは総合力勝負。守備や中継ぎが安定せずに脱落したDeNAのように、相対的に見てどこか欠けているチームが徐々に決壊し、相対的に戦力が整っているチームが少しずつ勝ちを拾っていく。阪神が想像より持ちこたえていて、現状、3チームは拮抗しています」

投手力では、大瀬良大地、森下暢仁(まさと)、床田(とこだ)寛樹の先発3本柱をそろえる広島がチーム防御率2.23と若干リードするものの、阪神2.42、巨人2.55と大きな差はない。

「投手力は先発、抑え共に3チームとも見劣りしません。広島の先発陣は軒並み、打者の手元で動く球に力強さがあります。阪神も青柳晃洋、伊藤将司の不調はありながらも、投手陣の駒は充実している。

巨人投手陣は昨季の壊滅的な状況からよく立て直しました。戸郷翔征(とごう・しょうせい)は決して万全ではない中でも連続完封する勝負強さがあり、今季復活した菅野智之の助言と存在感が投手陣を奮い立たせています」

そんな投手陣を支える野手の守備力において、他球団よりも充実しているのが広島だ。

「巨人も守備は鉄壁ですが、広島はセカンド菊池涼介に加えて、今季ブレイクしたショート矢野雅哉が素晴らしく、届くわけがないような打球にも届いてしまう。

守備で試合の流れを変えることができる選手で、矢野と菊池の守備力で勝利、という試合もありました。阪神は12球団ワースト失策数の佐藤輝明を筆頭にミスが多い。チームの士気にも影響を与えるレベルです」

驚異的な守備力でショートのレギュラーをつかんだ矢野。華麗なグラブさばきで勝利に貢献 驚異的な守備力でショートのレギュラーをつかんだ矢野。華麗なグラブさばきで勝利に貢献

一方、攻撃力では巨人が若干リードしているという。

「巨人は岡本和真がまだ物足りないものの、坂本勇人がようやく復調。構えが良くなり、打球も伸びてきました。阪神も前半戦不調だった佐藤と森下翔太がようやく打ち出して8連勝。ただ、佐藤は守備の悪さが打撃にも影響を与えかねない状況です」

ここまで両リーグワーストの19失策を記録している佐藤。守備向上でチームを助けられるか ここまで両リーグワーストの19失策を記録している佐藤。守備向上でチームを助けられるか

では、それぞれの不安要素と解決策も見ていこう。広島は打撃力が課題で、得点数はリーグ5位と伸び悩む。

「長打のない左打者ばかり並ぶため、怖さがありません。ただ、8月になって右の大砲である末包(すえかね)昇大が復帰。復帰当初は当たりが出なかったものの、いるだけで打線の怖さが違います。たとえるなら、サッカースペイン代表に決定力のあるセンターフォワードが加わり、それまで延々とパス回しだけだったチームに決定力が加わるイメージです」

巨人は打線を牽引していたエリエ・ヘルナンデスが8月11日の中日戦で左手首を骨折。今季絶望と報じられた。

「交流戦以降、チームが上向いたのは明らかにヘルナンデス効果。それだけに痛いですが、後半戦から加入したココ・モンテスが打率.347と好調。ヘルナンデスと同じく横振りで、長打力はないものの、ふわっと柔らかい打率が残るスイングです。

内野ならどこでも守れるという触れ込みでしたが、そんなヘルナンデスをレフトで起用した阿部慎之助監督の柔軟性も光ります」

交流戦以降、活躍を続けてきたヘルナンデス。8月11日の守備時に骨折し、戦線離脱となった 交流戦以降、活躍を続けてきたヘルナンデス。8月11日の守備時に骨折し、戦線離脱となった

阪神の不安要素は中継ぎ陣の登板過多だ。防御率1点台で奮闘する桐敷拓馬は両リーグ最多の52試合、石井大智も37試合に登板している。

「岡田彰布監督は目先の勝利に焦りすぎている印象です。桐敷、石井共に素晴らしい投球ですが、勝負の9月を前に明らかに投げすぎ。かといって若手を試さず、状態の良くない伊藤を中継ぎに回すなどチグハグさが目立ちます」

従来の戦力にこだわりすぎるのは野手でも同様だ。

「捕手は梅野隆太郎も坂本誠志郎も打撃、守備共に本調子ではないのに、かたくなにふたりを固定。中川勇斗など若手にもいい捕手がいるのにチャンスを与えない。投手起用同様、将来の戦力を育てず、去年優勝した戦力で必死に食いつないでいます」

戦力が拮抗する3球団だが、気になるのは今後の直接対決の日程だ。巨人は9月に広島と6試合、阪神とは2試合を残すが、すべて相手の土俵での戦いとなる。今季ここまで広島戦を勝ち越す巨人だが、マツダスタジアムでは1勝4敗2分けと苦戦。阪神とは五分の成績ながら、甲子園では3勝6敗1分けとこちらも負け越している。

「巨人にとっては優勝のために乗り越えるべき試練です。西日本の球場ではいつも打線が振るわないので、割り切って岡本レフトなどは諦め、守備重視の布陣で挑み、接戦に持ち込むなどの工夫があってもいいと思います」

そして、各球団の主軸打者が仕事を果たせるかどうかも、最後の大きな鍵といえる。

「巨人は不甲斐ない状態が続く4番の岡本が本来の姿を取り戻せるかどうか。広島なら末包、阪神なら大山悠輔。投高打低のシーズンだからこそ、最後は主軸が打てるかどうかで差が生まれるはずです」

*成績は8月18日終了時点

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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