キャプテンとして攻守で奮闘したMF藤田譲瑠チマ。以前からプレミアリーグへの移籍希望を公言している
56年ぶりのメダル獲得を期待されたパリ五輪。グループリーグを怒濤の3連勝で通過するも、金メダルを獲得したスペインに準々決勝で敗退。その激闘の中心にいたシント=トロイデンの3人の胸に去来する思いとは......。新シーズンを戦うベルギーまで追いかけた。
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■細谷のゴールが認められていれば
パリ五輪が終わり、欧州サッカーの各国リーグが続々と開幕している。中でも7月26日(現地時間。以下同)にいち早く新シーズンがスタートしたのがベルギーリーグだ。
五輪代表の主力だった藤田譲瑠(じょえる)チマ、山本理仁(りひと)、小久保玲央(れお)ブライアンの3人が所属するシント=トロイデンは第4節終了時点で0勝1分け3敗のスタート。
藤田と山本はスペイン戦から中8日、8月11日の第3節アントワープ戦(●1-6)にフル出場。移籍直後でプレシーズンに参加できていなかった小久保も17日の第4節デンゼル戦(△3-3)に先発し、ベルギーデビューを果たした。
世代別代表としては最後の大会を終えた3人は、それぞれが次なる目標に向かって新たな一歩を踏み出している。
「(五輪の後)休んだのは1日だけですね。スペインに負けた直後はさすがに落ち込んでいましたが、その夜みんなでビールを飲みながらワイワイやって(五輪は)おしまい。僕ら3人は翌朝5時には出発して帰ってきました」
アントワープ戦後の取材エリアで、スペイン戦後の様子をそう話した山本。決勝のスペイン対フランスはテレビ観戦したそうで、あらためて五輪を振り返ってくれた。
「やっぱり(優勝した)スペインは強かった。でも、僕らもスペインに対してボール支配率では五分五分に近いところまで持っていけたと思うし、もし(細谷)真大(まお)のゴールがVARで取り消されていなかったら......という思いはあります。
もちろん(日本戦で2ゴールした)スペインのフェルミン・ロペスのように、チャンスでいかに決めるかっていうことが本当に大事で、些細(ささい)なことのようでそうした差が縮まりそうでなかなか縮まらないんですけどね」
藤田と共に日本の中盤を支えたMF山本理仁。パラグアイ戦、マリ戦とゴールを奪い、得点能力の高さも見せた
一見互角にも見えたスペイン戦も、終わってみれば0-3と厳しい現実を突きつけられた。それでもパリ五輪出場が、山本にとって財産となったのは確かである。
「経験値という意味では大きかった。個人的なことで言えば、僕はこれまで『ボールタッチが柔らかい』とか『キックがいい』とか、うまい選手と言われてきましたが、そうじゃない部分を見せられたのは成長した証しかなと。
大会を通して2点取れましたが、(泥くさくゴール前に詰めて決めた)マリ戦の決勝弾は、今までになかった形ですし、特にうれしかったですね」
五輪代表を主将として引っ張ってきた藤田は、グループリーグで感じた手応えもあったが、「今はベスト8で敗れた悔しさしかない」とした。
「スペイン戦も勝てる可能性はあったと思います。でも、なんだろう......。チャンスがあったかと聞かれるというほどあったわけじゃなく、流れの中で決定機になったのは(細谷)真大のゴールがオフサイドになったやつと、後半に真大が相手からボールを奪ってGKと1対1になったやつくらいで......。
ほとんどの時間帯は、自分たちがボールを持っていても持たされていたというか、相手は『別に今は取りにいこうとしてないよ』的な印象があった。相手ボールのときも本当に奪い返すのが大変で......。縦パスとかも簡単に入れられるなどレベルの高さを痛感しました」
スペイン戦については、山本も藤田も触れたように1点ビハインドの前半40分にペナルティエリアの中でボールを受けた細谷が振り向きざまのシュートでネットを揺らしたものの、VAR介入の末、足の一部がわずかに出ていたとしてオフサイドと判定された。あれがゴールと認められていればと思ったサッカーファンも多いだろう。
「でも、足が出ていたので、ルール上はオフサイド。あの判定に『なんでだよ!』みたいな怒りはないですし、スペインはいいチームでした。もちろん、多少はショックもありましたけどね(苦笑)」
■9月の最終予選にも選ばれたらいいなと
GK小久保はパリ五輪最終予選を兼ねたU-23アジア杯から好守でチームの窮地を幾度も救ってきた。本大会でもスペインとの準々決勝こそ3失点を喫したものの、グループリーグでは3戦無失点とベスト8進出の立役者となった。
チームで唯一、全4試合にフル出場し、大会中はその堅守ぶりからSNS上で"国防ブライアン"という呼称が生まれるなど話題になった。
「それはネットで見ました。そう言ってもらえるのは、やっぱりうれしいですね」
堅守が光った
ただ、昨季まで5年間所属していたベンフィカではトップチームでの出場は一度もなく、五輪にかけていた思いも人一倍だっただけに敗戦のショックも大きかったようだ。8月14日にはシント=トロイデンで約1ヵ月遅れの入団会見に臨み、こう話している。
「この2年半積み上げてきたものがスペインには通じず、悔しい気持ちです。ただ、今はその差をどう埋めるか考えるよりも、毎日練習するしかないかなと。スペイン戦の失点シーンもまだ見返していないですし、今は後ろを振り返るよりも、前を向いていきたいと思っています」
9月には2026年北中米W杯に向けたアジア最終予選がスタートする。近年、A代表では絶対的な守護神が不在で、五輪で評価を高めた小久保を推す声も増している。小久保自身すぐにでもプレーしたい気持ちは強いとする。
「A代表でプレーしたい気持ちは以前から持っていました。そのためにシント=トロイデンでいいプレーをして、アピールしていきたい。将来はW杯にも出たいですし、9月や10月の活動に選ばれたらいいなとも思っています」
一方、小久保と共に代表入りの期待の声が多い藤田は慎重というか、「まずはクラブでいいプレーをすること。その後に代表はついてくるもの」と語っている。
「自分の考えとしてはクラブで活躍しなければ、代表はないと思うし、代表に入るためにクラブでサッカーするわけでもない。
なので、まずはシント=トロイデンで自分の納得するプレーをすることが先。その上で、必要な選手として選ばれたら喜んで行こうとは思っています」
もちろん、山本もA代表を狙うひとりだ。
「今後はそれ(A代表)しかないんで。そのためにはシント=トロイデンで見せるしかないんで頑張ります」
新たな目標に向けて動き出した3人に注目したい。