藤田琉生(東海大相模・神奈川)身長198㎝の超大型左腕。今夏は最速149キロをマークした 藤田琉生(東海大相模・神奈川)身長198㎝の超大型左腕。今夏は最速149キロをマークした

波乱の多かった今大会。そんな中でスカウトの目に留まったのは? 未来のスター候補を今から要チェック。次の楽しみは秋のドラフトだ!

■有望選手擁するチームが敗れる波乱

甲子園球場での取材中、セ・リーグの某球団スカウトから話しかけられた。

「今年は目ぼしい選手が少ないんじゃないですか?」

返答に困ってしまった。好選手はいるものの、「こんな選手がいたのか!」という新鮮な発見は少なかった。

* * *

京都国際の初優勝で幕を閉じた夏の高校野球は波乱に満ちた大会になった。健大高崎(群馬)、報徳学園(兵庫)、大阪桐蔭、花咲徳栄(埼玉)、智弁和歌山といった優勝候補が早期に敗退。一方で報徳学園を破った大社(島根)は3回戦で早稲田実(西東京)との壮絶な名勝負を制してベスト8に進出。旋風を巻き起こした。

大会としては大いに盛り上がりを見せたものの、冒頭のスカウトの発言があったように、プロのスカウト陣の反応はいまひとつに感じられた。

大会前に大きな注目を集めていたのは、投手なら今朝丸裕喜(けさまる・ゆうき/報徳学園)、打者なら石塚裕惺(いしづか・ゆうせい/花咲徳栄)の2選手。共にドラフト上位候補に挙がっており、今大会でのアピール次第で押しも押されもせぬドラフト1位候補に浮上する可能性があった。

しかし、結果はふたりとも初戦敗退に終わった。今朝丸は188㎝の長身から最速151キロの快速球を投げ込む本格派右腕で、今春センバツでは準優勝に輝いた。だが、今夏は大社の勢いを止められず、7回途中で降板して敗戦投手に。パ・リーグのある球団スカウトはこんな本音を明かした。

「今朝丸はいいピッチャーだけど、『怪物』という感じはしない。毎年ひとりはいる好投手という感じだよね。つかみどころのない性格と聞いているけど、マウンドに立つと考えて投げていることは伝わってくる。サインプレーもしっかりやるし、頭の悪いピッチャーではないよ」

高評価は揺るがないものの、「是が非でもドラフト1位で獲らなければいけない」という温度感はスカウト陣からは感じられなかった。

今朝丸裕喜(報徳学園・兵庫)188㎝の長身から最速151キロの快速球を投げ込む本格派右腕 今朝丸裕喜(報徳学園・兵庫)188㎝の長身から最速151キロの快速球を投げ込む本格派右腕

石塚は高校通算26本塁打の強打者で、プロ側の需要が高い、右投げ右打ちの遊撃手だ。だが、今夏は伏兵の新潟産大付に初戦で敗れ、石塚は4打数1安打に終わっている。

それでも、好走塁で鮮烈な印象を残しており、「意外と足が速いことがわかったのは収穫」と語るスカウトもいた。将来的には浅村栄斗(楽天)のように広角に長打が打てる内野手に育つ可能性がある。

石塚裕惺(花咲徳栄・埼玉)高校通算26本塁打の強打者でプロの需要が高い、右投右打の遊撃手 石塚裕惺(花咲徳栄・埼玉)高校通算26本塁打の強打者でプロの需要が高い、右投右打の遊撃手

今朝丸、石塚の投打の目玉が消化不良に終わる中、強いインパクトを残したのは藤田琉生(ふじた・りゅうせい/東海大相模・神奈川)と宇野真仁朗(うの・しんじろう/早稲田実)だ。

藤田は身長198㎝の超大型左腕で、今夏の甲子園はベスト8に進出。両親は共に180㎝超の長身で、母・賢枝さんは元NECのバレーボール選手だった。今夏は最速149キロをマークし、右打者の膝元に鋭く曲がり落ちるナックルカーブもさえ渡った。

初戦の富山商戦では7回13奪三振の快投を見せ、「今朝丸と同等」と高い評価をするスカウトもいた。登板前にはブルペン横で華麗な側転を披露するなど、大型投手特有の鈍重さは皆無。50m走5秒96という運動能力の高さも将来性豊かだ。

宇野は高校通算64本塁打を放つ強打者だが、特筆すべきは今年に入ってから木製バットを振りこなしていること。

今春から高校野球界で導入された低反発の金属バットよりも木製バットのほうが、相性がいいことから、大谷翔平(ドジャース)も使用するチャンドラー社製の木製バットを使用している。今夏の西東京大会では2本塁打を放ち、甲子園に乗り込んできた。

宇野真仁朗(早稲田実・西東京)高校通算64本塁打を放つ強打者。すでに木製バットを振りこなす 宇野真仁朗(早稲田実・西東京)高校通算64本塁打を放つ強打者。すでに木製バットを振りこなす

甲子園初戦の鳴門渦潮(徳島)戦ではレフトフェンス直撃の3点二塁打を放つなど、3安打3打点の大暴れ。しかも、レフト前ヒットで一気に二塁を陥れるなど、好走塁でも観衆を沸かせている。

宇野が憧れている選手は山田哲人(ヤクルト)ということだが、スピード感のあるプレースタイルはまさに山田と重なる。ただ、2回戦以降はノーヒットに終わったムラっ気がどう評価されるかというところだ。

甲子園春夏連続出場だった強肩捕手の箱山遥人(はこやま・はると/健大高崎)や総合力が高い好右腕の高尾響(たかお・ひびき/広陵・広島)は、いずれも甲子園1勝を挙げて敗退。箱山は持ち前のスローイングで何度も好守備を見せた一方、打撃面は2試合で1安打に終わった。それでも、今年の高校生捕手最上位の評価は揺らがないだろう。

高尾は要所で締める投球を披露したものの、あるセ・リーグ球団スカウトが「広島大会からずっと状態が良くない」と評したように物足りない内容だった。

■荒れる大会で評価を上げた投手

このように微妙な評価のドラフト候補が目立った一方で、株を上げた好素材もいる。関東第一(東東京)は、エース右腕の坂井遼(さかい・はる)がリリーフで躍動。東海大相模との準々決勝では、自己最速の151キロをマークした。ストレートの軌道から鋭く曲がるスライダーも光り、甲子園のスコアボードにゼロを並べ続けた。

坂井遼(関東第一・東東京)今大会で自己最速の151キロをマーク。鋭いスライダーも武器 坂井遼(関東第一・東東京)今大会で自己最速の151キロをマーク。鋭いスライダーも武器

身長190㎝の大型右腕・有馬惠叶(ありま・けいと/聖カタリナ・愛媛)は初戦敗退に終わったものの、資質の高さをアピール。昨秋時点では実力不足でベンチ入りメンバーにもなれなかったが、投球フォームとトレーニングを見直して開花。甲子園では自己最速を3キロも更新する146キロを投じた。

試合後には「育成選手でもいいからプロに行きたい」と語ったように、強いプロ志望を持っている。

最速152キロ右腕の関浩一郎(せき・こういちろう/青森山田)、最速149キロ左腕の田崎颯士(たさき・りゅうと/興南・沖縄)は大学進学予定ということが惜しまれるほど、高い潜在能力を感じさせた。

特に関は今春以降のフィジカル強化に伴い、グレードアップに成功。甲子園でも安定感のある投球で、チームの勝利に貢献した。ツーブロックのヘアスタイルと凜々しいルックスでスター性も抜群だった。

■旋風を起こした大社にもプロ注目が

野手では藤原佑(大社)のスピードが目を引いた。身長168㎝と小柄ながら、50m走5秒8の快足。報徳学園戦では力強いスイングで2安打をマーク。

暑さで両足の太腿が痙攣した状態でも盗塁を成功させるなど、甲子園の4試合で4盗塁を決めた。島根大会では6試合で12盗塁を記録している。プロ志望届を提出する意向を示しており、スピードスターの動向が注目される。

運動能力でいえば中村奈一輝(なかむら・ないき/宮崎商)も負けてはいない。50m走6秒0の俊足、遠投115mの強肩を誇る遊撃手だ。今夏は腰痛を抱えており、甲子園では足がつるハプニングにも見舞われ初戦敗退。身長183㎝、体重71㎏とまだ線は細いが、高い将来性を秘めている。

今大会は将来有望な2年生も目立った。特に来年のドラフト指名が有力視されるのは、森陽樹(もり・はるき/大阪桐蔭)、福田拓翔(ふくだ・たくと/東海大相模)、石垣元気(いしがき・げんき/健大高崎)の3右腕。

森はキャッチボールを見ただけで「モノが違う」と思わせる逸材。最速151キロの剛腕には夢が詰まっている。今夏は小松大谷(石川)戦で自身の守備のミスもあって敗れたが、その経験でひと回り大きく成長するはずだ。

森陽樹(大阪桐蔭)2年生にして、すでに来年のドラフト1位有力候補の剛腕 森陽樹(大阪桐蔭)2年生にして、すでに来年のドラフト1位有力候補の剛腕

福田は最速150キロの数字以上に体感スピードがある好球質が魅力。「藤川球児さん(元阪神ほか)のように、わかっていても打てないストレートを投げたい」と意気込む。今夏はリリーフとして甲子園ベスト8を経験したが、今秋以降は長いイニングで先発適性をアピールしたい。

石垣は最速154キロと現段階でも高校トップクラスの球速が魅力の速球派。空振りを奪える球質になってくれば、ドラフト上位候補に浮上するのは間違いないだろう。

高校球児はいつ化けるかわからない。今夏の甲子園で消化不良だった選手も将来の活躍度は未知数。今後の動向から目が離せない。

菊地高弘

菊地高弘きくち・たかひろ

1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

菊地高弘の記事一覧