里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第18回では、「発言をするときに意識すること」に関する考え方に迫ります!

「お金の使い方について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右) 「お金の使い方について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右)

■否定的な意見があるから、発言する意味がある

――前回のラストでは「第三者に飽きられないために自分の好きなことをやり続ける」という話題が出ました。そのスタンスだと、「単なる自己満足に陥ってしまうのではないか?」という疑念も沸いてきますが、その辺りはいかがでしょうか?

里崎 僕の場合、「何が何でも全員に受け入れてもらいたい」とか、「みんなに評価されたい」と思っていないので、「だったら、自分が楽しいと思えることをしよう」というのが基本。そもそも、全員に喜んでもらえることなんてほぼないし、どんなことにも否定的に受け取る人はいるものだから。たとえ、単なる自己満足だったとしても、それを受け入れてくれる人もいるはずなので、その点は何も気にしていないです。

五十嵐 僕も、「誰からも好かれよう」とは思っていないけど、少なくとも「見ている人を不快にさせないように気をつけよう」と意識しているぐらいで、基本は「自分が楽しいと思うことをしよう」というのは同じですね。ただ、僕の場合は「自分だけが楽しんでいるんじゃないか?」「単なる自己満足、身内ウケだけかも?」と不安になることはたまにあるけど。

里崎 だって、賛否両論、「50対50」でいいんだよ。そう考えたら、たとえ自己満だったとしても「0対100」じゃなければ全然構わないじゃん。

五十嵐 それはそうかもしれないけど、それでも「賛」ならまだいいけど、「否」のことも多少は気にしたほうがいいじゃないですか。やっぱり、否定的なリアクションはイヤだから。サトさんは、自分に否定的な意見は気にならないの?

里崎 まったく気にならない。むしろ、全員が肯定的で「100対0」で、「賛」しかいないほうが怖いもん。全員から認められるということは、単に普通のことを言っているだけで、実は当たり前のこと過ぎて誰にも何も引っかからないということと一緒でしょ。誰の胸にも刺さらないということは、誰にも拡散されない。それじゃあ、発言したり、自分の意見を表明したりする意味なんてないじゃん。

五十嵐 僕は「否」がないほうがいいなって思っちゃうタイプだけど、確かにサトさんの言うように「全員が賛成」という状態も気持ち悪いし、多少は波風があったほうが注目を浴びるのも確かですよね。それがいき過ぎてしまうと、単なる炎上商法になってしまうから注意が必要だとは思うけど。

■表に出てこない"隠れ賛"を味方につける

里崎 どんなスーパースターやカリスマにも、必ず「アンチ」と呼ばれる人はいるし、タレントさんの場合でも、本当の大物って、必ず「好きな芸能人ランキング」にも「嫌いな芸能人ランキング」にもランクインしているでしょ。実際、むしろアンチの人のほうが「アイツ、今度はどんなことを言っているのかな?」って、熱心にチェックすることもある。賛否両論の「否」の側の人の存在って、実は意外と大きいし、大切なんだよね。

五十嵐 うわぁ、サトさんのように考えられたらめちゃくちゃラクになりますよね。僕は、あまり否定的な意見は目にしたくないからSNSも熱心にやらないし、ましてやエゴサーチなんてしないけど、サトさんはめちゃくちゃエゴサするんでしょ?

里崎 めちゃくちゃしてるよ(笑)。逆に、亮太は何でしないの? ファンの人とか、視聴者がどう思っているのか、その反響が気にならないの?

五十嵐 気にならなくはないけど、やっぱりネガティブな意見を目にするのは気分がいいものじゃないし、自然と耳に入ってくるものだったらいいけど、あえて自らアクションを起こしてまで反響を知りたいとは思わないです。よっぽど大ごとになっていたとしたら、それはマネージャーから知らせてもらえるはず。そこが、僕とサトさんとの大きな違いだし、サトさんには強い覚悟が感じられる。

里崎 覚悟なんて、何もいらないでしょ。ただ何も考えずに、「里崎」って検索しているだけだから(笑)。それに、自分が思っていることを正直に口にしたり、世間の人が言いにくいことをハッキリ言ったりすると、意外と"隠れ賛"が続々と登場して味方についてくれることも多いから。

五十嵐 何ですか、"隠れ賛"って?

里崎 例えば、ある出来事について、AとBという考え方があるとする。世間的にはAが主流で、Bの人は「自分の意見は言いにくいな」って思って黙っているときに、「Aじゃなくて、僕はBだと思いますよ」と宣言する。そうすると、世間の大多数のA側の人からの批判を浴びることになるけど、その一方では自分の意見を言いたくても言えなかったB側の人たちが、「よく言った、里崎!」って共感してくれる。大多数の意見に"隠れ"た"賛"同者ということだね。

五十嵐 なるほど、それが"隠れ賛"というわけか。むしろ、今まで自分の意見を言えずに虐げられていた分だけ、「いいぞ、里崎!」って味方についてくれるでしょうし。でも、「アレ、思ったよりも味方がついてこないぞ」ということはなかったですか?

■「言いにくいこと」ほどキッパリと言い切れ!

里崎 ない。これまでの経験上、必ず"隠れ賛"は絶対にいるから。だから、最初の話に戻るけど、「自分が楽しいこと」とか、「自分が思っていること」を素直に表現しても決して自己満足にならないし、むしろ味方を増やすことにもなると思っているけどね。

五十嵐 サトさんの話を聞いていて思ったけど、僕の場合はそこまで自分の発言に対する反応や答えを求めていないんだと思いますね。そう考えると、僕の発言はそもそも「否」が少ないのかもしれない。ということは、あんまり多くの人の心に刺さらない、無難な発言が多いということなのかな(苦笑)。

里崎 僕だって、「インフルエンサーになりたい」なんて思っていないし、「自分の発言で世の中に影響を与えたい」という思いを持っているわけではないけど、やっぱり評論家として発言したり、テレビに出たりしている以上は、「無反応」というのがいちばんダメだとは考えているけどね。

五十嵐 その点は僕も同意します。やっぱり、見ている方からノーリアクションでは僕が存在する意味はないですから。よっぽど間違っていたり、世間の常識からずれていたりしたら大問題になるけど、きちんとした理由があって自分の意見を正直に表現することをためらってはいけないし、臆病になってもいけない。サトさんの話を聞いていて、そんなことを思いましたね。

里崎 実際に「0対100」で「否」しかないという状況はないから。僕の場合は「全試合チェックしている」という土壌があるから、たとえ世論とは違っていても、自分が感じたことを正直に発言すれば、必ず「隠れ《賛》」は登場するから。最近でも、「ライオンズファンのみなさんお疲れさまです。これからの試合はすべて消化ゲームだけど、来年を見据えていきましょう」って発言したけど、特に反発もなかったし、むしろライオンズファンの人から「よく言った、里崎!」と言われたよね。

五十嵐 サトさんのいいところは、単に強い言葉を言いっ放しにするんじゃなくて、きちんと来年に向けての打開策や希望の光を提示するところですよね。そうすれば、「すでに消化ゲームです」と言われても腹が立たないし、むしろ「ならば、来年に期待しよう」という思いにもなってくるし。

里崎 むしろ、世間の人が言いにくいことをキッパリと言い切る。その姿勢があれば、自己満足に陥ることもないし、人とは違った意見で飽きられることもないし、"隠れ賛"という味方もついてくる。僕はそんなスタンスで、ここまでやってきましたね。

――前回まで「夢」について伺ってきましたが、今回は期せずして「ネガティブな意見を恐れる必要はない」という話題となりました。改めて、次回もよろしくお願いします。

里崎五十嵐 了解です。次回もよろしくお願いします!
(連載第19回に続く)

★『里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール!』は毎週水曜更新!★

里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

里崎智也の記事一覧

五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

五十嵐亮太の記事一覧

長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

長谷川晶一の記事一覧