8月末時点で、31試合で54回2/3を投げ防御率2.30の好成績を収めている平間凜太郎(写真/くふうハヤテ提供) 8月末時点で、31試合で54回2/3を投げ防御率2.30の好成績を収めている平間凜太郎(写真/くふうハヤテ提供)

今シーズン、日本野球機構(NPB)にファーム(2軍)リーグ限定で新規参戦した「くふうハヤテベンチャーズ静岡」(以下、くふうハヤテ)。同時に参戦した「オイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」は独立リーグの老舗球団だったが、くふうハヤテは母体も何もない、まさしくゼロから立ち上げられたチームだ。

開幕から約3ヵ月が過ぎた6月末、くふうハヤテに密着取材し、野球人生をかけて新球団に入団した男たちの挑戦を追った。

今回は、社会人、独立リーグ、メキシコリーグでプレーしてきた187cmの大型右腕、平間凜太郎(ひらま・りんたろう)の新たな戦いに迫る。(全15回連載の3回目)

■「1軍の主力選手を抑えたこともありますが、それよりも...」

6月24日夕方5時、筆者はJR清水駅に到着した。

福岡遠征から戻ったばかりのくふうハヤテの投手、平間凜太郎と合流し、食事をしながらインタビューすることにした。場所は、「清水と言えばやっぱりまぐろかなと思って」という平間の提案で選んだ、清水魚市場内の食堂街。駅に隣接する同施設は、年間100万人以上が来場する清水港の人気施設で、週末は多くの観光客で賑わうそうだ。

「ハヤテに入団できたことは、めちゃくちゃ良かったと思っています。当初はメキシコなど海外プロリーグのチーム入りを目指していましたが、そういった話もなくて、2月の中頃、たまたまハヤテで追加トライアウトを開催すると知って、『NPBの選手と戦えるチャンスだ』と思い応募しました。

対戦バッターは全員、NPBにドラフト指名された選手ということに一番魅力を感じて契約しました。独立リーグ時代(高知ファイティングドッグス)も、ソフトバンクの3軍戦やフェニックスリーグでNPB選手との対戦は少しありましたけど、年間を通じて戦う機会はありませんでしたので」

2020年、21年、四国アイランドリーグで2年連続最多セーブ王を獲得した平間は、22年は最多勝と最優秀防御率の二冠に輝きリーグMVPにも選ばれた。しかしNPBからドラフト指名はなく、23年シーズン終了後に高知ファイティングドッグスを退団。10月から12月にかけては、現在、元楽天の安樂智大投手が所属するメキシカンリーグのメキシコシティ・レッドデビルズでプレーした。

昨年11月、メキシカンリーグの名門メキシコシティ・レッドデビルズ所属時の平間。同チームには現在、元楽天の安樂智大投手も所属している。(写真/本人提供) 昨年11月、メキシカンリーグの名門メキシコシティ・レッドデビルズ所属時の平間。同チームには現在、元楽天の安樂智大投手も所属している。(写真/本人提供)

そして今季、海外リーグからのオファーもあったものの、NPBの選手と日々戦えることに魅力を感じてくふうハヤテに入団。中継ぎ、抑えを任され、取材時点では23試合に登板し防御率1.59という好成績を収めていた。

「(好調の理由は)間違いなくオフの過ごし方が良かったからです。自分のパフォーマンスを表すデータと感覚のすり合わせができて、それを試す実践の場があった。地味な練習を毎日積み重ねる。正しい努力を継続する。今はそれが結果に結びついていると思っています」

メキシコから帰国後、平間は、平日は都内のジムでトレーニングを積みつつ自身のパフォーマンスデータを蓄積し、週末は中学時代に所属した世田谷目黒西リトルシニア(旧・世田谷リトルシニア)の練習に参加した。臨時コーチとして、強豪校入学を目指す中学生に経験を伝えつつ、自身も中学生相手に実戦登板を重ねて24年シーズンに備えた。

「現役引退後も野球に携わっていたいという思いがあり、そのひとつとして指導者という道もぼんやりと考えています。中学生のように多感な思春期の頃は精神的にバランスを崩してしまう選手もいます。そういう選手に対しても、どうすれば正しい知識を伝えることができるか。刺激しすぎてもいけないと思いますし、かつ本人が思うとおりの野球をさせてあげたい。そのためにはどうすれば良いかを考えられる、すごく良い機会になりました」

オフシーズンに世田谷目黒西リトルシニアで中学生を指導する平間(写真/本人提供) オフシーズンに世田谷目黒西リトルシニアで中学生を指導する平間(写真/本人提供)

平間は、社会人、独立リーグ、そしてメキシコのプロリーグとあらゆる環境で野球に取り組んできた。そして今季初めて、ファームとはいえNPBの打者を相手に投げることになった。高知時代は3年連続で無双した平間に、独立リーグとNPBファームの違いについて聞いた。

「同じアウトでも内容はまったく違うと感じました。抑えたとしても、バッターはピッチャーにとっては嫌な形でアウトになります。簡単にアウトが取れたというバッターはほぼいません。

ヒットでも、ただ打ちましたと喜ぶのではなくて、それまでの凡退の内容を積み重ねて、結果、相手にダメージを負わせる。現在のNPBは投高打低で基本的に3点差未満の試合が多く、簡単には安打できないことは野手陣も分かっているので、じゃあ自分のやるべきことをやろう、という気持ちで打席に立っています。そういう本質的な部分を知ることができて、野球は凄く面白いなと思えるようになりました」

開幕から4ヵ月、ここまで対戦した中で印象に残った打者を尋ねると、「中村奨成選手(広島/2017年ドラフト1位)ですね」と即答した。取材5日前のホーム試合では、中村から特大の場外2ランを浴び、開幕以来続けていた「被本塁打0」の記録も23試合目で途切れた。

「推定飛距離135mくらいじゃないですか。めちゃくちゃ飛ばされました。その日は自分の最大の武器のカーブがまったく決まらない。かといってストレートも走っていない。1死3塁カウント3-1で、『これを信じて投げるしかない』と思った真ん中にいったフォークを完璧に捉えられました。中日の岡林(勇希)選手や石川(昂弥)選手など1軍の主力選手を抑えたこともありますが、それよりもホームランを打たれたことのほうがよっぽど印象に残りますね」

状態の良いときに通用するのは当たり前。しかし、状態が良くないときでも結果を出せるように修正できなければNPBでは通用しないことを実感した。取材前日の福岡(筑後)でのソフトバンク戦は雨天のため中止になったが、平間はブルペンで80球投げ込みをして自分自身と向き合い、状態が悪いときの修正法を掴んだという。

■「先発で投げられることを証明したい」

「給料の面では、独立リーグ時代とあまり変わらないかもしれません。でも野球に取り組む環境は断然良いと思います。朝、練習場に来れば当たり前のようにグラウンドが整備されていますし、昼飯も球団で用意してくれます。それにプロテインまで支給されます。

独立リーグ時代は、例えば徳島まで遠征に行って試合が夜9時に終わると、高知の自宅に戻るまで3時間かかります。深夜0時過ぎに部屋に戻り、夕食を食べて洗濯をして就寝は午前2時か3時。次の日がデーゲームだと朝6時に起きないと間に合いませんでした。今は洗濯も、遠征時はチームスタッフの方に全部やっていただけるので非常に助かっています。

赤堀(元之)監督はじめ一流の指導者の方が何にこだわっているのかと言えば、押し付けではなく取り組みやすい環境を整えること。もちろん選手自身の向上心が高いからこそですが、指導者の方が上手に自分たち選手が頑張れるような環境を作ってくださっているので、チーム全体が上を目指す集団に成長しているように思います」

* * *

店の人気メニュー、まぐろ丼(大盛)とカマの煮付けを頬張る平間は、高知時代よりさらに体つきが大きく逞しくなった印象を受けた。

取材時点での体重は100kg(身長187cm)。オフの筋トレでもかなり追い込んだそうだ。寮では高知時代のチームメイト、草場悠捕手と共同生活だが、普段外食はせず、栄養価やカロリーの計算をして自炊している。自身の料理はSNSで「平間飯」として紹介している。

「低カロリー、高タンパクのアスリート飯ですね。料理を覚えたのは独立リーグ(高知)時代です。それほど器用ではないので、誰でもできるような簡単なメニューだけですが。そんな素人料理でも、将来的に野球に生かせるのではないかという思いで続けています」

中継ぎ、抑えとして結果を出したが、ここからは筋肉は落とさず体脂肪のみ削り、スタミナを持続できる先発投手向きの体づくりをしている。

「当たり前のように155キロ以上投げられる投手ならば中継ぎをやるべきですが、僕はそういうタイプではない。今、僕のストレートは平均90マイル(約145キロ)なので。となれば海外では先発しか需要はない。これからは先発で長いイニングを投げられることを証明していきたいと考えています」

高知ファイティングドッグスを取材した際、監督の吉田豊彦氏は平間をこう評していた。

「相手バッターを分析する目、感じる力は持っています。それなのに、自分の登板になると抑えることに執着し過ぎて状況が見えなくなるときがある。独立リーグの選手に対してはエイッ!と投げれば抑えられる。でもNPB相手ではそううまくはいかない。実際、去年のフェニックスでボコボコにやられた」

平間の投手としての考え方は、当時からずいぶん成長したように思えた。

平間が目指しているのは、海外トップリーグなど高いレベルで野球を続けることだ。そしてもうひとつ。NPB12球団にドラフト指名されることも完全には諦めていない。現実的にかなり厳しいのは百も承知。しかし、NPB1軍の舞台で力を試したいという気持ちは失っていない。そんな平間の思いを知ってか知らずか、ある名伯楽が冗談混じりにこんな言葉をかけてきた。

「平間、年齢詐称しろ」

(つづく)

NPBの打者たちとの戦いを通して、30歳になった今も成長を続ける平間 NPBの打者たちとの戦いを通して、30歳になった今も成長を続ける平間

●平間凜太郎(ひらま・りんたろう) 
1994年生まれ、東京都出身。山梨学院大附高から専大に進学し、日本製鉄東海REX、高知ファイティングドッグス、メキシコリーグでもプレーした。高知では2020年、21年に最多セーブ、22年には最多勝と最優秀防御率のタイトルを獲得し、年間MVPにも輝いた。23年オフに参加したメキシコ教育リーグでは6試合に登板し、2勝1敗、防御率1.69という好成績を残した

会津泰成

会津泰成あいず・やすなり

1970年生まれ、長野県出身。93年、FBS福岡放送にアナウンサーとして入社し、プロ野球、Jリーグなどスポーツ中継を担当。99年に退社し、ライター、放送作家に転身。東北楽天イーグルスの創設元年を追った漫画『ルーキー野球団』(週刊ヤングジャンプ連載)の原作を担当。主な著書に『マスクごしに見たメジャー 城島健司大リーグ挑戦日記』(集英社)、『歌舞伎の童「中村獅童」という生きかた』(講談社)、『不器用なドリブラー』(集英社クリエイティブ)など。

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