板倉 滉いたくら・こう
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、2019年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスター・Cへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲン、ドイツ2部シャルケを経て、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍
自分の思うようにいかない苦悩の日々。そんなときにどのようにして抜け出すためのきっかけをつかめばいいのか。昨季、クラブや代表で長くもがき続けた板倉が、今シーズンを好調な出だしにするために意識した"気の持ち方"を語る。
生きていく中で、どうあがいてもうまくいかないときがある。空回りの連続、ピンチがすぐそばに......。
僕らサッカー選手もそんな状況に直面することはしょっちゅう。そんなときどうすればいいのか。僕なりの考えを話せればと思う。
8月18日(以下、日本時間)、カップ戦のDFBポカール1回戦で今シーズンは幕を開けた。相手はブンデスリーガ3部のエルツゲビルゲ・アウエで、アウェーゲーム。
前半8分に先制されてヒヤリとしたが、結果は3-1で勝利。続く24日は昨年の覇者であるレバークーゼンをホームに迎えてのリーグ開幕戦。
この試合、敗れはしたが(2-3)、それでも去年の第2節に0-3で完敗したのに比べたら、一定の手応えをつかめた。
今でこそ言えることだが、昨シーズンは、正直きつかった。昨年10月下旬の左足首の手術から復帰後、今年1月のアジア杯へ。イラン戦での敗北を経て、クラブでの試合復帰は2月10日の第21節・ダルムシュタット戦。公式戦出場は16試合ぶりだった。
シーズン後半戦は僕が出場停止で出られなかった第23節のボーフム戦(5-2)の勝利以外、とにかく勝ち点が遠くに感じられた。引き分け、あるいは負け。
チームとしてはいろいろ試すけれども、結果がついてこない。チーム内で鼓舞する声も上がらず、だんだんと残留争いに巻き込まれ、ドレッシングルームは重々しい空気に包まれていた。
第26節のハイデンハイム戦では、本職のCBではなく、ボランチとして後半26分から途中起用されることになる。なかなか感覚を取り戻せずに四苦八苦。この頃が、心身共に一番くじけそうだった。
まさにピンチともいうべき状況からいかにして立て直したのか。きっかけとなったのは、第28節・ボルフスブルク戦だった。
4試合勝ちなしのまま敵地へ。ボランチでの先発出場だった。前半7分に先制されたものの、後半7分に25mの位置から右足を振り抜いて同点弾を決めることができた。
とにかくチームが残留するために結果が欲しい、その一念で蹴ったシュートだった。結果は3-1の逆転勝利。サッカーとはメンタルが左右するスポーツ。最後は気の持ち方である。そのことを再認識した一戦だった。
その後、チームは再び勝ち点3を取ることができず、最終節まで敗北もしくは引き分けが続き、僕自身いいパフォーマンスができたともいえなかったが......。
それでも、チームのために何ができるのか、献身的な意識を忘れず、ほんの少しでもいいから前に一歩踏み出す勇気が大切だと思う。
それと、うまくいかないときは無理してうまくやろうとしないほうがいい。
例えば、普段なら確実にドリブルで抜けるのに抜けない選手がいた場合、その代わりにハードワークがしっかりできるのか、あるいは守備面でしっかり走れるのかが実は一番重要。
そういうところを怠り出すと、チーム全体としても勝てなくなるような気がする。実直さがカギだ。
9月5日に控えた北中米W杯アジア最終予選の初戦・中国戦でも、気持ちを前に出すことが重要だ。
僕ら欧州組は、所属先でシーズンが開幕したばかりであるため、なかなかコンディショニングが難しく、最終予選の立ち上がりは厳しいのでは?という見方もあるようだが、そこは僕らとしてもプレシーズンの段階から代表との兼ね合いもある程度見据えて調整している。
しっかり、クラブでスタメンを張り、ボルテージを上げた状態で臨むつもりだ。
前回のアジア最終予選の初戦のオマーン戦(21年9月2日)は黒星スタートだった。しかも、その当時オマーンを率いていたのが、現中国代表監督のイバンコビッチ氏だ。当然、いろいろな対策を用意して挑んでくるだろうが、僕らも決して負けるわけにはいかない。
僕ら守備陣は1点も取らせず、クリーンシートを狙うのはもちろん、全体として守ってカウンター狙いというよりは、むしろ積極的にゴールを狙いにいくべきである。
ホームのサポーターの皆さんの声援は精神的にも大きい。とてつもない力になる。しつこいようだが、前回のオマーン戦と同じ状況にはしない。
僕自身も、事前分析は徹底的に行なうつもりだ。相手の戦術、特徴、ウイークポイント、クセなど。頭に叩き込んで、なおかつチームメイトともしっかり共有しておきたい。
中国との試合にきっちり勝ち、続く9月11日のバーレーン戦と10月11日のサウジアラビア戦はさらに注意が必要だ。何せ2試合ともアウェーゲームである。
中東勢のホームでの強さというのは、なかなか説明がつかないほど独特のものがある。それはスタジアムの雰囲気も含めて。
間違いなく苦しい時間帯、攻め込まれる時間帯もあるはずだ。危ない場面はひっきりなしにやって来るだろう。
でも、心配することはない。ひとりひとりがチームのために〝献身〟を怠らなければ、好機は必ずやって来る。できることをしっかり積み重ねればいい。ピンチはむしろチャンスととらえるべきだ。
絶対に勝つ、その気持ちを持って最後まで戦えば結果はついてくる。ぜひ期待していてほしい。
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、2019年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスター・Cへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲン、ドイツ2部シャルケを経て、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍