オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
2026年の北中米W杯出場をかけたアジア最終予選がいよいよ9月5日にスタートする。直近のアジア杯で苦杯を喫し、課題が浮き彫りとなった森保ジャパン。悲願のW杯優勝へ向け、順調に第一歩を踏み出せるか!?
北中米W杯は史上初の3ヵ国(アメリカ・カナダ・メキシコ)共催大会だが、大きな特徴は参加国が前回大会までの32ヵ国から48ヵ国へと大幅増になること。アジア勢の出場枠も従来の4.5枠から8.5枠とほぼ倍増となるため、日本代表の8大会連続出場を楽観視する声も聞こえてくる。
とはいえ、日本代表はこれまで最終予選で格下と目されていたチームに足をすくわれ、厳しい状況に追い込まれた過去がある。
前回カタール大会の最終予選では、初戦のオマーン戦で黒星発進。さらに序盤3戦で1勝2敗と出遅れ、森保一監督の解任論も巻き起こった。それだけに、今回の最終予選に向けて、森保ジャパンが抱える課題を明確にしておく必要がある。
「前回、初戦でつまずいてしまった原因は3つある」と語るのは、スポーツライターのミムラユウスケ氏だ。
「ひとつ目はチームの完成度を高められないまま、最終予選に臨んでしまったこと。前回の最終予選初戦は2021年9月。東京五輪の直後でした。
自国開催ということで、森保監督がA代表と兼任するなど五輪への意気込みが強く、オーバーエイジを早めに五輪組に組み込み、逆にA代表は6月の代表期間でも新戦力のお試し程度しかできなかった。A代表組は明らかに消化不良で、選手からは不満の声も上がっていました」
ふたつ目はその東京五輪組へのシフトが遅れたことだ。
「あれだけ東京五輪にかけていたのなら、最終予選も最初から五輪組を抜擢すればよかったのに、森保監督はその英断ができなかった。
実際、第2戦の中国戦では五輪組の久保建英(レアル・ソシエダ)の先発起用が当たり、抜群の存在感でアシストも決めて勝利に貢献しました。森保監督としては経験豊富な選手たちで大事な初戦を落としたこともあり、W杯本大会では逆に、若い世代の伸びしろにかけたのだと思います」
3つ目は移籍の問題だ。
「敗れたオマーン戦があったのは9月2日。欧州主要リーグの移籍市場が閉まる8月末に代表合宿期間が重なり、移籍交渉をしていた冨安健洋(アーセナル)や守田英正(スポルティング)は不参加。合宿に参加した選手でも、練習の合間に移籍情報の確認をするなど集中しにくい状況でした」
前回はさまざまな要素が絡んで大事な初戦を落としてしまったが、今回はその二の舞いにはならなそうだ。
「まず、今回は主要国の移籍市場閉幕後に代表合宿が始まるので安心です。また、今夏のパリ五輪ではオーバーエイジ枠を含め、A代表に影響のある無理な招集はしませんでした。前回の反省から、最終予選を重視しようという意図が見えました。選手たちも前回の経験を糧に、危機意識を持っているようです」
さらにアジアの戦いにおいて、森保ジャパンには別の不安材料がある。優勝を目指した今年1月のアジア杯でベスト8敗退という苦汁をなめた点だ。
"日本代表史上最強チーム"との呼び声も高かったが、5試合で8失点を喫するなど守備が崩壊。この原因について、戦術分析官としてYouTubeで人気を博し、クラブチームの監督も務めるレオザフットボール(以下、レオザ)氏が解説する。
「そもそも森保ジャパンはGKの出来に依存しがち。カタールW杯では権田修一(清水)が大当たりし、アジア杯では抜擢した鈴木彩艶(パルマ)の経験不足が如実に出てしまった。
その上で、確証のない週刊誌記事で伊東純也(スタッド・ランス)が大会途中で離脱。この点は森保監督も不運だったとは思いますが、選手たちから『(ピッチ内での)約束事をつくってほしい』という声が次々に上がっても着手せず、個々の能力に頼らざるをえないチームにしてしまった責任は森保監督にあると思います」
アジア勢の"引いて守って放り込むサッカー"に対応しきれなかったのも、個の力に頼り、守備での約束事がないからだとレオザ氏は語る。
「放り込んでくるチームへの対処法として、ボールの受け手に対するディフェンスラインの選手の対応力はよく議論されますが、同時に、パスの出し手に対して前線の選手がいかにプレッシャーをかけるかも重要です。
ただ、日本代表の場合はプレスをかける際の約束事がなく、効果的な守備にならない。約束事がひとつあるだけでハイプレスの効果は高まるのですが......」
あとは、選手個々の能力がしっかり発揮できる環境をつくるしかない、と続ける。
「森保監督の選手選考は『守備の強度が高く、チームのために献身的に戦える選手』という点でブレないので、大崩れしないチームはつくれます。その選手たちがいい状態で試合に臨めるよう、森保監督には選手たちの不平不満を気にかけるよりも、選手のやる気を促す役割に徹していただきたいですね」
ここまでは森保ジャパンの不安材料が目立つが、明るい話題もある。6月に試した"攻撃的3バック"だ。格下のミャンマーとシリア相手とはいえ、いずれも5-0と圧勝。森保監督は「ひとつのオプションとしてチームで共有できた」と語り、主将の遠藤航(リバプール)も「強豪国相手でもできる手応えを感じた」と語った新システムについて、ミムラ氏が解説する。
「3バックにすることで、これまで日本が課題としていた『3バックで攻撃をスタートさせる相手』への守備対応が改善されます」
3バックといえば、カタールW杯でドイツとスペインに金星を挙げた際にも、試合途中から変更したことが功を奏したと評価されていたはず。W杯で見せた3バックとは何が違うのか?
「W杯での3バックはドイツ戦前半の圧倒的劣勢を受けて採用したもので、事前にしっかり準備したわけではなかった。アジア杯敗退後の2月、シャビ・アロンソ監督の下で公式戦51試合無敗記録を打ち立てるなど話題のレバークーゼンを現地視察し、新たなオプションとして攻撃的3バックを採用。
W杯のときとは異なり、入念に準備されたものです。選手たちも新しい挑戦に対して前向きな反応を示しています」
レオザ氏も3バックは日本に適した戦術だと語る。
「攻撃の配置が4バックより整いやすく、守備もゴール前で整いやすい。戦術が苦手な監督でも使いやすいシステムです。運動量が豊富で献身性の高いウイングが多い日本代表に合っているので、オプションのひとつになりえます」
"攻撃的3バック"という新たな活路を見いだした森保ジャパン。現段階での理想のスタメンは誰になるのか? ミムラ氏が名前を挙げる。
「GKはパリ五輪で活躍した小久保玲央ブライアン(シント=トロイデン)も面白いですが、今夏に移籍したセリエAで出場機会を得ている鈴木をまずは考えたい。アジア杯に引き続き、ボールをつなぐサッカーを標榜する森保監督は、鈴木のキック精度に期待したいはずです」
アジア勢に対する戦い方の最適解を考える上で、重要な役割を果たす守備ラインはどうなるか?
「先ほど高評価した3バックですが、あくまでも4バックがうまくいかなかった場合のオプション。これまでの4-5-1のフォーメーションを基本に考えると、DFは右から菅原由勢(サウサンプトン)、冨安、板倉滉(ボルシアMG)が並び、左サイドバックは伊藤洋輝(バイエルン)が骨折で年内復帰も難しい状況なので、3バックも4バックもこなせる町田浩樹(ユニオン・サン=ジロワーズ)に期待します」
町田の存在に注目するのはレオザ氏も同様だ。
「本来は冨安が守備の中核を担うべきですが、ケガでプレミアリーグ開幕に間に合わなかった。そこで期待したいのは左利きでセンターバックもサイドバックもできる町田です。日本にいたときよりも引き出しは増えています」
中盤より前の構成はどうなるのか?
「ボランチは遠藤と守田。右アウトサイドは堂安律(フライブルク)で、左アウトサイドに三笘薫(ブライトン)。シャドーの位置に久保か、今夏、プレミアリーグへ移籍した鎌田大地(クリスタル・パレス)。
遠藤と鎌田をボランチにして久保と堂安がシャドーという組み合わせも。ワントップは上田綺世(あやせ/フェイエノールト)が一番手ですが、パリ五輪で活躍した細谷真大(柏)も試してほしい」(ミムラ氏)
レオザ氏も攻守のキーマンとして遠藤と三笘を挙げる。
「守備のリーダーであり、森保監督の防波堤にもなれるのが遠藤です。三笘はプレミアでも5本の指に入るウイング。相手が中を固めても、三笘がサイドを突破し、そこからチャンスが生まれる。
サイドは伊東の復帰も期待しつつ、代表で10戦8ゴールの中村敬斗(けいと/スタッド・ランス)ら、誰が出ても遜色ないほど質の高い選手が多いです」(レオザ氏)
前線にはほかにも第1次森保ジャパンで最多得点(17ゴール)を挙げ、昨季9ゴール6アシストと完全復活した南野拓実(モナコ)がおり、さらにパリ五輪世代からの台頭も期待できる。
「鈴木唯人(ゆいと/ブレンビー)や松木玖生(くりゅう/ギョズテペ)、平河悠(ブリストル)といったパリ五輪世代も出てきてほしい。選手の顔ぶれや質だけを見れば、W杯本大会でベスト8を十分狙えるレベル。それだけにW杯予選突破は当然のノルマといえます」(レオザ氏)
6チームずつの3グループに分かれ、ホーム&アウェーで戦う最終予選。各グループ上位2チームがW杯出場権を獲得し、3位と4位はプレーオフに回る。日本が入ったグループCは、オーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシアとの戦いだ。
「オーストラリアは伝統的に日本が苦手なハイボールを使ってくるだけに要注意。また、アジア杯やパリ五輪アジア最終予選を見ても、急激に力を伸ばす国があり、侮れないのは確か。現状、日本の弱点を突いてくる相手への対応策が見られない点が懸念されます」(レオザ氏)
中でも、9月5日に中国との初戦をホームで戦った後、9月10日にバーレーン、10月10日にサウジアラビアと"中東アウェー"での対戦が控えており、ここが大きなヤマ場になりそうだ。
「アメリカ大陸で開催される北中米W杯は、過去の南米開催の大会のようなアウェームードになるはず。そのような過酷な環境でも戦えなければ、惨敗した14年ブラジルW杯の二の舞いになりかねません。私が現地観戦したW杯で日本代表が最もアウェーだと感じたのは、ブラジル大会のコロンビア戦でした」(ミムラ氏)
だからこそ、今回の"中東アウェー"での2試合は、今後の代表強化を見据える上でも試金石となる。
「アジア杯で露呈した"中東アウェーでの弱さ"を克服できれば、"南米アウェー"も疑似的に対策できる。W杯優勝を本気で目指すなら勝たなきゃいけない」(ミムラ氏)
10ヵ月に及ぶ長丁場の最終予選がついに始まる。森保ジャパンには"日本サッカー史上最強チーム"であることを結果で示してもらいたい。
*日程はすべて現地時間
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。