リーグ開幕戦でも活躍した南野拓実
シーズンを通して好調だった昨季。迎えた今季もリーグ開幕戦でゴール。森保ジャパンの主軸としても期待を集める南野拓実(29歳)に、2度目のW杯出場に向けての思いを聞いた。
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■モナコ2年目に復調したワケ
南野拓実が絶好調だ。フランスリーグのモナコ加入2年目の昨季はリーグ30試合出場9得点6アシストの活躍。チームの6年ぶりのチャンピオンズリーグ(以下、CL)出場権獲得に貢献したほか、フランスの権威あるスポーツ紙『レキップ』の年間ベストイレブンにも選出された。そして、迎えた今季もリーグ開幕戦のサンテティエンヌ戦で決勝点を決めるなど好スタートを切った。
――モナコ加入1年目の2022-23シーズンは18試合出場1得点。フル出場は一度もなく、苦しんだ印象がありました。復調の要因は?
南野「大きなポイントはふたつです。ひとつは、移籍1年目はリバプール時代になかなか90分間試合に出ることがなかったので、毎週90分フルに戦えるようなフィットネス状態に持っていくのに苦労しました。
それにフランスリーグはほかのリーグに比べて、よりタフな1対1の争いが多く、適応するのに時間がかかった部分もあります。
もうひとつは、昨夏就任したアドルフ・ヒュッター監督の存在。ザルツブルク時代(14-15シーズン)に一緒でしたし、彼のやりたいサッカーと自分のストロングポイントがうまく噛み合いました。快適で、すごくプレーしやすかったですからね」
プレシーズンマッチのバルセロナ(スペイン)戦ではアシストを記録し、3-0の勝利に貢献
――あと1点で2桁だった。
南野「チャンスはあっただけに、9点取れたというよりも、9点しか取れなかったという感覚。昨季は1年を通して筋肉系のトラブルもなく、体のキレも維持できたので、今季はさらにいいシーズンにしたいと思っています」
――リーグ2位でCL出場。自ら出場権獲得に貢献して出るCLは、リバプール時代とは違った思いもあるのでは?
南野「チームの中心として勝ち取った出場権ですし(優勝候補の)リバプールとは立ち位置が違いますからね。ザルツブルクのときもそうでしたが、モナコはチャレンジャーとしての意味合いが強い。ただ、僕的にはそのほうが燃えるし、楽しみです」
リーグ開幕戦では技ありのループシュートが決勝点に。今季も絶好のスタートを切った
――CLの最大の魅力は?
南野「欧州各国のビッグクラブと対戦できて、そこで活躍すればサッカー選手としての可能性が広がります。僕自身、ザルツブルクからリバプールへ移籍した際にそれを強く感じましたし、1試合で世界を変えることができるのがCLなんです」
――『レキップ』の年間ベストイレブンという評価もうれしいのでは?
南野「その前のシーズンはさんざん叩かれましたからね(笑)。ただ、自分の力で見返せたというか、力を認めてもらえたことはうれしい。外国人選手として来ている以上は、結果を出す以外に認めてもらう方法はないし、そういう目に見える評価は自信にもなるし、周りからの信頼にもつながりますから。だからこそ、今季は自分の力を信じつつ、天狗(てんぐ)にならないように頑張るだけかなと思います」
■「力を発揮してW杯でリベンジしたい」
日本代表に話を移すと、早くも26年北中米W杯のアジア最終予選がスタート。FIFAランク18位の日本はオーストラリア(同24位)、サウジアラビア(同56位)、バーレーン(同80位)、中国(同87位)、インドネシア(同133位)と同組になり、2位までに入ればW杯出場が決定する(3位、4位はプレーオフに回る)。
――まずはホームで中国と、その5日後にアウェーでバーレーンと戦います。
南野「本大会出場枠が増えて予選がラクになったとはいえ、ストレートでW杯に行くには(グループで)上位2チームに入らないといけないのは変わらない。前回の最終予選でも一緒だったオーストラリアとサウジアラビアは簡単な相手ではないし、(今年の)U-23アジア杯で韓国に勝ってベスト4に進出したインドネシアも不気味。今、国内リーグがすごい盛り上がってるらしく、アウェーはどうなるかわからない。
そうなると、9月のこの2試合は絶対に落とせないし、重要になる。前回の最終予選は初戦で敗れて、その後、どれだけ苦しかったことか......(苦笑)。負けたら終わりという試合が何試合も続き、緊張感が半端なかったですからね」
22年カタールW杯では、グループリーグで優勝経験のあるドイツ、スペインを下したものの、決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦の末に敗れ、悲願のベスト8には届かなかった。南野は予選からレギュラーとして戦い、攻撃の中心としての活躍を期待されたものの、本大会では4試合で計57分間の出場にとどまった。そして、クロアチアとのPK戦では1番手のキッカーに名乗りを上げたが、相手GKにシュートを阻まれた。それらは悔しい記憶として刻まれているはずだ。
カタールW杯、決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦は延長でも決着がつかずPK戦に。南野は1番手のキッカーに名乗りを上げたもののシュートは防がれ、チームも敗退。涙に暮れた
――PK失敗については、その後の取材で「人生最悪の日だった」とも話していましたが、今はどういう記憶として残っているのか。
南野「もちろん、悔しい気持ちは忘れてないですし、あの失敗をそのまま終わらせたくない思いは強いです。
ただ、誰かの失敗って周りが心配するほど当人にとっては大したことじゃないっていうか、いつまでも引きずっているわけじゃない。当時は僕自身、クラブでもうまくいっていない時期でしたが、今はまた自信を取り戻して最終予選に臨める。今度こそ、自分の力を発揮してW杯でリベンジしたいという気持ちです」
――あのPKは蹴らずに逃げることもできたのでは......。
南野「でも、蹴る前は決めることしか考えてないですからね。大会中にPKの練習をしていて、そこではうまくいっていたのでチームを勢いづかせるためにも『最初に行かせてほしい』と言ったのですが......」
――またPK戦になったら?
南野「蹴りたい。っていうかそう言える立ち位置にはいたいと思います」
■「今の代表のメンツを見れば......」
「南野左サイド問題」――。日本代表を囲むメディアやファンの間でたびたび話題になるキーワードだ。例えば、今年1月のアジア杯初戦のベトナム戦で、南野はトップ下で先発すると2得点1アシストと躍動したが、続くイラク戦で左サイドにポジションを移すと思ったように機能せず、チームも敗戦。すると、南野の起用法や適正ポジションがネット上で広く論じられた。
――代表での起用法が話題になったこともありますが、気になるものですか。
南野「別に気にしてないですよ。選手としては与えられたポジションで機能できなければ自分のせいですし、いちいち気にしても仕方ないですから。中央でのプレーのほうがやりやすいのは確かですが、それは本当に戦い方によるので。今のモナコでは4-4-2のサイドでも、まったく問題ないですし。
でも、サイドに張るウイングのようなプレーは得意じゃない。その意味で、今の代表には僕よりもサイドの適性のあるスペシャリストがたくさんいるし、その中で僕が真ん中でプレーせざるをえない状況になれば、それが一番いいのかなって」
リゾート地として有名なモナコ。「特別な雰囲気がある街。景色も気候もいいです。カジノにハマっているチームメイトもいるみたいですね」
――日本はW杯で長くベスト16の壁を越えられずにいます。最後に、その壁を越えるためには何が必要か、南野選手の考えを聞かせてください。
南野「それがわかれば簡単ですが、結局、誰にもわからないじゃないですか。ただ、僕は(W杯のような大舞台で)何が勝敗を分けるかといえば、50%以上はメンタルだと思っているんです。
だから、あとはどれだけ自信を持って、いつもどおりプレーできるかがカギ。今の代表のメンツを見れば、欧州のビッグクラブでやっている選手もいるし、対戦相手と比較しても負けていない。もちろん、試合に勝つには多少の運も必要になりますが、ベスト16の壁を突破できる力は十分あると思っています」
●南野拓実(Takumi MINAMINO)
1995年生まれ、大阪府出身。2013年にC大阪のトップチームに昇格。15年からザルツブルク(オーストリア)で、20年からリバプール(イングランド)でプレーし(サウサンプトンへの期限付き移籍期間も含む)、22年にモナコに加入。174㎝、68㎏。日本代表59試合出場21得点