里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第20回では、「ある物事に関する意見の持ち方」に関する考え方に迫ります!

「ある物事に関する意見の持ち方」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右) 「ある物事に関する意見の持ち方」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右)

■「自分が勝てるレース」で確実に勝つ

――前回は、「人間の生きる理由」「人生に大切な4つの要素」として、「1.お金、2.家族、3.趣味、4.仕事」というお話がありました。この中の優先順位によって、その人の人生観がわかるというお話でした。その視点があれば、他人と比べて喜んだり、落ち込んだりすることもなくなりそうです。

里崎 以前にもこの連載で言ったけど、他人と比べることは無意味だし、あくまでも「今、自分が走っているレースで1位になればいい」という考え方を忘れなければいいと思いますね。すでに他人がリードしているレースに、わざわざ負けるために参加する必要なんて、どこにもないじゃないですか?

五十嵐 それは終始一貫して、サトさんが言い続けていることだよね。言葉にすれば当たり前なのかもしれないけど、「自分らしく、自分の道を歩んでいく」ということが、レースで1位になるベストの方法なのかもしれない。僕もだんだん、サトさんの考え方が理解できるようになってきましたよ(笑)。

里崎 「さぁ、今からマラソン大会やるよ!」って声をかけて、参加者は自分ひとりだけ。そうすれば、たとえタイムが何時間かかろうとも、最後まで完走できれば絶対に1位になれるでしょ。途中でリタイアしない限りは絶対に勝てる。負けないレースになる。そうやって、確実に勝てるレースで自分なりの経験を積み重ねていけば、次に他人が出場するレースでもいい勝負ができるようになっていくし、いつかは勝つこともできるかもしれない。

五十嵐 でも、その「自分だけのレース」というのは、自分で作り出すものですよね? それって、「あえて人がいない道を歩こう」とか、「人と違ったスタンスをとろう」とか、世の中の考え方や常識のようなものの逆張りをするということですか?

里崎 そう、あえて逆張りする。その意識は、僕は常に持ってるよ。

五十嵐 でも、そうなると本心とは裏腹のことを言うことにならないですか? 例えば、世間は「Aだ」と言っていて、自分でも本当は「Aだよね」と思っているのに、それでもあえて「Bです」って言うのは、自分自身にウソをつくことにならないですか? 僕はやっぱり、ウソをついてまで目立ちたいとか、注目されたいとは思わないな。

里崎 全然、そうはならないと思うけどな。

■視点を変えれば、常に2つの「答え」を持つことができる

五十嵐 えっ、それはどうしてですか?

里崎 ある事柄について、心情的にはA寄りかもしれないけど、Bもまた自分の意見だと思っているから。僕の場合は常にいつも答えを2つ持つように意識していて、それを習慣化しているからね。

五十嵐 そもそも、AとBという異なる考え方なのに、答えを2つ持つなんて可能なんですか? 矛盾してないですか?

里崎 例えば野球の場合で言うと、ひとつのプレーに対して、「打った側」と「打たれた側」と2つの視点があるわけでしょ? そのどちらを主語にして話すか。この点を意識すれば、自然と2つの答えを持つことができるようになると思わない?

五十嵐 確かに、野球に限らず勝負事には「勝者」がいれば、必ず「敗者」がいますね。みんなが勝者に注目しているときには、あえてあまり注目されていない敗者にスポットを当てるということですか?

里崎 単純に言えば、そういうこと。バッターが劇的なホームランを打ってみんなが褒めているのなら、僕はあえて打たれたピッチャーの視点に立って、「なぜ打たれたのか?」を語る。そこに至るまでの伏線や要因を見つけ、どうしてバッテリーはその配球を選択したのかを話す。

五十嵐 なるほど。もちろん、ホームランを打った側の視点に立って、「どんな狙いでボールを待っていたのか?」「どんな技術で、このボールをホームランにしたのか?」という「打者視点」で語ることもできる。その一方で、真逆の「投手視点」に立てば、他人とは違った解説も可能になりますね。

里崎 最初の話に戻るけど、「打者視点」も「投手視点」も、どっちも僕自身の考え。亮太が心配していたようにウソをついているわけでもないし、受け狙いのために、無理して本心とは別のことを口にしているわけでもないでしょ。

五十嵐 なるほどなぁ。そうやって、常に少数派、少数派の視点で物事を見たり、言ったりすれば、それはその人ならではの独自性、個性に繋がってきますよね。

里崎 そう。そうすれば、以前この連載で言ったように、一方の意見の陰に隠れた賛同者の"隠れ賛"が現れて、「里崎はよくわかっている」「実はオレもそう思っていたんだよ」と熱烈に応援してくれたり、評価してくれたりするようになるからね。

■もう一度言う。「少数派になることを恐れるな」

五十嵐 それがサトさんの言う、「常に2つの答えを持っている」ということになるのは僕にも理解できました。ただ、それだと常に「別の答え」が必要になってくるから疲れませんか? かなり体力を使う作業になりそうだけど。

里崎 そんなことは全然ないでしょ。AとB、どっちの視点に立って物事を言うか? ただ、それだけのことだから。大切なのは、「今、世間の風潮はAなのか、それともBなのか?」という現状を正しく理解、認識することだけ。それを理解した上で、「じゃあ、僕はBでいきますよ」と立ち位置を決めて話し始めればいいだけだから。

五十嵐 世の中の人がみんな絶賛しているときに、あえて反対意見を言う。あるいは、世間全体がバッシングしているときには、あえて擁護意見を言う。そのスタンス、考え方は理解できるけど、結局は少数派の側に立つわけだから、「多勢に無勢」とならないのかな? いずれにしても、体力を使う大変な作業だと思いますけど......。

里崎 確かに、みんなが絶賛しているときに批判するということは、ネガティブアプローチをすることになるけど、それは単なる誹謗中傷ではなくて、評論家として当たり前の評論なんだから、そこまで気にする必要はないと思うけどね。

五十嵐 もちろん、評論家というのは「ただ褒めるだけ」でもいけないし、「ただ貶(けな)すだけ」でもダメ。冷静な視点で物事を批評、評論しなければいけないのは確かだから、そう考えればサトさんの考え方というのは、別に無理してやっているわけじゃない。評論家として自然なものだし、むしろ正しいスタンスですね。

里崎 この連載で何度も言っているように、「少数派になることを恐れるな」と、あらためて言いたいよね。そして少数派だからこそ、最初に言った「自分が勝てるレース」に参加することができるわけだし。

五十嵐 それを続けているうちに、"隠れ賛"も出てくるわけですからね。今回でさらに、サトさんの考え方が理解できるようになってきた(笑)。

里崎 そうそう。亮太もだんだんわかってきたね(笑)。いずれにしても、少数派になることを恐れずに、人と違ったスタンスからアプローチしていけば「自分だけのレース」で勝ちやすくなる。これはライフハックのひとつと言ってもいいと思いますね。

――これまで、本連載で一貫して言い続けてきたことが、だんだん繋がっていく快感がありますね(笑)。では、次回もまたいろいろ伺っていきます。引き続き、よろしくお願いいたします。

里崎五十嵐 了解です。次回もよろしくお願いします!

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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