里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第21回では、「指導方法の変化」に関する考え方に迫ります!

「指導方法の変化」について語った里崎智也氏(右)と五十嵐亮太氏(左) 「指導方法の変化」について語った里崎智也氏(右)と五十嵐亮太氏(左)

■昭和の時代の上下関係を振り返る

――今回からは「人間関係」について伺いたいと思います。友人関係はもちろん、指導者と選手、師匠と弟子の師弟関係、先輩後輩の上下関係、そして親子関係など、人間関係全般についてお尋ねします。里崎さんは以前、「基本、ひとりで行動することが多い」と話していましたね。

里崎 地方に仕事で行っても、「できるだけ早く帰りたい」と思うタイプなので、飛行機や新幹線が間に合うならば、なるべくその日のうちに帰るようにしていますね。みんなは「せっかくの地方出張だから、美味しいものを食べて、呑んで騒ぐぞ」と考えるようですけど、僕は真逆。どうしても泊まらなければいけないときでも、翌朝すぐ新幹線に乗れるように新大阪のホテルに泊まるし。

五十嵐 せっかく大阪に行くなら、心斎橋や梅田、キタやミナミで呑みたいとか思わないんですか? 僕なら、絶対にご当地の美味しいものを食べに行くけど。

里崎 もちろん、誰かに誘われたら呑みに行くこともあるけど、自分から誘ってまでは行かない。別にひとりで過ごすのも苦にならないから。

五十嵐 僕たちは昭和、平成初期の野球部出身だから、どうしても強烈な上下関係を経験しているし、今でも野球界は先輩・後輩の関係が明確にあるけど、そういうのは平気なんですか?

里崎 それはもう、僕らにとっては基本だから。当たり前のことで、今さらそれを不思議に思ったり、疑問に思ったりすることもないよ。今の時代から見れば、体育会系の人間関係のあり方はいろいろ問題があったとは思うけど、それはあくまでも「そういう時代だった」ということ。今の時代の考え方で昔のことを判断したり、評価したりすることにはあまり意味ないと思っているね。

五十嵐 昔と今の大きな違いで言うと、昔はいわゆる「頑固おやじ」とか、めちゃくちゃ怖い先生とか、当たり前にいましたよね。野球部でもすごく厳しい監督、コーチや先輩もたくさんいたし。理不尽なことも多かったけれど、実は役立ったこともあったはず。今から考えると、そう思えることもありますね。

里崎 繰り返しになるけど、それも「時代」だからね。現代人はどうしても昔と比べて、「昔はひどかったけど、今はよくなった」と考えがちだけど、20年後から見たら、今も決していい時代ではないかもしれない。だから、僕の場合は「別にいいも悪いもなく、あのときはそういう時代だったんだな」と考えるようにしています。

■「石ころがダイヤモンドになる時代」があった

五十嵐 野球教室のお仕事で、全国の野球チームで指導をすることも多いんだけど、僕らの時代とは明らかに雰囲気が違っていますよね。それは父兄の人たちが、指導者に対して「あれがおかしい、これがおかしい」と指摘すること。徐々に今のように変わっていったということだけど、今の子どもたちにとっては快適な環境が整っていると思いますね。

里崎 でも、たまに昔ながらの指導者が率いているチームもあるよね。

五十嵐 あるある。そういうチームの親御さんに話を聞くと、「むしろ、昭和の頃のように軍隊式の指導で厳しく子どもに接してほしい」という希望もあるみたいです。さすがに体罰とか、手を挙げるようなことはしてはいけないけど、ある程度の厳しさを求める親もいるのも事実ですね。

里崎 時代は移り変わって、今のようなスタイルが定着したのかもしれないけど、絶対にその反動で「昔はよかった」「昔のような厳しい指導もある程度は必要だ」という揺り戻しは必ずやってくると思うよ。かつての「ゆとり教育」と一緒で、「やっぱりダメだ」ってなったように。基本的に、日本人の気質として「緩い」のは向いていないと思いますけどね。口では「自己責任だ」と言いつつ、実際のところは自己責任を求めていないというか。

五十嵐 どういうこと?

里崎 心のどこかでは「誰かに助けてもらえる」という思いがあるじゃないですか。たとえば、国民年金保険があって、社会保険があって、年金もあって、生活保護まである。こんなに国の税金で守られている国は、日本の他にはないんじゃないのかな? 欧米式の自由を求める一方で、社会主義国並みの保証を求めているから。

五十嵐 なるほど。確かにそうですよね。でも、実際のところ「特にいいも、悪いもないんだ」ということはあるにせよ、サトさんだったら、昔のような軍隊式上下関係と、今のようなフレンドリーな関係とどちらがいいですか?

里崎 僕は単なる"石ころ"だったから、昔のほうが圧倒的によかったな。昔の指導方法だと、ダイヤの原石が磨かれる前に壊されてしまったケースもあったと思う。その一方で、軍隊式で徹底的に鍛えられたおかげで、壊されることなく石ころからダイヤになるケースもあった。逆に今の社会は、ダイヤの原石が壊されることが少なくなった代わりに、石ころがダイヤモンドに変わる可能性も減ってしまったんじゃないかな。

■里崎、五十嵐、それぞれの恩師を語る

五十嵐 確かにその通りだけど、「もっと追い込めばもっともっと磨かれて光るのに」と思いつつ、「壊れたら困るから、このへんでやめておこう」というケースも増えましたよね。佐々木朗希や奥川恭伸を見ていると、ちょっともどかしく思うこともありますからね。そういう意味では、さっき言ったように「もっと軍隊式の指導を」と求める親がいるのもわからなくもないですけど。やっぱり、いい指導者に出会えるかどうかは、親としては大きな関心事だから。

里崎 自分の話になるけど、高校に進学するときに5校の監督と話して、僕が進学した鳴門工業高校の高橋広監督だけが僕の将来のビジョンを語ってくれた。15歳の僕にとって、それはとても新鮮で、そもそも工業高校には進学するつもりはなかったのに、高橋先生についていく形で進学を決めました。学校で選んだんじゃなくて先生で選んだ。その後も、先生が敷いてくれたレールの上を進むように、大学に行き、プロに進みましたからね。

五十嵐 僕も、恩師と呼べるのは敬愛学園高校時代の古橋富洋監督ですね。まだ監督に就任したばかりの若い監督で、熱血的な指導で厳しい監督だったけど、ピッチャーとして入部したわけじゃないのにピッチャーにしてもらって、肩やひじを痛めないように無理な登板もなかった。先生自身がピッチャー出身だということも大きかったし、僕にとってはいい出会いでしたね。

里崎 いい出会いによって、人生が大きく変わることは間違いない。だからといって、ただ同じ時期に同じ組織にいたからと言って、それだけの理由で「先輩だ、後輩だ」というのはまったくナンセンスだと思うけどね。

五十嵐 体育会系というのは1年でも生まれたのが早いのか、遅いのかだけで上下関係がカッチリと決まってしまうものですからね。でも、サトさんの言うように、ただそれだけの理由で敬ったり、敬われたりするのは確かにヘンだと思いますね。

里崎 同じように、ただ年長者だというだけで、その人が言っていることがすべて正しいわけでもないし、それが自分にとって有益なものというわけでもないし、そのあたりはきちんと自分自身で見極めなければいけないと思うよね。

――「人間関係」について伺ったところ、まずはそれぞれの恩師についての話題となりました。次回は、改めて「そもそも友だちは必要なのか?」といったことをお尋ねしたいと思います。引き続き、よろしくお願いいたします。

里崎五十嵐 了解です。次回もよろしくお願いします!

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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