オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
レギュラーシーズンが終わり、いよいよポストシーズンが開幕するプロ野球。共に4年ぶりのリーグ優勝を果たした巨人とソフトバンクがそのまま日本シリーズへと突き進むのか? はたまた、直接対決で五分だった阪神と日本ハムが下克上を果たすのか?
* * *
巨人とソフトバンクが共に4年ぶりの覇権奪還を果たした今年のプロ野球。ここから始まるCSでは、どんなドラマが生まれるのか? そして、下克上はありえるのか?
「1位には1勝のアドバンテージがあり、しかもホームで6試合できるので、かつてのような下克上は起こりにくくなってはいます。
ワイルドカードのチームがワールドシリーズまで駆け上がることもあるMLBとは、ポストシーズンの設計がだいぶ異なり、1位の球団にとってはやりにくいですが、勝たなければいけないし、勝ちやすいのがCSです」
こう語るのは『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。確かに、3試合制で先に2勝すれば勝ち上がるファーストステージでは、3位による下克上が過去に何度も起きている一方、ファイナルステージが現行の6試合制となってから1位が敗れた例はセで2度、パで3度と非常に少ない。
「CS制度が始まった当初、1位は休養が十分な半面、野手の試合勘がやや鈍るリスクもありました。現在ではその対策も進み、秋季リーグなどを活用して実戦経験を積み、投手もリフレッシュするなど、いい方向に作用することが増えています」
ただ、1位だから楽勝というわけではなく、ファイナル特有の難しさも当然ある。
「長いペナントレースと違って捨て試合がつくれない上に、同一球場6連戦という戦いは、1年間でこのCSファイナルステージだけ。先発の登板間隔も短縮され、中継ぎも6連投になる可能性があり、かなり異質な短期決戦です。
ロングリリーフや第2先発を配置し、先発が不調なら早めに見切りをつけるなど、普段と違う戦い方が必要になります」
さらに、今季の上位陣には例年とは違う傾向がある。セ・パ共に1位と2位の直接対決が12勝12敗1分けとまったくの互角なのだ。
「セは巨人と阪神のチーム力の差が小さく、阪神が勝ち上がってきたほうが巨人にとってやりにくいのは間違いありません。
一方のパは1位と2位の差が10ゲーム以上離れているものの、ソフトバンクは終盤に対日本ハム7連敗を記録。普段、圧倒的な勝率を誇るみずほPayPayドーム福岡でも4連敗を喫しています。チームのモメンタム(勢い)は日本ハムにあるだけに、これ以上ない嫌な相手です」
そんなセ・パ上位2球団の今季の内容と、ファイナルで戦う場合の展望を見ていこう。
お股ニキ氏が「力の差は小さい」と語ったとおり、チーム防御率やチーム打率がほぼ互角だった巨人と阪神。9月最後の直接対決2連戦は1勝1敗、かつ、2試合共に1-0という拮抗ぶりだった。
とはいえ、最終的にペナントレースの軍配は巨人に上がったことについて、お股ニキ氏は3つの点を指摘する。ひとつ目は「守備力」だ。
「今季は超投高打低で三振と四球が減り、前に飛んだ球をどれだけ処理できるかが違いを生みました。その点で巨人の守備はソフトバンクと共に球界随一。一方の阪神は失策数が多かっただけでなく、要所でのミスも目立ちました」
ふたつ目は「監督の柔軟性」。巨人の阿部慎之助監督の臨機応変な采配にうならされる場面が多かったという。
「岡本和真を一塁、三塁、レフトで使い分けることで、大城卓三や坂本勇人との併用が可能に。また、試合中は1球ごとに外野の守備位置を細かく指示し、しかもそれが的確でした。そこは捕手出身監督ならではといえます」
一方、昨季はまさに采配力を絶賛された阪神の岡田彰布監督だったが、今季はうまくいかない場面が多かった。
「シーズン中に主力選手を2軍に落として調整させ、彼らが終盤に力を発揮した点はさすがといえます。ただ、打順やスタメンは基本的に固定でしたし、ブルペンも70試合投げた桐敷拓馬を筆頭にやや無理をさせました。『型』はありましたが、柔軟性が阿部巨人との差となりました」
3つ目の差は「外国人」。巨人も阪神も外国人投手はしっかり活躍したものの、野手で明暗が分かれた。
「阪神はシェルドン・ノイジーとヨハン・ミエセスを6月までに見限り、7月以降は日本人が並ぶ打線でした。一方、前半戦で苦しんだ巨人打線を救ったのは間違いなくエリエ・ヘルナンデスです。そして、彼が負傷離脱すると代わってココ・モンテスを獲得。
投手陣でも新加入のカイル・ケラー、2年目のフォスター・グリフィンやアルベルト・バルドナードがチームを支えたように、どのようなタイプが日本で活躍できるのか、球団はもうわかったのだと思います。外国人野手の獲得が難しい中、フロントの柔軟性でも巨人が一枚上手でしたね」
では、阪神はどうすれば下克上できるのか? お股ニキ氏は後半戦で復活し、防御率1点台の投球を続けた髙橋遥人の起用法を挙げる。
「阪神は昨季ストロングポイントだった投手力が若干落ち、今や一番安定しているのが髙橋です。ただ、故障明けのため、ファーストステージで投げるなら、ファイナルステージでの登板を期待するのは酷かも。ならば、あえてファーストステージでは温存し、ファイナルステージにぶつけたほうがいいかもしれない。
あとは、軸となる才木浩人とジェレミー・ビーズリーをファーストステージも含めてどの試合で投げさせるかも勝負の行方を左右しそうです」
迎え撃つ巨人は、菅野智之と戸郷翔征の二枚看板がいい状態を維持し続けている。
「日本シリーズも含め、短期決戦では初戦で相手のデータを取ることも重要ですが、球種が豊富で制球力のある菅野はまさにうってつけの存在。仮に負けても戸郷がいるから連敗はしにくく、3戦目以降に投げる井上温大やグリフィンもいい。
中継ぎ陣も7月以降は12球団ナンバーワンの成績でした。それだけに、両球団の戦いは、どれだけ失点を防ぐかが鍵になりそうです」
今季のパを振り返れば、改めてソフトバンクの圧倒的な強さが際立つ。
「9月の日本ハムが好調で独走の印象が薄れましたが、それでも10ゲーム差以上ありました。しかも終盤は柳田悠岐に加えて近藤健介も離脱する『飛車角抜き』にもかかわらず、です。
打線の傑出度でいえば、100打点が4人いた2003年の『ダイハード打線』以上。得失点差200点超えという異常値を叩き出すほどの強さでした」
その要因として、お股ニキ氏は山川穂高の補強やリバン・モイネロの先発転向が当たったことに加え、小久保裕紀監督の「まっとうな野球」を挙げる。
「規律を重視する小久保監督の下で球団がしっかりまとまりました。野手に対しては、球種の絞り方、長打の狙いどころ、守備でのスローイングなど、やるべきことを徹底。柳田不在でも動じず、柳町 達、正木智也、廣瀨隆太の慶応トリオを抜擢しました」
そして、盤石の投手陣を支えたのは、今季復帰した倉野信次投手コーチだ。
「モイネロだけでなく、大津亮介の先発転向も当たり、スチュワート・ジュニアの飛躍も実現。救援陣の運用にも気を配って若手投手を次々に抜擢し、原則3連投なしでシーズンを完走しました」
そんな強者相手に下克上を狙うのが日本ハム。上述したとおり、対戦成績は互角で、今季最後の直接対決で敗れるまで7連勝。そのうち3勝を挙げたのが伊藤大海だ。
「日本ハムとしては伊藤をどう使うか。あえてファーストステージを回避してファイナルステージに照準を合わせる勝負手を打つ可能性もあります。
ただ、これほど覚醒し、リーグを代表する投手となってしまうと、正攻法でまずはファーストステージ初戦でロッテの佐々木朗希と投げ合い、ファイナルステージの5戦目以降にもう一度ぶつけることになりそう。終盤の状態なら北山亘基らも好投する可能性は大いにあります」
対する王者ソフトバンクとしてはどう迎え撃つのか?
「最大の鍵は、柳田と近藤の復帰が間に合うかどうか。そして、ファームの本拠地でもある筑後の最新設備を使って、伊藤の投球を研究、シミュレーションし、ソフトバンク打線が攻略の糸口をつかめるかどうか」
投手陣は、有原航平、モイネロの二枚看板に託すことになりそうだ。
「今季、エース有原が日本ハム戦で防御率4点台なのは不安材料です。本来なら1戦目が有原、2戦目がモイネロですが、どうなるか。あとは、今季、日本ハム戦で好投したスチュワート、故障した大関友久に代わって4番手候補の大津、石川柊太にも注目です」
下克上を期待するファンがいる一方で、「4年ぶりの巨人対ソフトバンクの頂上決戦を!」「菅野・戸郷vs有原・モイネロの投げ合いが見たい!」というファンも多いはず。頂点を目指した熱戦で盛り上がる日々を願うばかりだ。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。