板倉 滉いたくら・こう
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、2019年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスター・Cへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲン、ドイツ2部シャルケを経て、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍
先月から始まった2026年北中米W杯アジア最終予選にて、日本は2戦合計12得点、失点は0と好スタートを切った。その圧倒的な強さの秘密とは何か。間近に控える難関のサウジ、豪州戦への意気込みも含め、板倉が独白!
北中米W杯最終予選が始まった。応援してくださる皆さんのおかげで9月はホームの中国戦が7-0、アウェーのバーレーン戦は5-0と好スタートを切れた。
前回、前々回とW杯最終予選の初戦はいずれも黒星発進。さらに敵地でのバーレーン戦を苦手としてきた日本代表が、なぜ今回は2戦とも大勝できたのか。
まずは中国戦。試合には全員が緊張感を持ってしっかりと入れたのが大きかった。前のW杯最終予選で続いた苦戦、今年1月のアジア杯での敗北を教訓に、決してアジアを舐めてかかってはいけない、その一心だった。
対戦相手の中国がどうこうではなく、僕らがどうやって初戦に臨むのか。そのほうが重要で、守備陣としては、始めから反撃の隙などまったく与えずに圧倒してやろうと意気込んでいた。
いざフタを開けてみれば、中国は引いてきた。真ん中に選手たちが固まっていたし、守備に徹する形だった。僕らは両サイドから攻撃陣の個の力を生かし、攻め続けた。
僕はあまり経験がない3バックの右を任されたが、特に違和感もなく、右サイドでボールを欲しがっている前線のMF(堂安)律やタケ(久保建英)にできるだけいい状況でパスを供給することを考えた。
右が微妙ならば、いったん戻して左サイドへ。そこには(三笘)薫がいて、彼もまた積極的にドリブルを仕掛ける。さらに、両翼からは精度の高いクロスが次々と上がってくる。中国はかなり苦しんだはずだ。
前半12分には、セットプレーから先制点を決めることができた。得点者はMF(遠藤)航君。セットプレーの種類はいくつか用意していて、その中のひとつがバッチリ決まった。
僕の役割はファウルをもらわないよう、絶妙な位置で相手の進行方向をふさぐブロック。相手の動きを遅らせれば十分だというポジションを意識。結果として、航君はどフリーに。あまりにもうまくいきすぎて、自分でも驚いてしまったぐらいだ。
前半の終盤には相手FWジャン・ユイニンから思いっきりヒジ打ちを食らうアクシデントもあったけど、それ以外は理想的な展開。中国がもっと激しくくることも予想していたけど、結果はワンサイドゲームになった。
中国戦を終えて23時頃に帰宿すると、深夜1時には出発、3時の便でバーレーンへの移動だった。現地の日中の気温は40℃、そして夕方を過ぎても35℃超えで、湿度は70%。
まるでサウナに入っているようだった。一度、昼間に散歩してみたときは、とんでもない暑さですぐに引き返したほどだ。試合は日没後だったけど数日間のうちで一番の暑さだったと聞いた。
僕は普段からサウナが好きで、所属先のボルシアMGの練習場でもサウナから水温10℃のアイスバスに入るのが習慣だから、暑さには強いと自負していたが、やはり中東の暑さはたまらない。
試合は中国戦に比べると、過酷だった。ピッチ状態は硬く芝が立っていて、ボールを真っすぐ蹴っても、ウネウネと転がっていく。
そんな状況に加え、国歌斉唱でのブーイングやレーザーポインターなど、アウェーの洗礼を受けつつも、緊張感を持って試合に臨んだおかげか、冷静に対応できたのは良かった。
前半、相手がタイトにきていることもあり、僕としては後ろからリズムをつくりたかった。
下がってボールを受けたがるFWの(上田)絢世には「裏に抜けてくれ」と伝え、逆に裏へ抜けようとするMFの(南野)拓実君には「相手を背負ってでもいいから、一度下りて(僕に)ボールを出してほしい」と頼んだ。
ふたりはすぐに対応してくれた。前半終了間際にPKで先制。これで流れが変わったと思う。
この2戦を圧勝できたのは、いろんな要因がある。監督の采配はもちろん、システムや選手の質がアップデートされて、向上していること。
東京五輪から始まって、長い期間、見知ったメンバーで経験を積み重ねているので、意思の疎通や連係がよりスムーズになっていること。加えて、若い世代の加入で競争が激しくなったことが考えられる。
守備陣では、DFの高井幸大君がA代表デビューを飾った。中国戦での交代時、僕は「楽しんで」と声をかけて送り出したが、彼は堂々とプレーしていた。負けていられないと思った。レギュラーの確約などない。出場機会が与えられれば全力を尽くすのみ。
さらに、DF(長友)佑都君の激励、それにハセ(長谷部誠)さんのコーチ就任もさらなる追い風となった。ハセさんはついこの間まで現役だったから、指導も実戦的。
例えば映像を分析しながら「もうちょい、この場面はポジション高く取れたね」とか、かなり緻密だった。
もうすぐ次の2戦を迎える。10月15日のホーム、対戦国オーストラリアはいい選手をそろえているので油断は禁物だけど、一番のヤマ場は11日のアウェー、サウジアラビア戦だと思う。
この国は自国での戦いとなると、まるで別次元の強さを見せる。スタジアム、観客も含めて一体となり、バーレーンとは違った〝圧〟をかけてくるのだ。
21年10月8日に行なわれたカタールW杯最終予選。僕は出場機会こそなかったが、ベンチでそれを味わった。最悪引き分けでもよいから、勝ち点1以上を必ず取る。緊張感を持って、難局を乗り越えたい。
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、2019年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスター・Cへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲン、ドイツ2部シャルケを経て、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍