オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
MLBもいよいよ2024年シーズン最終決戦へ――。伝説が生まれそうな好カードの注目ポイントを総ざらい!
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ついにワールドシリーズにたどり着いたドジャース・大谷翔平。対するは今季、大谷超えの58本塁打を放ったアーロン・ジャッジ率いるヤンキース。東西の名門球団による43年ぶりの激突であり、シーズン50本塁打超えの打者がワールドシリーズで戦うのは史上初の出来事。まさに〝MLB最強打者対決〟だ。
「『大谷、大谷と騒ぎすぎ』という声も聞こえますが、そうは思いません。サッカーでいえば、全盛期のクリスティアーノ・ロナウド擁するレアル・マドリードと、リオネル・メッシ擁するバルセロナがチャンピオンズリーグ決勝で戦うようなもの。日本人がチームの顔としてこの舞台にたどり着き、とても感慨深いです」
こう語るのは『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏。MLBに精通する氏は大谷とジャッジの打者としての特徴を「対応力の大谷、再現性のジャッジ」と明示する。
「MLBで必要とされる能力のひとつが再現性の高さ。打者は長い目で見れば再現性があるほうが安定します。相手投手の失投や自分の得意球を確実に仕留めることで数字も残せますから。
ただ、相手投手のレベルも上がり、相手により分析されるポストシーズンでは、そこまで力を発揮できないケースも。ジャッジもワールドシリーズの前までは打率1割台、2本塁打と苦しんでいました」
一方、大谷翔平の特徴である対応力とは?
「大谷はまさに『ここぞ』の場面で徹底的にやる男。メッツとのリーグ優勝決定シリーズでも、第2戦でまったく打てなかった変則左腕のショーン・マナイアに対し、第6戦ではいつもより少しだけオープンスタンスに調整した結果、しっかり対応してチームの逆転につなげました。ジャッジであれば、同じスイングをして同じように打ち取られていたかもしれません」
確かに、シーズン終盤まで得点圏打率がリーグ最下位だった男が、ここにきて〝得点圏の鬼〟と化した変化も、対応力のなせる業なのだろう。
投手でも注目の比較がある。ドジャースの山本由伸と、ヤンキースのゲリット・コールだ。日本で3年連続沢村賞に輝いた山本に対し、コールは昨季のサイ・ヤング賞受賞者。日米で投手最高の栄誉を獲得したふたりがワールドシリーズで激突する。
「山本はシーズン途中に右肩を痛め、コールも右肘の炎症で大きく出遅れました。しかし、共に戦列に復帰した後は素晴らしい投球を見せているのも共通しています」
先ほどの再現性と対応力の話でいえば、山本は再現性タイプだが、「対策されたり、紙一重で打たれなかったボールが微妙に変わったりするととらえられてしまう」という側面もある。
実際、MLB1年目の山本は今季、この点で苦労する場面もあった。
「再現性が高いがゆえに、徹底的に研究されると癖や球種がバレてしまい、それを気にすると今度は本来のフォームで投げられず、球の質が悪化して対応されてしまう、という悪循環に陥るケースも......。
山本の場合、特に地区優勝を争ったパドレスには癖を見破られていたのか、レギュラーシーズン開幕戦での1回5失点から始まり、地区シリーズ初戦でも3回5失点を喫しました」
それでも、地区シリーズ第5戦に先発し、5回無失点と見事にリベンジ。再現性タイプでありながら、高い修正力も持ち合わせているのが山本の特徴なのだ。
「昨年の日本シリーズでも初戦で炎上した後、次の登板では新記録の14奪三振で制圧しました。パドレスとの地区シリーズでは、初戦で多投したスプリットを変化球ケアで対応されたので、次の登板ではそのスプリットを減らし、高めのフォーシームを増やしていました。こうした山本の修正能力や頭の良さ、勝負強さはやはり素晴らしいなと再確認できました」
ワールドシリーズでも、優勝するためには初登板での結果以上に、次の登板の出来が鍵を握るはず。どの球種が重要になるのか?
「私が以前から『スラッター』と呼ぶ縦のスライダーで空振りがどれだけ奪えるか。日本時代の決め球であるスプリットだけでなく、スラッターやカッターが重要になります」
ドジャース移籍が決まる直前まで、ヤンキース入りが濃厚と報じられていた山本。その因縁の相手にどんな投球を見せるのか、注目だ。
そもそも、誰もが知る有名球団でありながら、ヤンキースがワールドシリーズに進出するのは実に15年ぶり。なぜ、名門球団は頂点から長く遠のき、今季はそれを覆すことができたのか?
お股ニキ氏は、少し前まで画一的で貧弱だったデータ分析が改善されたことに加え、今季加入して41本塁打を放ったフアン・ソトの存在を挙げる。
「ソトはナショナルズ時代の2019年に、当時最強を誇ったアストロズを倒して世界一になる原動力となった選手。ジャッジ以外に勝負どころでチームを勝たせる打者が加わったことは非常に大きいです」
一方、ドジャースでチームを勝たせる役割を担った人物こそ、大谷翔平と山本由伸であり、そのふたりを使いこなしたデーブ・ロバーツ監督の采配の妙も、優勝のためには欠かせない要素だ。
故障者続出のため、ポストシーズンでは、先発が山本と今季勝ち頭(13勝)のジャック・フラーティ、ウォーカー・ビューラーの3枚だけという危機的状況にもかかわらず、継投策がさえ渡った。
「リリーフをつぎ込む『ブルペンデー』がポストシーズンで何試合もあるのは異常です。そのような状況でここまで勝ち上がれたのは驚異的。負け試合は捨てて投手を温存したり、抑え投手を中盤の勝負どころで使って大量リードを奪ってから一枚落ちる投手を投入したり、ロバーツ采配が光りました」
投手運用以外でも、ロバーツ監督の采配やパフォーマンスが目立つ場面は増えている。
「パドレスとの地区シリーズでは、相手のリーダー格であるマニー・マチャドがドジャースベンチにボールを投げ込んでしまった場面がありましたが、それを逆に利用し、球場の雰囲気を変えてチームの士気を高めました。大谷でもミスをしたら叱責し、監督としての威厳も増してきたように思います」
大谷自身が「ずっとプレーしたかった場所」と語ってきたワールドシリーズ。その夢舞台で今度はどんな伝説が生まれるだろうか?
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。