「自分なりの正義」の定義について語った五十嵐氏(左)と里崎氏(右) 「自分なりの正義」の定義について語った五十嵐氏(左)と里崎氏(右)

里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第27回では、「自分なりの正義」の定義に関する考え方に迫ります!

■小さな「正義」の積み重ねが、よりよい社会を生み出していく

――前回に続いて、今回も「正義」について伺います。前回は、とっさのトラブルに対して行動を起こせるかどうか? その一方で、自身の危機管理のためにも慎重にアクションすることも大切だ。そんな話になりました。

五十嵐 僕が挙げた例はちょっと極端だったかもしれないけど、本当はそんなに大げさに身構えて考えるものではなくて、「困っている人がいたら手を差し伸べてあげる」。小さなことかも知れないけど、そんな「正義」が積み重なっていくだけでも、今よりもいい社会になる気がしますけどね。きれいごとなのかもしれないけど。

里崎 「正義」ということを大げさにとらえるのではなく、日常の中にある「優しさ」みたいにとらえるのならば、亮太の言う通りだと思う。だけど、繰り返しになるけど、変なトラブルに巻き込まれて命を落とす人もいるし、僕らのように顔を出して仕事をしている人は目立つ分だけ、切り取りやデマによって一方的に加害者にされたり、冤罪に巻き込まれたりする可能性がある。そういう危機感は、やっぱり常に持っていないといけないと思うけどね。

五十嵐 そこが本当に難しいんですよね。頭ではリスクを理解して「慎重に行動しよう」とわかっていても、本当に急を要する非常事態のときには瞬時の判断を求められるケースもあるし......。よく言われることだけど、「やる後悔」と「やらない後悔」と、2つの後悔がありますよね。だけど、誰かが困っているときに、それを見て見ぬふりをしたら絶対に後悔するだろうなぁ......。例えば、電車の中で目の前の女性が痴漢被害に遭っていたとしたら、サトさんはどうします?

里崎 僕なら、まずは様子を見るかな。だって、それが確実に痴漢なのかどうか、パッと見ではすぐにはわからないよね。そこで正義感に駆られてアクションを起こしたとしても、当然、こちらの誤解による勇み足で冤罪に加担する可能性もあるし......。最終的には女の子が被害届を出さない限り捜査は始まらないから、観察して「間違いない」と判断するまでは、すぐには行動は起こせないし、無闇に私人逮捕なんてできない。

五十嵐 サトさんの言うことも、めちゃめちゃよくわかるんです。やっぱり、サトさんはキャッチャータイプで、危機管理がしっかりしていますよね。うちの妻にも、同じようなことを言われたことがあります。

■自分なりの「正義」を持てば、他人の意見に動じない

里崎 これも前回も言ったけど、そうした不測の事態に迷ったり動じたりしないように、自分の中でしっかりと「これだけは譲れない」という自分なりの行動指針というのか、"マイルール"を持っておくことは大切だと思うけどね。

五十嵐 サトさんのマイルールって?

里崎 前回話した「正義」の定義と一緒。「法律を犯さない範囲内で、僕自身が正しいと思った行動をする」、これが僕のマイルールだよね。世間の価値観や第三者の感情は関係ない。あくまでも、基準は「自分」においておく。

五十嵐 例えば、いくら世間の人が「目の前に困っている人がいるのならば助けに行くべきだ」と言ったとしても、サトさん的判断で「いや、ここは行くべきではない」と思ったら、堂々と「助けに行かない」という選択をするということですか?

里崎 どういうシチュエーションなのか、その後の自分のスケジュールや、そのときの体調はどうなのか、といったあらゆる条件を踏まえてのことだから一概には言えないけど、自分自身で「行くべきではない」と判断したのならば、それが第三者から見たら「悪だ」と思われたとしても、法律に抵触しない限り、それが正解。僕自身が「それが最善策だ」と考えたのなら、気に病んだりする必要はないと思うけどね。

五十嵐 どうしても、極端な例ばかりを想定してしまうけど、緊急事態に自分自身の身を守るためにも、サトさん的スタンスが正解なのかもしれない。とっさのときこそ、日頃から自分なりの「正義」であり「ルール」に基づいて行動すべきですよね。そのためにも、常に「こんなケースの場合、自分ならどうするか?」という自問自答が大切になってくるのかな?

里崎 そうなのかもしれない。少なくとも、僕自身は自分なりの「正義」に基づいてこれまでも行動してきたし、それはこれからも変わらないから。そして、その「正義」を誰にも押しつけない代わりに、誰からも押しつけられないで生きていく。

五十嵐 今、話をしていて思い出したんですけど、僕の義理の弟が、包丁を持って暴れている人を捕まえて警察から表彰を受けたことがあるんです。それも極端な例かもしれないけど、彼の正義感に感動したことがありましたね。僕にはできないかもしれないから。うーん......自分ならどうするのか? いざ、そのときになってみないとわからないのかな?

■世の中はわかりやすい善悪ばかりじゃない

里崎 これまで亮太の考えを聞いていて思ったけど、僕の考えと亮太の考えが違うように、人の数だけ「正義」というものがあるんだと思う。そしてそれは、何度も言っているように、法律に触れない限りは「これが正しい」「これは間違っている」と簡単に判断できるものではなくて、その人の歩んできた道のり、哲学とか人生観によって変わってくるものだよね。

五十嵐 そして、サトさんの言うように「法律に抵触しないこと」、そして「自分の正義を他人に押しつけない」で、互いの考えを尊重する。それが、自分にできる最善の方法なのかもしれない。サトさんと話をしているうちに、そんな気持ちになってきました。

里崎 前回、亮太自身が言っていたように、子どもの頃に憧れた戦隊シリーズや特撮ヒーローみたいに、世の中はわかりやすい善と悪でわけられるものじゃない。その人の正義と、別の人の正義は必ずしも同じじゃない。それでも人は、それぞれの考えを尊重しながら生きていくしかないよね。

五十嵐 社会だって、国家だって、同じことが言えますよね。そうすると、基準になるもの、大切にすべきものは「自分なりの正義」ということになりますよね。

里崎 そうだね。で、「自分なりの正義」を大切にしつつ、同時に他人の考えや意見も尊重しつつ......。結局は、それがベストになるんじゃないのかな。

五十嵐 そう考えると、前回の冒頭でサトさんが口にした「法を犯さないで自分が正しいと思ったことをする」というのがベストの考え方なのかもしれないな。やっぱり、サトさんすごいわ(笑)。

里崎 いや、別に大それたことを考えているわけじゃなくて、僕の場合は「オレはオレの考えで進めていくから、余計な口出しせずにほっといてくれ」という思いだけなんだけどね(笑)。

五十嵐 とっさの事態に見舞われたときに自分がどんな行動をとるのかは、やっぱりまだわからないけど、それでも「自分にとって何が大切なのか?」を日頃から意識して、後で後悔しない選択をしたいなって、サトさんと話をしていてめちゃめちゃ感じました。

――前回、今回と「正義とは何か?」、あるいは「善悪とは?」という深い話となりました。次回からは、また別のテーマでお話を聞いていきたいと思います。引き続き、よろしくお願いします。

里崎五十嵐 また次回も、よろしくお願いします!

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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