初の日本人女性レーサーとして参戦中のJuju 初の日本人女性レーサーとして参戦中のJuju

最高時速およそ300キロ、F1に次ぐ国内最高峰のレース「スーパーフォーミュラ」。今季、その舞台に史上最年少かつ初の日本人女性レーサーとして参戦中なのがJujuこと野田樹潤(18歳、TGM Grand Prix所属)だ。

3月の鈴鹿での開幕戦を出走21台中17位(完走は19台)で終えると、ここまで7戦すべてに完走。また、今季はスーパーフォーミュラと並行して、欧州で旧型のF1、インディカー、GP2などの車両で争われる「BOSS GP CHAMPIONSHIP」(以下、BOSS GP)にも参戦してきた。

スーパーフォーミュラではまだポイントを稼げずに苦戦している印象があるが、BOSS GPでは2勝を挙げるなど成長も感じさせる。レーサーとして大きなステップを踏んだ今季、本人はどう感じているのだろうか。

「正直、昨季のスタート時には今季スーパーフォーミュラに参戦できるなんて思ってもみなかった。もちろん、自分たちがベストを尽くした結果、そのチャンスが巡ってきたことはうれしいのですが、すぐにでもF1に行けるようなドライバーも多いスーパーフォーミュラへの参戦は大きなチャレンジでした。

簡単に活躍できるカテゴリーでないことは初めからわかっていましたし、今季は勉強の1年と割り切っていた部分もある。去年までとは内容の濃さが違うし、毎レース、学ぶことばかりです」

14歳でデンマークのF4選手権にフル参戦するため、欧州に拠点を移したJuju。これまで日本でのレース経験はほとんどなく、日本のサーキットを熟知したレーサーとの勝負は簡単ではなかったとも振り返る。

「走り込んでいるサーキットと、そうでないサーキットは全然違う。ベテランの方の中には、コースを熟知し、目をつぶってでも走れるような方がたくさんいますからね」

車自体も、去年まで乗っていたF3やF4クラスとはパワーが違い、慣れるのは決して簡単ではなかった。

「『カーレースってアクセルとブレーキを踏むだけでしょ?』って言われることもありますが、スーパーフォーミュラではブレーキ踏力は軽く100㎏を超えますし、コーナリング中は瞬間的に体重の4倍くらいのG(重力加速度)がかかることもあり、男性がやってもすごく過酷なんです。

BOSS GPに出てきたのは、スーパーフォーミュラはレギュレーションで(レースウイークや公式テスト以外は)練習が禁止されているので、ビッグパワーのマシンに慣れるため。経験値を積むには、今はたくさんレースに出るしかないですからね」

父は元F1ドライバー。幼少期からレース界の最年少記録を更新し続けてきたJujuのスーパーフォーミュラ参戦が、ファンの関心を集めたのは必然だった。

「日本のレースに出ることで多くのメディアに取り上げていただき、実際、サーキットのピットでも想像以上のファンの方に応援していただきました。

ただ、日本のモータースポーツの認知度は欧州と比較するとまだまだ低いのが現状。おそらく同年代の女性に『スーパーフォーミュラ』と言っても知らない人がほとんど。

そういう意味では、私をきっかけに少しでもモータースポーツに興味を持ってもらい、サーキットに行ってみたいという人が増えたらうれしいなと思っています」

11月9日に第8戦、10日に最終戦(共に鈴鹿開催)。初経験のマシンやコースに苦しみながらも着実に経験を積んでいる 11月9日に第8戦、10日に最終戦(共に鈴鹿開催)。初経験のマシンやコースに苦しみながらも着実に経験を積んでいる

昨年12月にスーパーフォーミュラの合同テストでスキルを評価され、今季から日本でレースに参戦しているJujuだが、国内の競技ライセンス取得には普通自動車免許が必要。そのため自動車教習所に通い、18歳の誕生日を迎えた今年2月に免許を取得したという。

「開幕戦が3月だったので、試験に落ちたらレースに出られなかった。そこは少しプレッシャーでした(笑)」

幼少期からサーキットで走っていただけに一般車の運転など簡単だと思うが、教習所では意外に苦戦したという。

「教習所でやることって、実はサーキットと真逆なことが多くて......。レースではいつも前を行く車にベタベタにくっつくのですが、追い越しは基本禁止じゃないですか。

カーブでもいつもは父に『縁石(のギリギリ)を攻めろ』って言われているのに、減速をせずカーブに入って、教官から『コーナーを曲がるときは加速しないでください』ってやんわり怒られたり(苦笑)。

レースと違い、教習所では20、30キロで走らなきゃいけないので、慣れるまでに少し時間がかかりました」

今春、日本大学に入学し、現在はスポーツ科学部の1年生として可能な限り授業にも出席するようにしていると話すが、レースとの両立の苦労などはないのだろうか。

「周りの学生もスポーツをやっている人が多いので、苦労ってよりは刺激をもらうことが多いです。ただ、モータースポーツの世界はどうしても大人の男性が多いので、そこに慣れてしまっていて、同世代の友達との間にギャップを感じてしまうことも。流行に疎く、スマホのアプリの話をされてもついていけないことはよくあります(笑)」

スーパーフォーミュラは11月9日に第8戦、10日には今季最終戦となる第9戦(いずれも鈴鹿)が行なわれるが、Jujuは「これまでと変わらずベストを尽くすだけ」と冷静に話す。

夢は日本人初の女性F1ドライバーだ。

「小さい頃からモータースポーツの頂点で活躍できるドライバーになりたいと思っていたので、やっぱりF1が目標。過去にも女性のF1ドライバーは何人かいましたが、決勝に出たのはふたりだけで、それは50年近く前のこと。

モータースポーツはほかのスポーツと比較しても男性の競技人口の割合が圧倒的に高く、女性では無理という意見が多いのも事実です。でも、自分が活躍することでそうした声を少しでも払拭できたらと思っています」

Jujuの挑戦はまだ始まったばかりだ。

●Juju(野田樹潤) 
2006年生まれ、東京都出身。父は元F1ドライバーの野田英樹。3歳からカートに乗り、9歳でフォーミュラカーを運転して非凡な才能を見せるも、国内の年齢制限によって上位カテゴリーへのステップアップが困難となり、20年から家族と共にヨーロッパに渡ってレース経験を積む。23年はF1の登竜門であるユーロフォーミュラオープンで女性初の優勝を飾り、ジノックスF2000では年間王者に輝く。24年から国内最高峰のスーパーフォーミュラに史上最年少、日本人女性として初めて参戦(TGM Grand Prix所属)。身長170㎝。

栗原正夫

栗原正夫くりはら・まさお

1974年生まれ。埼玉県出身。ノンフィクションライター。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、2006年独立。得意ジャンルはスポーツ。週刊誌やWEBを中心にインタビューやレポートを寄稿する。サッカーW杯は98年フランス大会から22年カタール大会まですべて現地観戦、取材。そのほかオリンピック、サッカー欧州選手権、女子サッカーW杯、ラグビーW杯など多数の国際大会を取材し、訪問国は約60ヵ国を数える。近年はスポーツに限らず、俳優やアーティスト、タレントなどのインタビューも多数。

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