政治の世界では世襲候補に対し、これまでになく厳しい目が向けられているが、それは野球界でも同様なのかもしれない。10月に行われたプロ野球ドラフト会議で最大級の注目株となっていた慶応大の清原正吾(4年)がまさかの〝指名漏れ〟となったのだ。
■父由来の集客力も期待されながら指名ゼロ
名門・慶大の4番を張った実力も然る事ながら、これほど大きな注目を浴びたのには父・清原和博の存在がある。「球界の番長」として一世を風靡したスター選手の血を継ぐだけに「話題性は十分」(スポーツ紙記者)とみられていたが、セパ12球団から声がかかることはなかった。「単純に実力不足だったということ」(某球団スカウト)との声も上がるが、ネームバリューだけを見れば集客が見込める逸材でもあっただけに「指名ゼロ」は意外とも思える結末だった。
「本人よりも我々メディアの期待が大きすぎたのかもしれない」(スポーツ紙記者)という声もあったが、今季ドラフトで指名された123名(支配下69、育成54)の中では群を抜く注目度だっただけに一部からは驚きの声も上がる。一方で、プロ野球歴代5位の通算525本塁打を放った父・和博氏も1985年のドラフト会議では相思相愛だったはずの「巨人」から指名を見送られており、親子2代で「ドラフト」からフラれたともいえる。
とはいえ、清原のプロ入りに向けて複数の球団が獲得調査していたことは紛れもない事実だ。
大谷翔平投手の2012年の強行1位指名や、「ハンカチ王子」こと斉藤佑樹氏(2010年)を4球団競合のなか1位で指名するなど、毎年ドラフトで話題をさらう日本ハムもそうだ。清原が出場した東京六大学秋季リーグの明大戦(9月29日)では、雨が降りしきるなか、侍ジャパン前監督で日本ハムの栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)が直々に視察。「それは本当にすごいと思った。違った可能性を彼(清原)が野球界に示してくれるかなと感じる」とメディアを通してエールを送ってみせた。
ほかにも、12球団でただ1チーム、「4軍」まで編成しているソフトバンクや、大学時代に全く無名だった新井貴浩監督を指名した広島、今季ダントツの最下位で父・和博氏が在籍していた西武など、「育成指名があるのではないか」(複数の球団スカウト)という声も上がっていたというが‥‥。
「ここ数年、各球団のドラフト戦略は即戦力重視という傾向が続いており、2世球児だからといって優遇されるわけではないのです」(前出スポーツ紙記者)
事実、今年のドラフトでも、5球団競合のなか楽天が獲得した明治大学の宗山塁内野手や、4球団競合した末に中日ドラゴンズが獲得した関西大学の金丸夢斗投手など、完成度の高い選手に1位指名が集中した。
■過去の2世球児の実績が足かせに!?
清原クラスの"2世球児〟は過去にもいた。代表格といえば、ミスタープロ野球・巨人長嶋茂雄終身名誉監督を父に持つ一茂氏と、選手、監督の両方でただ一人3000試合出場を達成した故・野村克也氏の息子の阪神・野村克則一軍バッテリーコーチの2人だろう。
長嶋氏は87年、2球団競合(ヤクルト、大洋・現DeNA)のドラフト1位、野村コーチは95年ドラフト3巡目でヤクルトに入団。2人の共通点は、現役時代では目に見えた"結果"を残すことはできなかったことだ。
一茂氏は「ヤクルトに野村監督が就任してから、一気に出場機会を失いました。親父(長嶋茂雄氏)のところで野球をやらせるのがいいと、巨人移籍のきっかけを作りました」(当時の巨人担当記者)。野村コーチは「父である野村監督から"実力的には無理"とダメ出しをされていましたが、それでも俺はプロに行きたいと話していました」(前出記者)。両者とも偉大な父の威光による"縁故入団"などという厳しい見方をされたこともあった。
こうした2世球児の実績が、清原が指名漏れになった理由のひとつといえるかもしれない。
「一茂氏や野村コーチの時のように結果が出なかったら、本人以上に球団も叩かれるリスクがある。12球団では話題先行型の選手はもう求めていないということですね」(民放局野球担当ディレクター)
ロッテの佐々木朗希のように「ドラフト入団して何年か在籍後にメジャー移籍を視野に入れる選手も出てきました。球団としてその移籍金を目当てに獲得に踏み切るケースも増えた。父親の威光や話題先行で獲得することはもはや完全になくなったといえるでしょう」(同ディレクター)
失意の清原だが、11月9日、10日に行われた東京六大学野球秋季リーグの早慶戦では、本塁打を含む活躍を見せ、2連勝に貢献した。独立リーグ入団説や就職説も囁かれるなか、栄光から挫折までドラマチックなその歩みでもファンを魅了した父同様、ここからの下克上を見てみたい気もする。