「ブランディング」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右) 「ブランディング」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右)

里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第30回では、「ブランディング」に関する考え方に迫ります!

■どうやって自分なりのブランディングを図るか

ーー前回は「里崎流マーケティング術」の一端を伺いました。今回は、前回のラストで語られた「効果的なブランディング術」について伺っていきたいと思います。

五十嵐 まずは僕自身のことで言うと、これまで「自分はどうなりたいか?」とか、「第三者からどうやって見られたいか?」と意識したことはまったくないですね。つまり、いわゆる「ブランディング術」的なこととは無縁なんですよ。何も戦略がないよりは、意識的に「自分をどう見せるか?」と考えて行動したほうがいいとは思うんだけど、いざどうすればいいのかはよくわからない。それが本音ですね。

里崎 前回はマーケティングの話題になったけど、それがうまく回ってくると、今度は自分なりのブランディングが重要になってくるよね。仕事を発注するメディアの人たちや、ファンの人たちから「このテーマなら里崎が適任だ」「こういうことは里崎に任せておけばいい」と認識してもらえるようになれば、一気に仕事量は増えてくるから。

五十嵐 サトさんの言うこともよくわかるんですよ。僕だって「五十嵐なら○○だ」みたいな、わかりやすいセールスポイントが必要だと思うし、それがあれば仕事も増えてくると思う。それはわかっているんですけど、自分で自分の"売り"を見つけること、アピールすることって難しくないですか?

里崎 全然難しいことじゃないと思うけどな。そもそも亮太の場合は、先日のドジャースとヤンキースのワールドシリーズ中継のときのように「ヤンキースOB」だとか、「元メジャーリーガー」というわかりやすいセールスポイントがあるじゃん。

五十嵐 結果的に「元メジャーリーガー」であるのは確かだけど、それを意識的に「自分の売りにしよう」と考えたことはなかったです。ということは、自分のセールスポイントを見つけるためには、それまでに自分がやってきたこと、経験してきたことをあらためて見直して、戦略的にアピールしていくことが大切になりますね。ちなみに、サトさんが考える自分の"売り"は何ですか?

里崎 「里崎ならば、12球団のことを何でも知っている」ということ。そして、「どんな質問でも、何でも答えてくれる」ということ。これはある程度、意識的にブランディングしてきたつもりだよ。

■ファンの不満をリサーチしてブランド価値を高める

五十嵐 サトさんの場合は、公式YouTubeチャンネルにあれだけのフォロワーがついているし、かなりマメに更新しているから、確かに「サトさんなら何でも知っている。何でも答えられる」というイメージが定着していますよね。「イメージが定着している」ということは、それは「ブランディングがうまくいっている」ということでもありますから。

里崎 さらに言えば、YouTubeチャンネルでの活動を通じて、「忖度しないで本音を言う評論家」というブランディングも意識しているよ。だから、「もうユニフォームを着るつもりがない」と公言しているわけだし。その結果、「現場に戻るつもりがないから、誰にも遠慮せずに里崎は本音が言えるんだ」というイメージ戦略にも繋がっている。ネタバレになっちゃうけど(笑)。

五十嵐 「こうありたい自分」をきちんと描けているから、イメージ戦略もできるわけですね。ますます、「サトさんは戦略家だな」という実感が強くなりましたよ。

里崎 まさに、それ! 今言ったようなことを通じて、「里崎は戦略家だ」というイメージ作りにも繋がっているわけだから。

五十嵐 でも、実際に前回の話に出たエゴサーチのエピソードも、ネットニュースのコメントからの情報収集も、徹底的に戦略的に行なわれているのは事実ですよね。サトさんの場合、「自然体で無理していない」というのか、「自分を大きく見せるために見栄を張らない」というのか、自分に嘘をつかずに素のままでいられるのも強みなんじゃないかと。

里崎 現役を引退して評論家になったときに、「12球団のファンを里崎ファンにする」という目標を立てたんだけど、そのために「全球団を均等に語る」「古巣のロッテに肩入れしない」とか、自分なりのルールを作った。結局それは、「セ・リーグ出身の評論家はパ・リーグの試合をほとんど見ていない」とか、「古巣チームのことは詳しいけど、相手球団のことはほぼ知らない」とか、ファンの人たちの不満を解消することとイコールなんだよね。だから、「ファンの不満をリサーチする」ということも、自分のブランド価値を高めるためには必要なことだと思うよ。

五十嵐 その点は僕も意識しています。仕事を振ってくれるメディアの人は自分に何を求めているのか? ファンの人が知りたいことは何なのか? つまり、「第三者の視点に立って自分を見つめ直すこと」はやっぱり大事になりますよね。ただ、サトさんの場合は他者の「願望」だけじゃなくて「不満」まで意識しているというところが人とは違う独自のポイントなのかな。話を聞いていて、そんな気がしましたね。

■みんなが褒めるのならば、あえて褒めない

里崎 亮太も僕も、フジテレビONE『プロ野球ニュース』に出演させてもらっているけど、この番組に出るときはいつも、「さて、今日はどんな文句を言おうかな?」っていう視点で試合を見ていますから。そんなスタンスで臨むのは僕くらいじゃないかな(笑)?

五十嵐 えっ、サトさんはそんな視点で試合を見ているの(笑)? それじゃあ、ネガティブすぎるというか、つまらなくないですか?

里崎 だって、「みんなが褒めるから、自分も褒めよう」というスタンスだったら、僕の存在価値がないでしょ。いつも「みんなと違う視点で発言しよう」という思いで試合を見ているから、必然的に文句が多くなる。それは、『日刊スポーツ』の評論でも同じ。もし文句のつけようのない試合だったら、「仕方ないから褒めようか」っていう感じだね(笑)。

五十嵐 そうしたことの積み重ねが「里崎智也」というブランドを作り上げているわけですね。難しいな......。そこまで戦略的に行動するのは。

里崎 いやいや、何も難しく考えることはないでしょ。この連載では何度も言っているけど、僕の場合はロッテでしかプレー経験がなくて、注目度が低い部分もあると思ったから戦略的に動かざるを得なかったけど、僕がやってきたことは誰にでもできることばかり。「誰にでもできること、でも、誰もやりたがらないこと」を地味にコツコツやってきただけだから。

五十嵐 さっきの「あえて褒めない」発言もそうだけど、サトさんの場合は単なる「逆張り」じゃないからいいんですよね。単に奇をてらっているわけじゃなくて、ちゃんとそこに理屈や理由があるから。それはやっぱり「誰にでもできること」じゃないと思うけど。

里崎 そこも大切だよね。始めから「人と違うことを言おう」というスタンスで「意識的に逆張りしよう」と思っても、本心からの言葉じゃないとどうしても嘘くさくなるし、ボロが出やすい。でも、そういうときには「あえて視点をズラす」ということを意識すれば簡単だと思うけどね。みんなが「勝者の視点」で語るのならば、あえて「敗者の視点」で語れば、確実に人とは違う意見になる。他の評論家が、「投手の視点」、あるいは「打者の視点」で語るのならば、僕は「捕手の視点」で語ってみるとか。

五十嵐 確かに「視点を変える」というのは、誰にでもできそうですね。人との差別化もできるし、自分でも気づかない意外な発見もありそうだし、いい方法かもしれない。その独自の視点こそが、自分だけのオリジナリティになって、ブランディングの確立に繋がるわけですから。

ーー前回、今回とマーケティング、ブランディングについて伺ってきました。次回からは、新たなテーマでお話していただこうと思います。引き続き、よろしくお願いします!

里崎五十嵐 了解です! また次回もよろしくお願いします!

★『里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール!』は毎週水曜更新!★

里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

里崎智也の記事一覧

五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

五十嵐亮太の記事一覧

長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

長谷川晶一の記事一覧