福西崇史ふくにし・たかし
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第113回のテーマは11月のFIFAワールドカップ26 アジア最終予選について。インドネシア戦、中国戦というアウェイ2連戦に挑んだ日本代表。2連勝を飾ったなかで見えてきた課題を福西崇史が解説する。
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――日本代表がFIFAワールドカップ26 アジア最終予選の第5節・インドネシア(4-0)、第6節・中国戦(3-1)に臨んで2連勝を飾りました。まずは終わったばかりの中国戦はどのような印象でした?
福西 中国は4-3-1-2のシステムでかなりコンパクトに中央を締めて守って、日本の前線にスペースを与えない対策をしてきて苦労しましたよね。なかなかチャンスを作れず、厳しい展開となった中でもセットプレーで先制して、日本が勝負強さを見せつけたゲームだったと思います。
――中国のコンパクトな守備にかなり手を焼きましたね。
福西 日本が苦戦したのはいつもの先発から少しメンバーを変えたことも影響していたと思います。いつものような連携がスムーズにいかず、やや停滞感というか、リズムが上がらないところがありました。前線は裏への動きを出せなかったし、中盤のパスもテンポが上がらず、相手もスライドしながらうまく守られてしまいましたよね。
今回の守備陣のように誰かが怪我でいなかったり、出場停止で出られないということは今後もあるので、メンバーが変わったときの連携面は課題の一つとして見えましたね。ただ、そうした難しいゲームでも全体を通して見れば日本がボールを動かして相手の体力を奪いつつ、後半は交代で出てきた選手たちを中心に勝負をかけて、うまくチームで戦えた試合だったと思います。
――前半の停滞感というところで、今回左ウイングバックで先発した中村敬斗選手のところは、思うように機能しなかった部分でしょうか。
福西 やっぱり中村は前のエリアで勝負したい選手だけど、相手がタイトに守ってスペースを与えなかったことでなかなか良い形で勝負ができなかったし、左シャドーに入った南野拓実もウイングがボールを持った次の動き出しで勝負して持ち味が出る選手ですよね。そこでタイミングが合わなかったことでスペースを消されてどちらも良さが出なかったと思います。
――トップの小川航基選手にもボールを入れられなかったですね。
福西 相手が中央をかなり締めてきたこともそうですが、彼の周りに誰もいなかったのでクサビのパスを入れることができなかったし、彼自身も良いタイミングで動き出すことができなかったですよね。
それでサイドへボールを送るしかなく、サイドはサイドで詰まって結局はボールを後ろに下げるしかないという展開が続きました。ここは実戦を通じてコミュニケーションを取りながら選手同士の距離感や動きだしのタイミングや精度を高めていくしかないと思います。
――ボランチで守田英正選手から田中碧選手に先発を変えてきました。ここの影響はどのように感じました?
福西 守田が不在で「誰がゲームをコントロールするの?」となったときに、誰もいなかったですよね。後ろで回すことはもちろんですけど、前とどうつなげていくか。相手がコンパクトに守ってスペースがないのならボランチのところで相手を引きつけてシャドーのところにスペースを作るとか、そういうことがなかなかできなかったですよね。
サイドにボールを運んでシャドーに良いタイミングで入れば攻撃はできるけど、サイドは選択肢が狭くなってしまうし、合わなければ先ほど言ったように下げるだけを繰り返してしまいます。前半はボランチから縦に入れるパスというのがあまり作れなかったですよね。
――後半に鎌田大地選手が出てきて、流れが良くなりました。
福西 鎌田が良いタイミングでシャドーの位置から下りてきてボールを預けられたので相手も出てくるしかなくて、この前後の揺さぶりでスペースが生まれましたよね。クサビのパスのもらい方、サイドに流れたときのサイドの選手の引き出し方、味方をフリーにさせるこの引き出し方は鎌田が一番上手いなと思います。
相手が疲れて出足が遅くなったこともありますが、鎌田が入ったことで全体がスムーズに流れるようになりましたね。
――守備陣に関してはどんな印象でした?
福西 インドネシア戦も含めて谷口彰悟が怪我で不在となって、板倉滉が3バックの真ん中をやりましたが、やっぱりまだやり慣れていないという印象でしたね。
チーム全体でのプレスが機能しているときは問題ないですが、中国戦での失点シーンのようにプレスが剥がされたときに不安を感じました。失点シーンでは久保建英がプレスバックをさぼってしまったところもありますが、ラインが下がったり、中の絞りが遅れたりなど、対応が後手に回るところは修正が必要だと思います。
――そこは攻撃的な選手を多く採用しているリスクという部分にもなるんでしょうか。
福西 もちろん、そういうこともあるし、遠藤航のところで止めるべきという見方もあると思います。ただ、そこを突破されることはあるわけで、そうなったときにラインが下がっているので、そこへ侵入されて後手に回って最終的に後ろでスペースを作られてしまうことになりますよね。誰を起用していてもそこのリスク管理はしなければいけないですよね。
――他にも守備の課題は感じましたか?
福西 センターバックがロングボールをかぶったときの対処ですね。板倉はどうしてもラインが下がってしまい、次の対処でカバーして潰し切れないことでピンチにつながっていました。板倉は中央に入ると、積極的に前へ出て潰しに行くという彼自身の強みもなかなか出せなくなっているので、ここはもっと精度を高めていかないと一発でやられる可能性は高くなってしまうかなと思います。
――今節でサウジアラビアがインドネシアに敗れたことで、日本は次節、来年3月のホームのバーレーン戦に勝利すればW杯出場が決まります。
福西 これだけ余裕のあるW杯予選は過去になかったですよね。それだけ日本がアジアでは頭一つ、二つ抜けたレベルになったという証明だと思います。もちろん、これで気を抜くということではないですが、先のことを見据えながら色んな選手、組み合わせを試して、より選手層の厚いチームになっていければいいと思います。
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している