このオフにアメリカで新天地を求める日本人投手8人の現時点での実力、今後の活躍期待度などを全力診断!

※成績、年齢は11月19日時点。

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■佐々木朗希は人類史上最高の逸材

このオフにMLB挑戦を目指す日本人選手の中で活躍が期待できるのは誰なのか? 指導した選手を何人もMLBに送り出してきた『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏に考察いただこう。

大前提として、昨今のMLB移籍ブームには、ふたつの要因があるという。ひとつは、ここ数年、安定的に活躍を続ける〝先輩〟の存在だ。

「昨季、1年目にして12勝した千賀滉大(メッツ)の流れを受け、今季は今永昇太(カブス)が好条件で移籍。見事に15勝と活躍したことで、日本人投手がますます注目されています」

そして、もうひとつは、移籍が決まれば日本ではありえない高額契約が見込める点だ。

「阪神最終年の年俸が4900万円だった藤浪晋太郎(メッツ)は、今季は単年5億円と約10倍の契約を結びました。MLBで成功できなくとも、フリーで日本に戻れば以前よりも高水準の年俸が期待でき、日本で10勝できる力がある投手なら背伸びをしてでも挑戦したい、と感じるのも当然です」

<ロッテ>佐々木朗希(23歳) <ロッテ>佐々木朗希(23歳)

その中でも、このオフ最大の注目株といえば、ポスティングでのMLB移籍を目指す佐々木朗希(ロッテ)だ。

プロ5年目の今季は初の2桁勝利を記録。ただ、その内容は〝ピーク時〟と比べると物足りなさがあったという。

「スライダーをもっと曲げてスイーパーのような質にしようとしすぎたためか、フォームのバランスが若干崩れました。そのため、一番良かった2022~23年シーズンは平均で159キロほど出ていたものの、今季は156キロ前後に。

また、フォークもシュート成分のある一般的な変化を目指したため、以前よりも球質が落ちています。佐々木の場合、もともと投げていた左斜め下に落ちるジャイロフォークが超一級品なので、その価値を再認識してほしいです」

とはいえ、「本来の実力が発揮できれば、人類史上最高の投手」と絶賛するお股ニキ氏。MLBでも間違いなく通用すると太鼓判を押す。

「耐久性や守備、牽制、フィールディング、勝負強さなどトータルで見れば山本由伸(ドジャース)にはまだまだ及ばない部分もありますが、投げる球だけを見れば日本球界史上最高クラス。MLBでも、サイ・ヤング賞2回のジェイコブ・デグロム(レンジャーズ)以上です。

たとえるなら、全盛期の阪神・藤川球児新監督(元阪神ほか)やデニス・サファテさん(元ソフトバンク)が1回から9回までフルで投げるようなもの。そうでなければ完全試合などできません」

一部では、「日本でも中6日ローテで1年間投げ切っていないのに、より過酷なMLBの中4日は無理だ」という声もある。この点について、お股ニキ氏は「MLBの実情が正しく理解されていない」と指摘する。

「今やMLBでも中5日が主流。25歳ルールのため、佐々木は必然的にマイナーからの出発となりますが、MLB昇格後も2年ほどは年間20試合程度の登板に抑え、徐々に慣れさせる方針でしょう」

そんな佐々木にとって最適な環境はどこなのか? 有力候補とされるドジャースとヤンキース以外の球団をお股ニキ氏はオススメする。

「今永、鈴木誠也のいるカブスにハマりそうです。もともとカブスは日本人選手が好きですし、本拠地リグレー・フィールドは強風で有名。日本で被本塁打の多かった今永も、この逆風のおかげでスタンドまで届きませんでした。

風の強いZOZOマリンで好成績を残してきた佐々木にとって心強いですし、フォークの変化もすごいことになるかもしれません」

まだまだ発展途上の佐々木はここから先、アメリカでどんな成長曲線を描くのか?

「日本人初のサイ・ヤング賞は大谷翔平(ドジャース)か山本か、佐々木か。いずれそんな争いをしてほしいし、それだけの実力は間違いなくあります」

■35歳での復活劇。菅野智之の挑戦

<巨人>菅野智之(35歳) <巨人>菅野智之(35歳)

23歳の若さで挑戦する佐々木に対し、35歳で海外FA権を行使した菅野智之(巨人)はMLBでどれだけやれるのか?

「腰や肘の不安はあるし、35歳を過ぎてからの長期契約は、MLBで実績のある投手でもダルビッシュ有(パドレス)ら一部だけ。その厳しさは菅野本人も理解しているはずです。単年15億~20億円程度でローテの一角を埋めたら十分という考えの下、2年目のオプション付きで条件提示する球団が多いのでは」

35歳でこのような高額契約が見込めるのは、昨季の4勝から一転、今季15勝3敗で最多勝&最高勝率の2冠に輝く復活劇を果たしたからこそ。改めて、今季の菅野の投球について解説してもらおう。

「今季は投球時の腕のアングルを上げて、よりNPBに特化した投げ方に。従来はスライダー投手という印象が強かったのですが、今季はフォークの威力が明らかに増しました。フォークが良いのはMLBで結果を残す上でも好都合です。

さらに言えば、昨季後半から球速と球威を取り戻した点が非常に大きい。一度はMLBを諦めた男が復活し、チームもリーグ優勝に導いた上での海外FA。素晴らしいのひと言に尽きます」

この復活劇と似ているとされるのが2002年、当時34歳だった桑田真澄さん(当時巨人)が前年の4勝から一転して12勝を記録し、最優秀防御率のタイトルを獲得した事例だ。

そのためか、桑田さんのMLB挑戦時と比較され、不安視する声も上がっている。だが、お股ニキ氏は明確に反論する。

「MLBで通用するかどうかの要素のひとつは、球の強さ。30代後半でもMLBで活躍した日本人投手というと、39歳までヤンキースで2桁勝利を続けた黒田博樹さんや、36歳で海を渡り、37歳で自己最速を更新した斎藤隆さん(当時ドジャース)がいますが、いずれも球に強さがありました。球速や球威がほぼ全盛期に戻った今の菅野であれば問題ありません」

そして、球速や球威以外にも菅野には大きな武器がある。

「抜群の制球力と多彩な変化球に加え、技術もある。サイ・ヤング賞4回のグレッグ・マダックス(元ブレーブスほか)や、12種類の変化球を操り、今季35歳で16勝のセス・ルーゴ(ロイヤルズ)のように、詰め将棋のような緻密な投球ができる点も菅野の魅力です」

そんな菅野に推す球団はオリオールズだという。

「今季15勝のコービン・バーンズがFA流出する可能性もあるだけに、その穴埋めに同タイプの菅野を狙う可能性は十分あります。

ダルビッシュと松井裕樹のいるパドレスも、菅野と似たタイプのジョー・マスグローブがトミー・ジョン手術で来季全休確定のため、有力候補です。そのほか投手不足のエンゼルスなども候補になります」

■狙うは〝変則枠〟。青柳晃洋の課題

<阪神>青柳晃洋(30歳) <阪神>青柳晃洋(30歳)

日本での実績という点で注目なのは最多勝、最高勝率、最優秀防御率の投手3冠経験のある青柳晃洋(阪神)だ。

ポスティングでのMLB移籍を目指すが、「変則サイドやアンダースローはMLBでは珍しいから通用する」といった安易な印象論について、お股ニキ氏は否定する。

「ドジャースとヤンキースのワールドシリーズでも両球団に変則サイドがいたように、今や各球団にあの手のタイプはいます」

逆に言えば、各球団にいる〝変則枠〟にハマればMLB契約も見込める可能性がある。実際のところ、青柳の実力はどう判断されそうなのか?

「投球構成や球質で似たタイプに、今季レイズで68試合に登板したケビン・ケリーやジミー・ハーゲット(ブレーブス)がいます。青柳の場合、先発として長く投げるスタミナや投球術があるので、ロングリリーフの適性もあるのは大きいです」

ただし、活躍する上で課題もあるという。日本でも村上宗隆(ヤクルト)、丸 佳浩、岡本和真、坂本勇人(すべて巨人)といったアッパースイングの打者との相性が悪かった。

「MLBの打者はこのタイプが多く、低めに目付けして対応してくるので、配球を再考する必要があります。東京五輪でも青柳のツーシームは海外の打者に攻略されていました。

これを克服するには、スイーパーとツーシームの横の揺さぶりだけでなく、下に落ちるチェンジアップ、高めのフォーシームや左打者へのカッターなど縦の揺さぶりも必要です」

課題は山積みだが、それでも青柳に期待したくなるのは、佐々木や菅野らドラフト1位組とは違うたくましさがある点だ。

「ドラフト5位で入団後、制球力や守備、クイック、変化球といった課題を克服し、ここまで上り詰めた。そんな男がMLBでどれだけ這い上がれるか。注目したいです」

<中日>小笠原慎之介(27歳) <中日>小笠原慎之介(27歳)

青柳同様、ポスティングでMLB移籍を狙うのは小笠原慎之介(中日)だ。

「今永の活躍に刺激を受け、同じ先発左腕の枠で、というもくろみかもしれません。ただし、今季の飛ばないボール、かつ、広いバンテリンドームでも防御率3点台、5勝11敗では厳しい判断をされかねない。裏を返せば、球速も球種もまだ改善の余地があるともいえます。

カーブとチェンジアップの質を高めることで、岡島秀樹さん(元レッドソックスほか)のような活躍をする可能性もあります」

<広島>九里亜蓮(33歳) <広島>九里亜蓮(33歳)

海外FA権を行使した九里亜蓮(広島)はどうか?

「ツーシーム、スプリットチェンジ、スライダーなどで打たせて取るタイプですが、球速は日本でも速いほうではなく、今のMLBでは厳しいと言わざるをえません。

でも、そこは本人も承知しているはず。結果的にMLBから声がかからない場合は、日本国内での移籍と両天秤にかけながらの交渉になると思います」

■菊池、藤浪、上沢はどこへ?

<アストロズ>菊池雄星(33歳) <アストロズ>菊池雄星(33歳)

最後に、すでにMLB経験がある投手たちの動向も見ていこう。今季途中に移籍したアストロズで5勝1敗、防御率2.70と奮起し、FA市場で注目度を高めているのが菊池雄星だ。

「投手の魔改造に定評があるアストロズで、データに基づいた配球やボールの回転・軌道の改善をしたことで活躍につなげました。今季なぜ良かったのかを本質的に理解できているかどうかで、新チームでの成績も変わります。

サイ・ヤング賞3回のジャスティン・バーランダー(アストロズ)でさえ、アストロズからメッツに移籍した途端、成績が悪化。来季は菊池の真価が問われます」

<メッツ>藤浪晋太郎(30歳) <メッツ>藤浪晋太郎(30歳)

メッツからFAの藤浪の動向も気になるところ。MLB挑戦2年目の今季は一度もメジャー昇格できず。このオフはプエルトリコのウインターリーグに参戦している。

「今季はキャンプで千賀から教わったフォームを試して肩を痛め、シーズンの大半を棒に振りました。ただ、今は2023年中盤以降の投げ方に戻しています。

現実的にはリリーフでメジャー生き残りを模索することになりますが、本人は先発へのこだわりが強く、プエルトリコでどれだけアピールできるか。日本球界復帰の可能性もあるかもしれません」

<レッドソックス>上沢直之(30歳) <レッドソックス>上沢直之(30歳)

MLB挑戦1年目の今季、レッドソックスで2登板に終わった上沢直之はどうか?

「自分本来の型や良さを見失い、右肘まで故障。30歳を超え、この状態でマイナーから這い上がるのは厳しく、現実的にはNPB復帰を目指すのではないでしょうか。

古巣日本ハム復帰を望む声も多いですが、先発投手が抜ける巨人、ロッテ、ソフトバンク、オリックス入りもありえます」

注目選手、高額年俸選手から順に移籍先が決まるMLB。そのため、全体的な動向が判明するまでに時間がかかることも珍しくない。長く、熱いストーブリーグになりそうだ。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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