オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
最終予選6試合を終え、5勝1分け、勝ち点16でグループCの首位を独走する森保ジャパン。次節、3試合を残して突破が決まれば、日本代表史上最速の快挙となるが、それはあくまで通過点に過ぎない。W杯優勝を掲げるならば、まだまだ進化しなければならない――。
北中米W杯アジア最終予選グループCで2位オーストラリアに勝ち点9差をつけ、首位をひた走る森保ジャパン。来年3月に控える次節バーレーン戦で早くも突破が決まる無双状態だが、識者はどう見ているのか?
最終予選6試合の戦いぶりについて、「90点」と評するのはスポーツニッポンの垣内一之記者だ。
「全勝なら100点でした。"攻撃的3バック"がハマり、相手が研究してきても試合の中で修正できています。アジアで実力が抜きんでているのは間違いありません」
一方、スポーツライターのミムラユウスケ氏は「80点」をつける。
「ベスト8で敗退したアジア杯の教訓をピッチ内外で生かしています。攻撃的3バックの採用、長友佑都(FC東京)の代表復帰、長谷部誠のコーチ抜擢など、アジア杯からの変化が結果につながりました。個人的には、予選突破が確実になる前にもっとターンオーバーしてほしかったです」
ターンオーバーとは試合ごとに先発メンバーを大きく入れ替えること。ミムラ氏が指摘するとおり、森保ジャパンは第6節の中国戦以外、先発メンバーをほぼ固定してここまで戦ってきた。
「菅原由勢(ゆきなり/サウサンプトン)や鈴木彩艶(ざいおん/パルマ)にとってはアジア杯がA代表での国際大会初舞台でしたが、明らかに本来の力を出せていませんでした。
W杯本大会も見据えると、ひとりでも多くの選手に重圧のかかる試合を経験させるべきですし、強烈なプレッシャーを感じる状況で誰が実力を発揮できるのか見極めるべきです。
最終予選序盤で先発メンバーを固めたことについて物足りなさを感じるので、採点としては20点減点としました」(ミムラ氏)
では、最終予選で評価を上げた選手は誰なのか? 垣内氏は10番を背負う堂安律(フライブルク)を挙げる。
「森保監督は前線の選手による守備の重要性を訴えていますが、堂安はしっかり上下動できる選手。プレースキックで相手が急に攻撃の人数を増やしたときも、とっさにマークについていました。最終予選では右WB(ウイングバック)として先発に定着しましたが、森保監督の信頼の厚さを感じます」(垣内氏)
一方、ミムラ氏はふたりの名前を挙げる。
「鎌田大地(クリスタルパレス)がいると試合がうまく回ります。守備でのプレス強度は高くないものの、インテリジェンスに長けているので、状況に応じてシステムを変えたいときほど鎌田の存在が利いてきます」(ミムラ氏)
もうひとり、ミムラ氏が挙げたのはGK鈴木彩艶だ。
「1対1でしっかり止められるのが非常に大きい。『彩艶なら止めてくれる』という安心感があるからこそ、積極的に攻撃を仕掛けることができています。最近では自信や余裕を感じますし、アジア杯の頃と比べると劇的に成長していて、そこは信頼して使い続けた森保監督の成果といえます」(ミムラ氏)
ここからはポジション別に深掘りしていきたい。
まずは攻撃的3バックで注目を集めるDF陣について。ここまでの6試合でわずか2失点と安定しているものの、ケガ人が続出。
本来は守備陣のリーダーとなるはずの冨安健洋(アーセナル)は膝を負傷、7月に中足骨を骨折した伊藤洋輝(ひろき/バイエルン)も11月に再手術して復帰時期は未定と、最終予選で未招集の状態が続いている。
そんな中、序盤4試合は町田浩樹(こうき/サンジロワーズ)、谷口彰悟(シントトロイデン)、板倉滉(ボルシアMG)の3人で安定した守備を披露していたが、11月シリーズ直前に今度は谷口がアキレス腱を断裂。
9月シリーズの後に膝の靱帯を損傷した中山雄太(町田)も含め、DFラインの台所事情は厳しいものがある。
「世界と戦う上でベストの布陣は冨安と伊藤を含めた4バックでしょう。中央もサイドもできるこのふたりがいれば、試合中に3バックへとシステムを変えられます。
また、冨安と伊藤は組み立てにも参加できるので、彼らがDFラインに入れば、ボランチの守田英正(スポルティング)も前に出やすくなって攻撃に厚みが出るはずです」(垣内氏)
プレミアリーグの強豪アーセナルに所属し、誰もが実力を認める冨安だが、近年はケガに泣かされ続けている。
「冨安は2019年のアジア杯以降、2021年の東京五輪、2022年のカタールW杯、今年のアジア杯と国際大会でフル稼働できていません」(ミムラ氏)
垣内氏は冨安離脱を前提に、守備陣の底上げを期待する。
「次のW杯でも冨安の全試合出場は難しい、と想定しておくほうがいい。その場合、特に課題なのは冨安が務めることの多い右サイドです。ほかの選手のレベルアップを期待したいですね」(垣内氏)
課題の右CBだが、11月シリーズのインドネシア戦では橋岡大樹(ルートン・タウン)、中国戦では瀬古歩夢(あゆむ/ラスホッパー)が任された。
「いい意味でサプライズだったのは瀬古です。プレー面で及第点だっただけでなく、メディアに対して仲間のいい部分を口にしつつ、サブ組の悔しさも表現するなど、キャラクター面でもチームに好影響を与えています」(ミムラ氏)
チームへの影響という意味では、最終予選で出場機会を得られていなかった菅原も外せないという。
「3バックでは個性が出しにくく、なかなか出番が回ってきませんでしたが、チームを盛り上げるムードメーカーとして、森保ジャパンに欠かせない存在。途中出場したインドネシア戦でゴールを決めましたが、本人も期するものがあったはずです」(垣内氏)
最終予選から森保ジャパンに復帰したものの、ここまで一度もピッチに立てていない長友はどうか?
「8月に来日したインテル時代の友人、元イタリア代表アントニオ・カッサーノが長友と再会後に自身のYouTubeで『長友は次のW杯に出て引退するつもりだ』と語っていました。
長友本人はけむに巻いていましたが、苦しいときこそ声を出せる長友の存在はやはり別格です。1年半後のW杯メンバー入りも十分ありえるでしょう」(垣内氏)
続いて、中盤について深掘りしていこう。
冒頭で名前が挙がった堂安、鎌田以外で目を引くのは、オーストラリア戦でベンチ外の遠藤航(わたる/リバプール)に代わってキャプテンマークを巻いた守田だ。
「欠場した中国戦では、代わってボランチで出場した田中碧(あお/リーズ)と試合後に話し込む姿がありました。守田を中心にチームの課題を共有している印象です」(ミムラ氏)
守田といえば、アジア杯敗退後に「森保監督批判」とも取れる発言で物議を醸した。
「守田も世間や代表を騒がせてしまった自覚があるようです。以前よりも責任感が増し、プレー面でもそれが感じられます」(ミムラ氏)
その守田とボランチを組むのは誰なのか? 本来は遠藤のはずだが、リバプールで出場機会がない点がネックだ。
「潰し役が必要な場合はやはり遠藤の存在が欠かせません。その役回りで『ポスト遠藤』といえるのが佐野海舟(マインツ)です。佐野はボールを奪うだけでなく、そこからの推進力もある。今の代表にはいないタイプです」(垣内氏)
佐野は今年7月に不同意性交容疑で逮捕され、その後、不起訴となった経緯がある。
「ポスト遠藤はずっと課題でしたが、佐野が戻ってこられるなら有力候補です。ブンデスリーガではスプリントやプレス回数など、さまざまなスタッツがトップ10入り。期待値は大きいです」(ミムラ氏)
伊東純也(スタッド・ランス)、三笘薫(ブライトン)らタレントぞろいの両サイドはうまく機能しているのか?
「日本代表はサイドにいい選手が多く、外から勝負しようとしすぎで、中央からの崩しや組み立てが少ない。直接フリーキックを狙える位置でファウルを受ける機会も極端に少ないです。
中、外、中、外とバランス良く攻撃できれば、三笘ももっと仕掛ける場面が増えてくるはず」(垣内氏)
鎌田や久保建英(たけふさ/レアル・ソシエダ)、南野拓実(モナコ)らが候補となる2シャドーはどの組み合わせが最適か?
「1トップの裏に抜け出す能力なら、南野が適任。鎌田は自由に動き回ったほうが生きるタイプで、守田とはサッカー観が合うので能力が足し算できるけど、三笘と組むとお互いが100%をなかなか出し切れない。
どう組み合わせると個々の能力が最大化するのか、という視点がW杯本大会では必要です」(垣内氏)
現状、FWは上田綺世(あやせ/フェイエノールト)が1番手だが、11月シリーズではケガで離脱。その代役として躍動したのが小川航基(NEC)だ。2試合連続でスタメン起用され、中国戦ではヘディングで2得点と見事に結果を残した。
「小川は、今の代表でクロスに合わせる能力が一番高い。上田は万能型として森保監督の信頼も厚いでしょうが、もうひと皮むけてほしいです」(ミムラ氏)
垣内氏も上田と小川を評価しつつ、課題も提示する。
「正直なところ、世界の強豪国と戦って勝てるイメージがまだ湧きません。DFラインが高く設定され、プレッシャーも強くなる強豪国に対して、0トップ的なオプションも検討したいです。個人的には鎌田の0トップはありだと思います」(垣内氏)
ミムラ氏も、「0トップの導入は面白い」と賛同する。
「まだ森保監督も鎌田の特徴をつかみ切れていないときに、一度だけ鎌田をCFで起用したことがありましたね。今振り返ると、あれが唯一の0トップか。ただ、堂安のトップなども見てみたい。また、オランダで鮮烈デビューを飾った19歳の塩貝健人(NEC)ら、若い才能の台頭にも期待です」(ミムラ氏)
W杯優勝を掲げる森保ジャパン。最終予選でいくら好調でも、世界の頂点を極めるためにはまだまだ進化しなければならない。3月に控える次節バーレーン戦で最終予選突破が決まった場合、残りの3試合、そしてW杯までの1年半をどう過ごせば、"完全体"になれるのだろうか?
「攻撃的3バックも試合を重ねるごとに対策されて、流れの中での得点機会が減っています。バスケ用語で『リード&リアクト』といいますが、相手が自分たちのやり方を読んできたときにどう反応するか。世界で勝つためには、この点を伸ばさなければいけません」(ミムラ氏)
そのためには、まずは明確な「型」が必要と提言する。
「メンバーが入れ替わっても戦える『型』がひとつあると、そこからの応用も考えられるようになる。今は個々の選手任せ、あるいは特定のユニット任せなので、相手に対策されると次の手を打ちづらい。森保監督が苦手な部分ですが、選手も監督も能力を磨く必要があります」(ミムラ氏)
具体的には、攻撃的3バック以外の選択肢をもっと増やすべきだと言う。
「強豪国に攻め込まれることが想定される本大会では、攻撃的3バックはあくまでオプション。複数システムを併用できるように、予選突破後はいろいろなことを試して、問題点や課題をチームで共有しておくべきです」(ミムラ氏)
前回のカタールW杯では、ぶっつけ本番で3バックを試してスペイン、ドイツを破る金星を挙げたが、W杯優勝を目指すためには"正攻法"が求められる。
「強豪国ほどプランB、プランCなど、複数の選択肢を持ち合わせています。日本代表もそこを目指してほしいし、先に仕掛けられるチームになってほしい。ユーティリティな選手が増えれば、選択肢も増えるはずです」(垣内氏)
W杯優勝を掲げる森保ジャパンにとって、最終予選突破は通過点でしかない。"史上最強"との呼び声も高い日本代表は、さらなる進化を遂げていくはずだ。
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1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。