シュツットガルトで定位置をつかみつつあるチェイス・アンリ(20歳)。サッカーを本格的に始めたのは、なんと中学1年から。ロマンしかない! シュツットガルトで定位置をつかみつつあるチェイス・アンリ(20歳)。サッカーを本格的に始めたのは、なんと中学1年から。ロマンしかない!

11月23日(現地時間、以下同)、シュツットガルトの本拠、MHPアレーナ。ブンデスリーガの第11節、シュツットガルトvsボーフム戦で元U-20日本代表DFチェイス・アンリ(20歳)は、2-0とリードした85分に3バックの右に入ると、終了間際に敵のクロスを豪快にヘッドでクリアするなどチームのリーグ3戦ぶりの勝利に貢献した。

福島・尚志高校を卒業後、2022年4月にシュツットガルトに加入し、主に実質4部のセカンドチームでプレーしてきたチェイス・アンリ。

今年7月にトップチームに昇格すると、リーグ開幕戦のフライブルク戦に途中出場し、ブンデスリーガにデビュー。第11節終了時点でリーグ9試合に出場し、うち5試合で先発している。

昨季2位のシュツットガルトは今季、15シーズンぶりにチャンピオンズリーグ(以下、CL)に出場しているが、チェイス・アンリはCLでもリーグフェーズの第4節終了時点で全試合に出場。最も話題となったのが9月17日の第1節、敵地でのレアル・マドリード戦だった。

0-1とビハインドの中、右SBとして途中出場し、その後一度は同点に追いついたものの、結果は1-3の敗戦。それでもプロキャリアをスタートさせたばかりのチェイス・アンリが、ブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールやフランス代表FWキリアン・エムバペら世界最高峰のアタッカーたちとマッチアップする姿は強烈なインパクトを残した。

今季開幕前、彼がこれほど出場機会を手にするとは思われていなかった。ドイツのサッカー専門誌『Kicker』で30年以上シュツットガルトを取材してきたジョージ・モイシディス記者がこう話す。

「開幕戦に出場した際は、私も驚いた。夏に昨季までのレギュラーDFだった伊藤洋輝(バイエルン)とヴァルデマール・アントン(ドルトムント)が移籍したとはいえ、チェイス・アンリのトップチーム合流は〝ゲスト〟扱いだと思っていたからね。

ただ、新加入のアミーン・アル=ダヒル(ベルギー代表)が故障し、レギュラーCBとみられていたダン=アクセル・ザガドゥらDF陣にケガ人が続出。そのチャンスを彼が生かしたということ。

CLのレアル・マドリード戦は衝撃だった。本来CBの彼は右SBとして出場したけど、ヴィニシウスと対峙しても落ち着いていたし、まるで何年もプロでプレーしてきた選手のようだった」

ドイツ公共放送連盟『ARD』(ラジオ)で試合のコメンテーターを務めるフロリアン・ヴィンクラー氏は、チェイス・アンリについて「一番の強みは高さのあるヘディング」として、こう続けた。

「デビュー直後は、プレーがアバウトすぎると感じたけど、試合を重ねるごとにチーム戦術になじんできて、与えられた役割を十分に果たしている。もちろん、まだ毎試合先発が約束されている選手かといえば、そうではない。ただ、確実に成長している。

正直に言えば、今季開幕前まで彼は知られた存在ではなく、私も開幕戦で見たときは『あのモジャモジャ髪の選手は誰なんだ?』という感じだった。それでもフィジカルの強さはひと目見たらわかったし、今ではドイツ中のサッカーファンが、あのユニークな髪の選手=チェイス・アンリって理解しているよ」

チェイス・アンリ自身は、現状をどう感じているのだろう。ボーフム戦後、出場選手全員が通ることになっている取材エリアで待ったが、彼が姿を見せることはなかった。だが、ガラス扉の向こうで若手選手数人と会場を後にする様子が見え、声をかけると立ち止まって取材に応じてくれた。

――右太もものケガでボーフム戦の出場は微妙との報道もあったが......。

「もう大丈夫です。今日復帰できたので、このままやっていければ」

――今季これほど試合に出られると思っていた?

「思ってはいなかったですが、何が起きるかわからないのがこの世界。僕自身は、絶対に試合に出たいっていうか、そのためにこの2年間(セカンドチームで)やってきましたし。

まあ、最初はセカンドチームでも試合に出られない時期がありましたが、深く考えるよりもなんとかなると思ってやってきました。そこで心が折れたら負けですからね」

9月にはレアル・マドリード戦でCLデビュー。63分から出場し、ブラジル代表のヴィニシウス(右)ら世界的なスター選手たちとマッチアップした 9月にはレアル・マドリード戦でCLデビュー。63分から出場し、ブラジル代表のヴィニシウス(右)ら世界的なスター選手たちとマッチアップした

――CLでレアル・マドリード戦に出場したことが話題になった。

「ヴィニシウスとかエムバペって名前は大きいかもしれないけど、ピッチで戦う以上そこまで上に見るのは良くないし、ただ目の前の敵として見ていたというか。確かにスピードはめっちゃあったけど、そこまでヤバいとは思わなかった。緊張? 今までこのために準備してきたので、特別な緊張はなかったです」

――以前から「CL優勝が目標」と口にしている。どういうキッカケでそういう考えになったのか?

「中1でサッカーを始めて、高校に入ったばかりの頃までは周りから『ヘタクソ』と言われていた。だから、みんなを見返したいっていうか、CLで優勝して、世界最高の選手になればいいかなって。今は気持ち的にキツいこともあるけど、充実しているし、このまま満足せずにやっていきたいと思っています」

前出のモイシディス記者は、今後ケガ人が戻ってくれば、チェイス・アンリが継続して試合に出続けられるかはわからないとした上で、こう話した。

「普通に考えれば、20歳でこれだけチャンスをもらっているのはスゴいこと。ただ、サッカー選手の人生はひとつの試合、ひとつのプレー、ひとつのケガでどう転ぶかわからない。彼がサッカー選手として成功する要素を兼ね備えているのは確かだけどね」

アメリカ人の父と日本人の母を持ち、近い将来の日本代表入りも期待される188㎝の大型DFが、今後どんなキャリアを歩むのか、楽しみだ。

栗原正夫

栗原正夫くりはら・まさお

1974年生まれ。埼玉県出身。ノンフィクションライター。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、2006年独立。得意ジャンルはスポーツ。週刊誌やWEBを中心にインタビューやレポートを寄稿する。サッカーW杯は98年フランス大会から22年カタール大会まですべて現地観戦、取材。そのほかオリンピック、サッカー欧州選手権、女子サッカーW杯、ラグビーW杯など多数の国際大会を取材し、訪問国は約60ヵ国を数える。近年はスポーツに限らず、俳優やアーティスト、タレントなどのインタビューも多数。

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