今年10月、新たに開幕した大同生命SVリーグで、とりわけ男子が盛況ぶりを見せている。
「世界最高峰のリーグを目指す!」
立ち上げでそう銘打ったが、開幕から2ヵ月、非現実的な〝お題目〟ではない。
今年11月、サントリーサンバーズ大阪vs東京グレートベアーズという人気カードの入場者数は1万1599人と、前身のVリーグ時代を含めて過去最多を記録している。
それぞれ髙橋 藍、柳田将洋という人気アウトサイドヒッターが在籍しているのもあるだろうが、過去のリーグでは1万人を超えられなかったにもかかわらず、翌日も1万871人の入場者を記録した。
「男子バレーはパリ五輪後、たくさんの方が注目してくれるようになって。『人気が上がっているな』というのは、自分が生活をしている中でも感じています」
〝SVリーグの顔〟ともいえる髙橋 藍がそう語っているように、ほかの会場でも入場者数は軒並み事前の予想を超えている。パリ五輪前から人気上昇の気配はあったが、パリで「メダルまであと一歩」という激闘を演じたことも影響しているのだろう。
「パリ五輪の日本代表と同じレベルの試合を見てもらいたいし、そこでギャップを感じてほしくはないですね。バレーは面白い競技だし、少しでも〝刺さる〟人がいて、またいろんな人を連れてきてくれるという流れにしたい」
ジェイテクトSTINGS愛知の日本代表ミドルブロッカーで、パリ五輪のイタリア戦でも激闘を演じた髙橋健太郎の言葉だ。
「〝バレー熱〟を消してはならない」。コートに立つ選手たちも、その熱や波を肌で感じている。自然とプレーにも力が入り、それが観客に伝わって、歓声や拍手を誘う。その盛り上がりが客層を厚くする。人気スポーツのサイクルが生まれつつあるのだ。
首位を争う大阪ブルテオンの日本代表オポジット、西田有志は男子バレー界を牽引する自負も抱いていた。
「(SVリーグを盛り上げる)使命を背負うというより、選手はプレーするしかない。チームが勝てる状況をつくる。それが自分の中では一番で、それ次第で注目度は変わってきます。自分たちが勝って、どこまでファンがついてきてくれるかでしょうね」
西田はパワー満点のサーブやスパイクで、会場を華やがせる。ブルテオンのロラン・ティリ監督(日本男子代表の監督にも就任)も、「西田はとてもポジティブで、チームにエネルギーを与えられる」と評するなど、唯一無二のキャラクターだ。
一方、サントリーの日本代表ミドルブロッカー、小野寺太志はこう決意を語った。
「パリ五輪という舞台を経験できたのは、12人しかいません。自分もそのひとりとして、SVリーグでも常に上を目指していかないといけない」
来月1月に行なわれる「SVリーグ オールスターゲーム人気投票」で、小野寺は1位で髙橋 藍、西田以上の得票数で選ばれている。ちなみに2位はジェイテクトの日本代表セッター、関田誠大だった。代表選手を中心に、男子バレー人気は広がりつつある。
現在は、会場を訪れる観客の8、9割が女性という印象だ。アイドルやミュージシャンのライブを楽しむ〝推し活〟にも近い。「チームやバレーが好きな人たちではない」と揶揄する声もあるが、女性は男性よりも購買力が高く、グッズ売り上げも好調だ。
コートサイドの席では、ウオームアップ中に強烈なスパイクが飛んでくるが、彼女たちは負けじとスマートフォンのカメラをかざし、〝推し〟の最高なショットを収めようとする。
たまにボールがスマホごと吹き飛ばすが、それを拾い上げ、再びカメラを向ける。座席付近に転がったボールを選手が拾いに来ると、それを返して夢心地の表情だ。
彼女たちがコートでの感動を写真とともにSNSに上げることで、その輪は確実に広がっている。
「男性ファンの獲得も」。リーグ関係者はそれを課題にしているが、不可能ではない。
男子バレーは、野球やサッカーを楽しんでいる男性ファン層を引きつけるだけの臨場感がある。2m前後の男たちが俊敏に動き、頭脳的な布陣でブロックを崩し、奇跡的なディグ(スパイクレシーブ)で拾い上げる。スピード、パワー、連係が交錯し、スペクタクル性は高い。
「自分は、『SVリーグを世界最高峰にできる』と思っています。海外の有力選手も集まるはずで、そうなると日本人選手がスタートから出にくくなると思いますが、全体のレベルを上げるためにも必要なことです」
髙橋 藍の発言だが、各国代表クラスの選手や実績のある外国人監督が数多くやって来て、競技性も高まっている。ジェイテクトのアメリカ代表トリー・デファルコはパリ五輪の銅メダリスト、サントリーのドミトリー・ムセルスキーはロンドン五輪ロシア代表の金メダリストで、身長218㎝の長身選手だ。
ブルテオンの日本代表リベロ、山本智大もレベル向上について話していた。
「過去と比べると、外国人選手も含めて、どのチームと対戦しても毎試合レベルは高いです。例えば(ウルフドッグス名古屋のオランダ代表オポジット)ニミル(・アブデルアジズ)選手は世界トップクラスのサーバーで、少しも気が抜けないですし、刺激的。『やらなきゃいけない』という気持ちが強くなっていますね」
一方、ブラジル代表で、SVリーグの最多得点を争う広島サンダーズのオポジット、フェリペ・ロケは野心的にこう語った。
「チームが優勝するため、アタック、ブロック、サーブという持ち味を出したいです。ただ、日本はディフェンス力がものすごく高い。ブロックも素晴らしく、〝ボールが落ちない〟難しさがあるから、そこでどう戦うかですね」
その切磋琢磨がレベルアップにつながるはずだ。
リーグ開幕2ヵ月、座席の8割以上が埋まっている会場も多く、中には満員のアリーナもあり、〝ハコ次第〟では伸びしろも見込める。2028年ロサンゼルス五輪に向けて、日本代表もティリ監督の新体制が始動し、さらに注目を浴びるだろう。まだ渦は大きくないが、「男子バレーに人気沸騰の予感あり」だ。
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