「ゴールデン・アットバット」について語った山本キャスター 「ゴールデン・アットバット」について語った山本キャスター

先日、MLBで「ゴールデン・アットバット」という新ルールが議論されていることがニュースになりました。「好きな打者を試合中に1度だけ、好きな場面で打席に立たせることができる」というもので、多くの野球ファンから非難が殺到しました。

報道によると、このルールの骨子はこんな感じです。

・1試合につき1度だけ権利を使える

・7回以降に限定する

・9回に負けているチーム、同点の場合に限る

そのほか、複数の意見が出たそうです。

選手やファンはもちろん、OBたちもこの案に対する嫌悪感を隠すことはありませんでした。たとえば、試合終盤のピンチの場面で大谷翔平選手を打ち取った直後に、ふたたび大谷選手が打席に立つ可能性があるということ。相手投手からしたら、なんともやるせない気持ちになるルールです。

「打順」という野球の醍醐味のひとつを無視してしまう、なんとも大胆な意見ではあります。ただ、大きな議論を巻き起こしたことは、ある意味で成功だと言えるかもしれません。

今ではお馴染みの「ピッチクロック」も、昨年に導入された当初は大きな反対に遭いました。

野球とは"間"のスポーツですから、「ルールの導入で勝負が味気なくなってしまうのではないか」と懸念した人は多く、私も当時は疑問がありました。導入した目的が「試合時間の短縮=興行的な魅力を高める」という点も、投手や選手の視点に立っているのかな?と感じたのです。

なにより、私たちが愛してきた野球というスポーツが変革してしまうことを恐れたのかも知れません。だから本能的に反対したのかも。野球を楽しむ年月が増していくごとに、新しいことを簡単に受け入れられなくなっているのを感じます。

しかし今は、私も含めて「ピッチクロックなかった頃には戻れない」と思っている人も多いはずです。テンポのいい試合は見ていて気持ちがいい、とさえ感じるようになりました。

一方で、投手の怪我が増えたと指摘する声もあり、「本当の答えが出るのはさらに数年後」とも言われていますが、ピチクロック導入で感じたのは、"変わる"というのはそんなに悪いことではない、ということでした。

高津臣吾監督の古巣でもあるホワイトソックスの帽子です。 高津臣吾監督の古巣でもあるホワイトソックスの帽子です。

ゴールデン・アットバットも、打順の妙を無視する案にも思えますが、"盛り上がり"という点で、もしかしたら今以上の興奮をもたらしてくれるかもしれない。野球の魅力を高め、さらに多くのファンを獲得する可能性もあるのです。

私個人の懸念点は、ひとりの打者が抜きん出ているチームだと、その選手がゴールデン・アットバットで打席に立っても申告敬遠されてしまうのではないか、ということです。ドジャースのような強打者がたくさんいるチームなら、とても効果的だと思いますが......。オールスターなどの祭典で導入する分には、盛り上がりそうだなと思いました。

2017年に申告敬遠が導入されたときも一部で抵抗があったそうですが、現在、そのルールに意を唱える人は(私の周りには)いません。結果的に、投手の肩を守るというメリットが大きかったからでしょう。

ルール導入が選手の利益になるのか、あるいは興行を目的とするのか。進化と進歩、野球は時代に合わせて変化を遂げてきました。それだからこそ、人気スポーツとして生き残ってきたのでしょう。

野球を愛するからこそ出てきた意見であり、議論が起こることが前提。そのことを理解した上で、しっかりと野球の未来を見据えることができたらいいですね。

ちなみに現時点では、ゴールデン・アットバットの採用はあまり現実的でないということですが、みんなが議論するのはいいこと。多くの人が野球の未来に興味を持つ、と考えると成功だったのかも。

それではまた来週。

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山本萩子

山本萩子やまもと・しゅうこ

1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。

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