「プレッシャー」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右) 「プレッシャー」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右)

里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第34回では、「プレッシャー」に関する考え方に迫ります!

■どんな人も、プレッシャーからは逃れられない

----さて、前回までの「恋愛・結婚」に関するテーマから、今回は打って変わって「メンタル強化術」について伺いたいと思います。本連載読者から「どうすれば精神力が強くなるのか?」という質問がたくさん寄せられています。おふたりが考える「勝負強い人間になるためのライフハック」を教えてください。

里崎 大事な場面で結果を出せる人と、本来の実力を発揮できない人というのは、要するに「プレッシャーに押し潰されるかどうか?」ということだと、僕は考えているんだよね。極度の緊張感から生まれるものなのか、あるいは準備や実力の不足から生まれるものなのかは人それぞれだけど、プレッシャーに押し潰されることによって結果が出せなくなるわけだから。

五十嵐 じゃあ、きちんと結果を出すためには、「どうすればプレッシャーを感じないで済むか?」ということを考えればいいということですか?

里崎 いや、やっぱり"ここぞ"という場面では、誰だって大なり小なりのプレッシャーは感じるものだから、「どうすればプレッシャーを感じないか?」と考えるよりは、「どうすればプレッシャーをスルーできるか、軽くできるか?」を考えたほうが手っ取り早いと思うんだよね。

五十嵐 確かにそうですね。どんな人も、プレッシャーからは逃れられない。僕らも現役時代に経験があるけど、絶体絶命の大ピンチを迎えたときに、どうしても肩に力が入ったり、精神的に気負ったり、押し潰されそうになったりと、普段とは違う緊張状態になるのはやむを得ないですからね。サトさんも現役時代はプレッシャーを感じながらプレーしていたんですか?

里崎 僕の場合、現役時代にプレッシャーを感じて、身体が動かなくなったのは一度だけかな。2007(平成19)年の北京五輪アジア最終予選の第3戦、台湾戦だね。イニングを重ねるごとにミットを構える左手が重くなっていって。初めはそれほど気にしていなかったけど、試合が進むにつれて、意識しないと手が動かない。そのときに初めて、「あぁ、これがプレッシャーなのか」って気づいたんだよね。そのときに学んだことがあるんだけど......。

■「勝ちたい気持ちが強いほどうまくいかない」

五十嵐 何を学んだんですか?

里崎 「勝ちたい気持ちが強ければ強いほどうまくいかない」ということ。結局、この試合に勝って北京五輪出場を決めるんだけど、試合に勝ったことよりも、このことに気づいたことのほうが、後のことを考えるとすごく大きかった気がするな。

五十嵐 ただ、まったく逆の意見で「最後の最後に勝敗を決めるのは勝ちたい気持ちが強いほうだ」という考え方もあるじゃないですか? "火事場のバカ力"じゃないけど、その思いによって、普段の自分以上の実力を発揮できることもありますよね。僕自身も、「ここは絶対に抑えたい」という場面で、とことん気持ちを奮い立たせて抑えた経験は何度もありますから。

里崎 でもね、「勝ちたい」という気持ちが強すぎると、「負けられない」という思いも芽生えてくるでしょ。すると、「負けたらどうしよう?」という不安も生まれてくる。そうなると負のスパイラルに陥ってしまって、本来の自分の力を発揮することが難しくなってしまう。それが、プレッシャーの正体だと思うんだよね。

五十嵐 緊張しすぎてしまうと確かに体が硬くなっちゃいますね。勝負に対して真剣であればあるほど、「勝ちたい気持ち」が強くなるのも当然のことだし......。サトさんはどうマインドチェンジしてましたか?

里崎 現役時代の僕は、「勝ちたい気持ち」から「自分を信じる気持ち」に変えるように意識していたね。いくつか段階があって、「勝ちたい、勝ちたい」と意識している自分に気づいたときに、まずは「自分を笑い飛ばすこと」を意識したな。

五十嵐 自分を笑い飛ばす?

里崎 「オレって、若いなぁ。この年になってもまだ"勝ちたい"って欲張っちゃうの?」って、自分のことをイジる。同時に「別に負けたってええやん。命まで取られるわけじゃないんだし」と、なるべく物事を気楽に考えるようにシフトしていく。すると、少しずつ気持ちが落ち着いてくるんだよね。

五十嵐 目の前の勝負に集中しているときは、どうしても周りが見えなくなったり、視野が狭くなったりしますからね。周りが見えないほど集中するのがいいときもあるけど、サトさんの場合は、あえて自分のことを客観視する。冷静に"もうひとりの自分"が、自分にツッコミを入れることで普段の自分に近づけようということなんですね。でも、なかなかその境地に達するのは難しいと思いますけど......。

■「いいときの自分」を見て自信を取り戻す

里崎 確かに亮太の言う通り、スイッチをオンにしたりオフにしたり、そんなに簡単にマインドセットができるものではないよね。だから、少しずつ段階を踏んで、気持ちの切り替えに取り組んでいくことが大切なんだと思うな。亮太は現役時代にどうしてたの?

五十嵐 リリーフでの登板が多かったから、やっぱり気持ちの切り替えはすごく大切でした。打たれたこともあるし、リリーフ失敗で先発投手の白星を消してしまったこともあります。でも、それをいつまでも引きずってしまうわけにはいかない。だから、「失敗したら、次で取り返せばいい」と考えられるようになっていきました。それもまたマインドセットの一種ですよね。

里崎 僕の場合は、自分の調子が悪いとき、冷静さを失いかけているときには、自分が活躍している場面だけを集めた「イメージアップビデオ」を見ていたね。ビデオの中では、めちゃくちゃ難しいボールを難なく打ち返している。それを見て、「やっぱり、オレはすごいなぁ」って自分で自分を徹底的に褒める。そうすると、だんだん自分に酔いしれていって、気持ちよくなってくるんだよね(笑)。

五十嵐 わかる、その気持ち。あえて「いいときの自分」を見ることで、自分を洗脳するというのか、失いかけた自信を取り戻すきっかけになりますよね。

里崎 アスリートの場合は「映像」でいいときを思い出すことができるけど、一般の方の場合も、自分が手がけた商品やサービスをふり返ってみたり、上司から褒められたレポートを読み返してみたり、賞状を取り出してみたり......なんでもいいから、自分にとっての"晴れ舞台"をふり返ってみることもいいマインドセットになると思うけどね。

五十嵐 冒頭でも話しましたけど、誰だってプレッシャーはあるものだし、プレッシャーから完全に逃れることができないのだとしたら、意識を切り替えることで、それを軽くしたり感じなくすることはできるかもしれないですよね。

――ありがとうございました。今回はここまでということで。次回もまたおふたりの考えるメンタル強化術、"ここぞ"という場面での気持ちの持ち方について伺っていきます。では、次回もどうぞよろしくお願いいたします。

里崎五十嵐 了解しました。では、また次回!

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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