8月24日、サヨナラ満塁本塁打で「40-40」を達成したドジャース・大谷 8月24日、サヨナラ満塁本塁打で「40-40」を達成したドジャース・大谷

2024年も数々のドラマが生まれた日本プロ野球&MLB。日米の野球に精通する野球評論家、お股ニキ氏が2024年シーズンを象徴するハイライトシーンを一挙紹介!

* * *

■MLBドジャース編

打者に専念した今季、自己最多の54本塁打&59盗塁で史上初の「50-50」を達成した大谷翔平。DH専任で史上初のMVP受賞など偉業ずくめのシーズンだったが、特に印象的なシーンとしてお股ニキ氏が挙げたのはサヨナラ満塁本塁打での「40-40」達成だ。

「今年の大谷は『俺が決める』という意識が強すぎたせいか、得点圏打率はシーズン序盤から中盤まで低かったのですが、史上6人目の『40-40』がかかったサヨナラ満塁の場面で決めきりました」

ひとつの節目をクリアした安堵からか、「この頃から力みが取れ、『反対方向でもいい』というような無理のないスイングになった」と指摘するお股ニキ氏。

実際、8月24日(日本時間。以下同)に「40-40」を達成してからは好調が続き、9月は月間打率.384を記録。リーグ最下位だった得点圏打率も月間5割超と打ちまくった。

「極めつきは前人未到の『50-50』を達成したマーリンズ戦。自身初の3打席連発&10打点&2盗塁の大活躍で敵地ファンも総立ちに。大谷にとってマイアミは、WBC優勝を決めた試合も含めて特別な場所になりました」

ドジャース移籍を選んだ理由に、「ヒリヒリする9月を過ごしたい」と語った男は、地区優勝がかかった試合でも決勝打を放つなど、まさに9月終盤に勝負強さを見せた。

「『50-50』を達成してからは得点圏打率8割の無双状態。ポストシーズンでもその勢いは続き、レギュラーシーズンからの得点圏20打席で17安打を記録。これは過去60年間における得点圏20打席スパンでの最多安打記録です」

ハイライトはパドレスとの地区シリーズ初戦。今季14勝のディラン・シーズから放ったポストシーズン第1号だ。

「今季の大谷はストレートをやや苦手としていました。この場面でシーズは捕手の要求どおり、内角高めへ156キロの真っすぐを投げましたが、大谷はしっかり打ち返して3ラン。お互いがベストを尽くした好勝負でしたね。ドジャースを勢いづけたという意味でも極めて重要な一打でした」

同地区のライバルとして投げ合ったドジャース・山本(右)とパドレス・ダルビッシュ(左) 同地区のライバルとして投げ合ったドジャース・山本(右)とパドレス・ダルビッシュ(左)

同じく、ドジャースの世界一に貢献したのは、MLB1年目の山本由伸。右肩の故障で3ヵ月戦列を離れたものの、終わってみれば7勝2敗&防御率3.00。ワールドシリーズではレッドソックス時代の松坂大輔以来となる日本人勝利投手に。

とはいえ、韓国での開幕シリーズで迎えたデビュー戦はパドレス相手に1回5失点と散々な船出だった。

「球種の癖を見破られないように開幕直前でセット時のフォームを変えた結果、想像以上に球威が弱まりました。この大炎上がなければ、シーズン防御率は2点台でした」

実はお股ニキ氏、オープン戦での登板を見て、「セット時のグラブ位置、握りには注意が必要」と『週刊プレイボーイ』本誌で警鐘を鳴らしていたが、その指摘がまさに現実となってしまった。

「『投手史上最高額の契約を結んだ男がいきなり炎上!?』と不安視する声もありました。ただ、山本は修正力も抜群です。癖が出にくい握り方、グラブの位置や角度を修正しつつ、元のフォームで投げる方法を習得しました」

本来の実力を存分に発揮した試合が6月8日のヤンキース戦。7回2安打無失点の圧巻投球を見せた。

「実はこの頃から左手の使い方を少し変え、球速も球威も上がり、私が提唱するスラッターもより効果的に投げられるようになりました。しかし、フォームを変え、出力を上げた代償として、右肩を痛めてしまいました」

それでも復帰後はポストシーズンで活躍。パドレスとの地区シリーズではダルビッシュ有との投げ合いを制した。

「同地区ライバルとして徹底研究されているため、山本のスプリットをパドレスが見抜いていたのは明らかでした。しかし、山本はそれを逆手に取ってストレートで押して5回無失点。デビュー戦でKOされた因縁の相手にリベンジしました。

ダルビッシュも7回途中2失点の好投で意地を見せましたが、負け投手に。日米通算200勝を果たした節目のシーズンでしたが、最後はドジャースの前に屈しました」

■MLB新人投手編

MLBデビューから好投を続け、ルーキーながらオールスターにも選出されたカブス・今永 MLBデビューから好投を続け、ルーキーながらオールスターにも選出されたカブス・今永

山本以上に存在感を示したルーキーといえば、カブスの今永昇太だ。今季の新人投手ではただひとり、規定投球回に達して15勝3敗&防御率2.91という好成績を残した。

「高めのストレート、チェンジアップが威力を発揮。オープン戦終盤に打ち込まれたことを踏まえ、開幕直前に微調整し、低いアングルから高めに投げるスタイルを徹底することで打者を翻弄。研究熱心さ、対応能力の高さも光りました」

結果的に大谷も果たせなかった1年目でのオールMLBセカンドチーム入り。そんな今永を抑え、ナ・リーグ新人王に輝いたのはパイレーツのポール・スキーンズ。実は大谷とも縁のある投手だ。

昨季のMLBドラフト全体1位で入団し、ナ・リーグ新人王に輝いたパイレーツ・スキーンズ 昨季のMLBドラフト全体1位で入団し、ナ・リーグ新人王に輝いたパイレーツ・スキーンズ

「昨季のMLBドラフト全体1位で入団した規格外のゴールデンルーキー。大谷に憧れていたらしく、15歳だった2018年には、エンゼルス時代の大谷の本拠地投手デビュー戦を生観戦したそうです」

ルーキーイヤーの今季は最速164キロを計測し、11勝3敗&防御率1.96と圧巻の成績。ドジャース時代の野茂英雄以来となる「新人でのオールスター先発投手」も務めた。

「佐々木朗希の1歳下ですが、現時点で実力はスキーンズのほうが上。今後、日本人投手がサイ・ヤング賞を狙う上で最大のライバルと言えます」

■NPBセ・リーグ編

日本プロ野球の今年の顔といえば、前年4勝から一転、35歳にして15勝3敗で最多勝&最高勝率の2冠に輝いた菅野智之(巨人)だ。お股ニキ氏はキャンプで菅野を取材した時点で「15勝できる」と宣言したが、見事に的中した。

「もともとスライダー投手ですが、今季は私が推奨する横回転を加えたジャイロフォークが素晴らしかった。このフォークを駆使し、狙って併殺を奪う場面も頻繁にありました。7月28日のDeNA戦ではフォークがさえ渡り、3年ぶりに完封を達成。ここ数年の不調を脱し、殻を破った試合でした」

5月24日、巨人の投手としては沢村栄治以来88年ぶりに甲子園で「ノーノー」を達成した戸郷 5月24日、巨人の投手としては沢村栄治以来88年ぶりに甲子園で「ノーノー」を達成した戸郷

開幕投手は戸郷翔征に譲ったものの、天王山初戦を託されたのはやはり菅野だった。

「9月10日、広島との首位攻防3連戦では、あえてローテを飛ばして菅野がカード頭で先発。それ以前の巨人はマツダスタジアムでわずか1勝と鬼門にしていましたが、菅野が5回を被安打1と完璧に抑えて勝利。一気に3連勝する流れをつくり、セ・リーグの趨勢もここで決まりました」

菅野を筆頭に投手たちの好投が目立った今季。象徴的なのは戸郷と大瀬良大地(広島)、ふたりのノーヒッターが誕生したこと。巨人の投手による甲子園球場でのノーヒットノーラン達成は、沢村栄治以来88年ぶりの快挙だった。

「戸郷の投球に加え、捕手の岸田行倫の配球も良かった。試合終盤、バックドアのスライダーと落ち球のフォークを重ねるなど、勝つための配球を徹底。打たれにくいコースに攻め続ける配球ができていました」

6月7日、2奪三振ながら打たせて取る投球で「ノーノー」を達成した広島・大瀬良 6月7日、2奪三振ながら打たせて取る投球で「ノーノー」を達成した広島・大瀬良

一方の大瀬良は本拠地マツダスタジアムで達成。奪三振がふたつだけ、というのも注目点だった。

「大瀬良とコンビを組んだ會澤翼はここ数年でリードが改善。データを駆使しつつ、これまで培ってきた経験も生かせています。肩や打撃面の衰えはあっても、試合をコントロールする力はむしろ成長しているように感じます」

同じ広島で今季を象徴する選手といえば、ショートでブレイクし、ゴールデン・グラブ賞を初受賞した矢野雅哉だ。

「源田壮亮(西武)の1年目に、『小坂 誠(元ロッテほか)以来の桁違いの守備』と衝撃を受けましたが、矢野の守備もそれくらいのインパクトがありました」

といっても、源田の守備とはまた違う魅力があるという。

「グラブさばきの華麗さというより、打球への突進力がすごく、野性味あふれる守備をします。身体能力を生かした守備範囲の広さ、肩の強さが驚異的。『内野を抜かれた』と投手が感じるような打球にも追いついてアウトにしてしまうので、試合展開まで変える力があります。

大瀬良が2奪三振でノーヒットノーランを達成しましたが、菊池涼介と矢野という鉄壁の二遊間の存在も大きかったはずです」

■NPBパ・リーグ編

ソフトバンクの圧倒的な強さが目立ったパ・リーグ。4月27日からの西武3連戦で生まれたプロ野球タイ記録の「3試合連続サヨナラ勝利」は地力の強さを感じさせた。

「3試合目は2点ビハインドから柳田悠岐が逆転サヨナラ3ラン。ソフトバンクは打撃も守備も投手もレベルが高いため、劣勢でも接戦に持ち込むことができ、必然的にサヨナラも多くなります」

ちなみにこの試合、西武の先発は髙橋光成で7回2失点と好投。その後、リリーフ陣が打たれて白星を逃した。

「結果論ですが、ここで勝てていれば髙橋の0勝11敗という成績も、西武の大失速もなかったかもしれません」

ソフトバンクと西武の明暗を象徴するシーンといえば、今季FA加入した山川穂高が古巣西武相手に打った「2打席連続満塁本塁打」だろう。

「それまでブーイング一色だったベルーナドームを実力で黙らせた。打った山川だけでなく、何度も満塁の好機をつくったソフトバンク打線のすごさが際立ちました」

そんな無双ソフトバンクに対し、4勝1敗と無類の強さを見せたのが今季最多勝に輝いた伊藤大海(日本ハム)だ。

「夏場に握りを変えたことでストレートの球速が3キロ近く上昇。球威が試合終盤まで落ちず、新庄剛志監督も『1回でも9回でも変わらない』と称賛していました。日本ハムの投手として、シーズン4完封5完投はダルビッシュ以来の快挙です」

9月には3試合連続完投も達成。中でも9月10日、西武戦での完封劇が印象的だ。

「この試合は0-0のまま9回へ。その表の投球の最後を空振り三振に仕留めたことで勢いが生まれ、その裏のサヨナラ勝利を呼び込みました。この日は球の質も含め、伊藤の人生ベストピッチだったのではないでしょうか」

■NPBポストシーズン編

セ・リーグ3位から駆け上がったDeNAが下克上日本一を達成し、幕を閉じた今季のプロ野球。お股ニキ氏がポストシーズンで特に印象に残っているのは、そのDeNAにCSで敗れた巨人だという。

「坂本勇人の気迫がこもったヘッドスライディングにはしびれました。また、負ければCS敗退となる第6戦に中3日でリリーフ登板し、牧秀悟にスライダーを打たれて負け投手になった菅野の投球も印象に残っています。今季はフォークで飛躍しましたが、最後に勝負球として投じたのはスライダーでした」

10月19日、執念の連続ヘッドスライディングでチームに勢いをもたらした巨人・坂本 10月19日、執念の連続ヘッドスライディングでチームに勢いをもたらした巨人・坂本

日本シリーズは第1戦、第2戦でソフトバンクが快勝。一気に決まるかと思いきや、舞台を福岡に移した第3戦から、流れはDeNAへ移った。

「福岡ではDH制なので、走塁の負担もなく投球に専念できることから、CSで肉離れを起こしたエース東 克樹を第3戦につぎ込む勝負に出ました。筒香嘉智、タイラー・オースティン、宮﨑敏郎、佐野恵太らが並ぶDeNA打線はDH制と相性が良く、敵地での3連勝も納得でした」

結果的に東が7回1失点と好投。以降の試合ではリリーフ陣も含めた投手陣全体の奮闘、そして、ケガの山本祐大に代わってマスクをかぶった戸柱恭孝の好リードでソフトバンク打線を封じた。

「ペナントレースとは違った配球で裏をかくなど、戸柱のリードはデータと感覚をいい意味で融合できていました。また、リリーフ陣ではオリックスから移籍した中川 颯、現役ドラフトでロッテから来た佐々木千隼、22年に楽天から加入した森原康平と、他球団出身の投手をうまく使いこなしたことも大きかったです」

日米共に大いに盛り上がった2024年。来年も数多くのドラマを期待したい。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

オグマナオトの記事一覧