トークイベントを行なった五十嵐亮太氏さん(左)と、カラスコマスクと楽天ジャケット着用した長谷川晶一氏(右) トークイベントを行なった五十嵐亮太氏さん(左)と、カラスコマスクと楽天ジャケット着用した長谷川晶一氏(右)

プロ野球の全12球団すべてのファンクラブに加入して20年。『12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』の作者で、世界唯一の「12球団ファンクラブ評論家」の肩書きを持つ長谷川晶一氏。普段、ヤクルトファンである長谷川氏は、なぜ12球団のファンクラブの会員であり続けるのか。各球団はどんなサービスを提供しているのか。ヤクルトやMLBでも活躍した五十嵐亮太氏を相手に、熱量たっぷりに語った。

■プロ野球全球団のFCに入会して20年!

五十嵐 12球団すべてのファンクラブ(FC)に入会して20年目なんでしょ? いったい、いい大人が何をやっているんですか。おまけに、そんなマスクをかぶって、ぶかぶかのジャケットを着て(笑)。

長谷川 さすが五十嵐さん、お目が高い。このマスクは、楽天の非公認マスコットのカラスコに特化した「カラスコクラブ」の特典なんです。そしてこのジャケットは、オンワード樫山製で、同じく楽天FC、2006年ブースタークラブの特典です。このブースタークラブ、年会費はまさかの10万500円!

五十嵐 でも、長谷川さんはヤクルトファンじゃないですか(笑)。どうして、全球団のファンクラブに入ろうと思ったのか? どうして、それを20年も続けているのか? すべてが謎すぎます。

長谷川 きっかけは、2004年の球界再編騒動。あのとき、現行の「2リーグ12球団制」が「1リーグ10球団制」になるかもしれないって、球界全体がグラグラしていましたよね。ファンサービスのあり方が問われていたあのとき、多くの球界関係者が「もっとファンサービスを」と言っていたけれど、「いったい、ファンサービスとは何か?」と考えていたときに、「本当のファンサービスを知るには、全球団のFCに入会すればいいのでは?」とひらめいて。それで翌年から始めて、はや20年(笑)。2005年に35歳だった青年も、気がつけば54歳に......。

五十嵐 長谷川さんが全球団のFCに入会したということで、僕のYouTubeチャンネル「イガちゃんねる」に出てもらったときに、いろいろ教えてもらったけど、FCの世界も奥が深そうですよね。

長谷川 20年前はまだまだ未整備だったけど、最近では各球団が手を変え品を変え、「ファンに喜んでもらおう」と頭をひねっていますから、一大エンターテイメントの様相を呈しています。例えば、これを見てくださいよ(手元のキャリーバックから大量のレプリカユニフォームを取り出す)。

広島FC特典の歴代ユニフォーム 広島FC特典の歴代ユニフォーム

五十嵐 わっ、赤いユニフォームが大量に出てきた。広島FCの特典ですか?

長谷川 そうです。まずはコレ、ノースリーブなんですよ。で、コレは胸に「Caoshima(カオシマ)って書いてある。カープのホームとビジターユニフォームのミックス版です。あと、コレは左肩に「東京」って書いてあって、東京都の地図まで載っている。これ、僕が東京に住んでいるからなんです。だから、北海道に住んでいる会員の方なら「北海道」の文字と地図がプリントされている。カープFCって、すごくないですか?

■「ただなんとなく、気がつけば20年が経過していた」

五十嵐 すごいです。確かにすごいけども、長谷川さんの熱量に若干、引き気味です(笑)。以前、僕のYouTubeに出てもらったときには、「選手メッセージ入り目覚まし時計」を紹介してくれましたよね。

長谷川 この「選手メッセージ入り目覚まし時計」は、もはや各球団の定番アイテムになっていますね。選手たちが恥ずかしそうに「おはよう、早く起きないと遅刻するよ」って起こしてくれる。ファンとしてはたまらないですよ。個人的には、「もれなく棒読み」「少し照れ気味」というのが最高です。

ソフトバンクの選手の声が入った目覚まし時計 ソフトバンクの選手の声が入った目覚まし時計

五十嵐 確実にバカにしてますね(笑)。でも、僕もやったことがあるけど、あれはなかなか恥ずかしいものなんです。録音するためにやってきたスタッフが差し出すマイクを前にして、選手ロッカーの片隅で「おはよう、目覚めはどう?」とか、「今日も頑張ったね♡」ってセリフを渡されるんですから。

長谷川 2016年のソフトバンクFC特典は、松田宣浩選手が「マッチだよ、起きて。遅刻するよ、起きろー! 1、2、3、マーッチ!」で、柳田悠岐選手が「おはよう、今日もフルスイングで頑張ろう。起きろ、遅刻するぞ。早く起きないとヤバいっす」って起こしてくれるんです。他にもたくさんあるけど、個人的に好きなのが2021年のDeNA特典、ロペス選手の「オハヨゴザイマス。キョウモ、イチニチ、ガンバリマショウ。バモス!」でした。

五十嵐 今回、『プロ野球12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』を出版するにあたって、すべての目覚まし時計に電池を入れ直して、誰がどんなセリフを言っているのか、すべてメモしたって言っていましたよね。その情熱、ハンパないですね。

長谷川 もちろんです。それが「12球団ファンクラブ評論家(R)」ですから。わざわざ特許庁に行って、商標登録まで済ませていますから! 一応、単なる「自称評論家」ではなく、「世界で唯一無二の評論家」なんです。

五十嵐 ここまでくると、もはや執念ですよね(笑)。どうして、そこまでFCに魅入られたんですか? 何か深い理由があるんですか?

長谷川 理由ですか......。何もないです(笑)。強いて言えば、「ただただ楽しいから」としか言えないですね。最初に言ったように、始めは「本当のファンサービスを知るためには、FCに入会するのが一番だ」という理由で始めたけど、いざやってみると、次から次へといろいろなグッズや情報が届くし、観戦チケット特典を使うために、全球団の本拠地球場に行くと、やっぱりその球団独特のカラーもあって、ますますプロ野球が好きになっていく。それで気づけば20年が経過してしまいました(笑)。

■「ひとまず、30周年を目指して頑張ります!!」

五十嵐 20年間もFCに入会し続けてきたわけですけど、この試みはいつまで続けるつもりなんですか?

長谷川 そこなんですよ。20年間も続けてきたんで、やめどきがわからなくなってしまって(笑)。いったい、いつやめたらいいんですかね?

五十嵐 知らないですよ(笑)。でも、ここまで続けてきたんだから、30周年を目指してさらに精進していってほしいと思いますよ。

長谷川 実は、もうすでに2025年度会員募集は始まっていて、すでに全球団の継続手続きを済ませています。阪神のFCは例年、めちゃくちゃ早いんですけど、もう25年度特典が手元に届いています。

展示された自分のコレクションを眺める長谷川氏 展示された自分のコレクションを眺める長谷川氏

五十嵐 でも、20年分の特典グッズを保管しておくだけでも大変ですよね。

長谷川 一時期は、自宅の丸々ひと部屋を「特典グッズ置き場」にしていたけど、それでも厳しくなってきたので、レンタルルームを借りていたこともあります。でも、最近は自分なりに断捨離をしていて、「これは」というものは手元に残しておくけど、それ以外のものは各球団のファンの友人にプレゼントしたりしていますね。

五十嵐 FC本を読んでいると、長谷川さん以外にも、全球団のFCに入会している人は他にもいるようですね。モノ好きというか、熱心というか、何と言っていいのかわからないですけど......(笑)。

長谷川 全球団のFCに入会している人のことを、僕たちは「12の人」という意味で、「トゥエルバー」と呼んでいますが、僕が知る限り、10名程度は存在を確認しています。もし、この記事を読んだ方で「オレも全球団に入会しているよ」という人がいたら、ぜひ僕のSNS経由でメッセージをお待ちしています。奇特な者同士しかわかり合えないことを語り合いましょう!

五十嵐 自分で「奇特な人」って言っちゃってるよ(笑)。でも、ぜひこれからもFC界の発展、向上のために研究を続けていってください。

長谷川 ありがとうございます。「発展、向上」に寄与できるかどうかはわからないけど頑張ります! ......ところで、いったい何を頑張ればいいのでしょうか(笑)?

快挙か? 暴挙か? 太っ腹か?やせ我慢か? 
2004年からプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会。そのまま全部に入り続けて、ついに20年を突破!

いったい何のために? 仕事は大丈夫なのか? いくらブッ込んでいるんだ? 巻き込まれる家族の立場は? 周囲からの心配をものともせず我が道を貫き通し「12球団ファンクラブ評論家」の商標登録までする著者を見て、同じように12球団ファンクラブ全部に入会を続ける「トゥエルバー」なるフォロワーたちも次々と登場した。

予期せず発生するアクシデントを記した「ファンクラブ事件簿」。各球団が知恵を絞って製作した特製ユニフォームやノベルティグッズから厳選した「レジェンド級の名品・逸品」。また、知恵を絞って製作したにもかかわらず、何でこうなってしまったのかと首を傾げずにいられない「奇天烈な珍品グッズ」も毎年どんどん増えていく……。

幻の「ライブドアフェニックス」グッズ
あの頃を思い出させる「コロナ対策」ノベルティ
ファンクラブグッズだけでの日常生活やコーディネート
独特のセンスが光る広島の歴代オリジナルユニフォーム
10万円以上を支払う「プレミアム会員」の価値……などなど
カラーを含む400ページに収録した写真・コラムがプロ野球12球団ファンクラブの変遷を雄弁に物語る。

全12球団×20年分すべての「ファンクラブ通信簿」で各球団のファンサービス充実度を忖度なしにガチ評価。20年間の長きにわたり、膨大なエネルギーと年会費を投じ、時間と居住スペースを犠牲にして得たものとは何だったのか? 試合観戦とは違うプロ野球の楽しみ方がここにある!

五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

五十嵐亮太の記事一覧

長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

長谷川晶一の記事一覧