「老い」について語った五十嵐氏(左)と里崎氏(右) 「老い」について語った五十嵐氏(左)と里崎氏(右)

里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第37回では、「老い」に関する考え方に迫ります!

■「加齢に抗いたい人」が多い

----以前、「生きること」について伺ったので、今回からは「年を取ること、老いること、そして死ぬこと」という重厚なテーマについてお話しいただきたいと思います。おふたりともすでに40代を迎えて、「老けたな」と感じることはありますか?

里崎 最初に感じるのは体力の低下じゃないですかね。「疲れが取れづらくなった」とかいろいろあるけど、僕が具体的に感じているのは目の衰え。もともと2.0だったから、今でも1.0、1.2くらいあるでしょうけど、最近は遠くが見えづらくなってきました。

五十嵐 僕の場合、野球をやっているときは「ここが衰えたな」とか、自分の老いは感じやすかったけど、現役引退後はそこまで自分の身体と向き合って追い込んだりすることもないので、老いを感じる瞬間は現役時代と比べるとわかりづらくなっていますね。強いて言えば、「太ったな」という感じかな(笑)。

里崎 現役時代と比べれば、圧倒的に運動量は落ちるものだし、代謝量も変わってくる。太るのはある意味では仕方ないことだけど、僕自身は「人前に出る仕事だから身なりには気をつけて、常にスリムでいよう」とはまったく思わない。健康に支障がない限りは、体型については特に意識することもないけどね。

五十嵐 最近よく思うんだけど、加齢に抗(あらが)いたい人ってけっこう多いじゃないですか。「若く見られたい」とか、「年を取りたくない」とか。世の中には「アンチエイジング」という考えもすっかり定着しているけど、僕にはそういう感覚は全然ないんです。だけど、僕らのように人前に出ることが多い世界だからかもしれないけど、「若く見られたい」「長生きしたい」という人が多い印象です。でも、サトさんって全然抗う気がないですよね。

里崎 僕自身は抗うつもりはまったくないけど、だけど見栄えだけは、お金をかければどうにでもなるもの。他人からの見え方は。完全にお金次第。お金をかければ、どんな人でも小ぎれいで清潔感のある見栄えだけはどうにでもなる。要は、そこにコストをかけるかどうかということだよね。

五十嵐 確かにそうですね。いい服をそろえたり、いい美容室に行ったり、極端な話、お金さえかければ美容整形をすることもできるわけだし。サトさんの言うように「見栄え」ということに限れば、お金で解決できることはかなりありますよね。

■五十嵐が白髪を染めない理由

里崎 ファッション、髪形はもちろん、美容外科もあるし、体型だってお金をかければ、パーソナルトレーナーと契約したり、ある程度は自分の理想の見た目にできる。自分のセンスに自信がなければスタイリストやヘアメイクを雇ってもいいんだから。要は、その人自身が「どうありたいか?」「どう見られたいか?」というところにかかってくるということだよね。最近、亮太は髪を染めずに白髪をキープしているけど、それはどういう心境の変化なの?

五十嵐 僕自身、「年相応でいいな」と思っているからですね。具体的に言えば、理由は3つあって、ひとつは、忙しくて染める時間がなかなか取れないこと。ふたつ目は、あんまり染める回数が多いと、それが頭皮から吸収されて身体にもよくないんじゃないかと思ったこと。「身体に悪い」とは言わないけど、そのあたりは意識しましたね。

里崎 最後、3つ目の理由は?

五十嵐 これはシンプルに「自分の髪がどれくらい白いのか見てみたかった」という理由。で、いざ染めるのをやめたら、めっちゃ白かった(笑)。おかげでみんなから、「お前、いつからこんな白くなった?」って驚かれているけど、実はけっこう前からなんです。でも、ホントによく「なんで染めないの?」とか、「老けて見えるよ」って言われますね。

里崎 でも、亮太の場合、「老けて見えるよ」という言葉は別に気にならないわけでしょ? 

五十嵐 そうなんです。「老けて見える」っていうことが、僕の中でそんなネガティブじゃないから。「老けて見えてもいいや」と思っているし、逆にすごい年をとっているのに、明らかに若作りしているほうが恥ずかしい。その人なりの価値観があっていいけど、僕からすれば「いつまでも若く見られたくて頑張っているんだな」って思われる方が恥ずかしいんです。僕は、そういう努力は必要ないと思っちゃうタイプなので。さっきのサトさんと一緒ですね。どっちがいいか悪いとかってより、そこが好きかそうじゃないかの差でしかないような気がします。

里崎 結局、すべては価値観だから。「これがいい」「あれはダメ」とか、是と非がないんだよね。たぶん亮太も、「白いほうがいい」と思っているからそうしているだけで、もし「白髪はカッコ悪い」と思っていたら、どんなに忙しくても優先的に染めているはずだから。結局は自分自身の中で、「それがカッコいい」「手入れしやすい」「お金をかけたくない」っていう価値観、選択肢の中で、自分にとっていいものを選んでいるだけ。だから、別に何が正しくて、何が間違っているとかは関係ないんだよね。

■結婚後の「カッコよさ」の考え方

五十嵐 きれいごとのように聞こえるかもしれないけど、人生を楽しんでいない人って、どうしても老けて見えがちじゃないですか。逆に、人生が充実している人って、実際の年齢以上に若々しい。それって、実際の年齢とは別に、自分の生き方次第で見え方も変わってくるということだと思うんですよ。

里崎 もし「実際の年齢よりも若々しく見られたい」と思うのなら、お金に糸目をつけずに見た目に自己投資をすることと、亮太が言ったように毎日を充実して楽しく過ごす方法があると思う。だけど、シンプルに「見た目をよくしたい」のならば、「内面を磨く」という、抽象的で何をすればいいのかよくわからないやり方よりは、お金をかけた方が手っ取り早い。何度も同じことばっかり言うようだけど(笑)。

五十嵐 それでも僕は、「内面を磨く」「毎日を充実して過ごす」という生き方が好きだし、そっちを選びたいですね。それが実年齢よりも老け込むようなものだったら、自分の生き方を反省するしかない。表情を見れば、「この人、生き生きしてるな」とかってわかるじゃないですか。内面的なものって、年を取れば取るほど表に出てくるものですよね。サトさん自身は、どうして見た目が気にならないんですか?

里崎 だって、もう勝負しにいくところがないから。

五十嵐 「勝負」って何ですか? 女性にモテたいとか、そういうこと(笑)?

里崎 若い頃ならともかく、今さら「モテたい」という思いもないし、これから何かスキャンダルを起こして何もかも失うリスクは避けたい。そうなれば、週刊誌で撃ち殺されるだけだからね。

五十嵐 結婚しているとはいえ、「奥さんの前でカッコいい姿を見せたい」とか、「子どもたちにとってカッコいいパパでいたい」とか思わないですか? 

里崎 思わないね(笑)。

五十嵐 アメリカで野球をしていた頃、試合後にもかかわらず、いつもきっちりと身だしなみを整えて帰る選手がいたんです。そこで、「ただ家に帰るだけなのに、なんできちんとセットして、きれいな格好をしてるの?」って聞いたら、「僕は奥さんに、常にカッコいい男として見られたいから」って答えたんです。結婚してからも、その思いが続くってすごくないですか?

里崎 僕には、その考え方はまったく理解できないけどね(笑)。着飾らないとカッコいいって思われないなんて、逆にイヤじゃない?

----さて、そろそろ時間となりました。次回は、今回の流れを受けて「死」についてお尋ねしたいと思います。

里崎五十嵐 了解です。また次回もよろしくです!

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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