2年連続で2区に出走し、青学大の連覇に大きく貢献した黒田。4年生として迎える来年もどんな走りを見せるか楽しみだ 2年連続で2区に出走し、青学大の連覇に大きく貢献した黒田。4年生として迎える来年もどんな走りを見せるか楽しみだ

青山学院大が総合力の高さを見せつけ、2年連続8度目の総合優勝を果たした今年の第101回箱根駅伝。スタート直後から抜け出した中央大が4区まで独走する中、青学大は往路の各区間に配置されたエース級の選手が力を発揮してつなぎ、差のつきやすい〝山〟の区間(5区、6区)で圧倒的な走りを披露。共に区間新記録でトップに上がり、その後も他を寄せつけなかった。

一方、区間別で史上最高レベルの戦いが繰り広げられたのが、各校のエースが集う〝花の2区〟だ。これまでの歴代区間記録は、東京国際大で「史上最強の留学生」と呼ばれたイェゴン・ヴィンセント(現Honda)が2021年に打ち立てた1時間05分49秒だったが、それを3人が上回った。

その主役は、ヴィンセントの後輩に当たるリチャード・エティーリ(2年)だった。1万m27分06秒88、ハーフマラソン59分32秒と出場選手中最速の自己記録を持つエティーリは、14位でタスキを受けたが、鶴見中継所(1区→2区)を16秒先に出た駒澤大に7.5㎞地点で追いつく。

その後も余裕を持ってペースを維持し、16㎞前後でギアを上げると、並走していた駒大を突き放して12人抜き。順位を2位まで押し上げ、1時間05分31秒で区間賞を獲得した。

そのエティーリは、戸塚中継所(2区→3区)まで約3㎞続く〝戸塚の壁〟と呼ばれる厳しい上り坂で、後ろを何度も振り向いていた。2区のスタート直後に置き去りにしたはずの青学大の黒田朝日(3年)、創価大の吉田 響(4年)が追走していたからだ。

黒田は、区間賞を獲得した前回大会と同じように、15㎞までを抑えて入った。8.3㎞の横浜駅前は順位をふたつ下げて通過しながら、終盤からギアをしっかり上げて1時間05分44秒でタスキをつないだ。

青学大と11秒差でスタートした吉田は、「黒田くんは必ず区間新を出すから離されなければいいと思った」と言うように、同じく終盤勝負の走りに徹し、黒田を1秒上回る1時間05分43秒。共に日本人歴代最高をマークした。

さらに駒大の篠原倖太朗(4年)も、2位から5位にチーム順位を落としたものの、同大のエースだった田澤 廉(現トヨタ自動車)が22年に出した大学最高記録にあと1秒まで迫る、1時間06分14秒という日本人歴代5位の好タイムで走った。

箱根駅伝の2区は、23.1㎞と往路5区間での最長区間な上、起伏の激しい上り下りの坂が数ヵ所ある過酷なコース。レースの流れを決める重要区間で各校のエースが走る〝決戦の場〟として広く知られているが、今回の結果を見ると、来年はさらにハイレベルな戦いが予想される。主役候補が複数いるのも楽しみだ。

その筆頭は、やはりエティーリだろう。大学入学直後から驚愕の記録を叩き出してきたが、昨季の箱根予選会は転倒して力を出しきれず、チームもわずか3秒差で本戦出場を逃した。今季の同予選会も腹痛で力を出しきれなかったが、そこからじっくり箱根に向けて調整し、区間記録更新へとつなげた。

〝戸塚の壁〟を経験したことで対策を立てられるため、今回以上の爆走も十分に期待できる。先輩のヴィンセントが保持する3区、4区の区間記録更新を目標に、本人も「2区以外も走りたい」と口にしているが、日本人エースの台頭がなければ再び2区に回る可能性は高い。

チームは総合8位でシード権を獲得し、来季の予選会は免除となったため、本戦に向けてしっかり準備ができるだろう。

エティーリに勝負を仕掛けそうなのは、2回の2区出走で結果を残してきた黒田だ。今季は1万mの自己記録を27分49秒60に伸ばし、走力アップの成果を箱根でも見せた。自己記録をまだまだ伸ばせる感触も十分。2区最後の上りにも自信を持っているだけに、1時間05分台前半を目標にして組み立ててくるはず。

過去2回はライバルの駒大が数十秒前にいる状態での走り出しだったが、僅差の先頭争いで走り出したときの走りも見てみたい。

駒大3年の山川は、チーム事情で5区を担い区間4位。平地での走力が伸びているため、次回は2区を走って快走する可能性も 駒大3年の山川は、チーム事情で5区を担い区間4位。平地での走力が伸びているため、次回は2区を走って快走する可能性も

その黒田との激しい競り合いを期待したいのが、今回5区を区間4位で走った駒大の山川拓馬(3年)だ。昨年11月の全日本大学駅伝では、19.7㎞の最終8区を快走。スタート時には2分33秒差だった國學院大を猛追し、28秒差まで詰める走りを見せた。

駒大の藤田敦史監督は、今回も「2区で使いたい」と話していたが、ほかの選手のめどが立たず5区に回った。

本人はレース後、平地の走力が上がってストライド(歩幅)が伸びたことで、走りのリズムが上り坂に合わなくなっていたことを自覚。「来年は2区にいきたい。黒田くんがいい走りをしているので、それに食らいつきたいし、これまでの3回は区間4位と6位なので、最後は1位を取りたい」と宣言している。

今回、〝山の神〟になることを断念し、2区に回って日本人歴代最高記録を出した創価大の吉田と同様、黒田、山川共に上りに適性のある選手。〝戸塚の壁〟に挑める能力を持つふたりの対決は熾烈になるだろう。

ふたり以外では、今回の5区で区間3位だった城西大の斎藤将也(3年)も面白い。1年時から2年連続で2区を走り、2年時には区間8位で流れをつくった日本人エース。本人は今大会後に5区への再挑戦を口にしていたが、チーム内で5区候補が育てば、3回目となる2区挑戦の可能性もある。

留学生では、3区で区間2位だったスティーブン・ムチーニ(創価大2年)が、前回2区で区間5位という実績を持つ。また、今回2区に初挑戦して区間10位だった山梨学院大のジェームス・ムトゥク(3年)も、1万mで27分23秒09の自己記録を持つだけに、今回の経験を生かせば1時間5分台は狙えるはずだ。

日本人選手、留学生にかかわらず、次回の2区はより熾烈な戦いになるに違いない。