昨季、就任1年目でリーグ優勝に導いたソフトバンク・小久保監督(左)。就任4年目の今季、悲願のリーグ優勝&日本一を狙う日本ハム・新庄監督(右) 昨季、就任1年目でリーグ優勝に導いたソフトバンク・小久保監督(左)。就任4年目の今季、悲願のリーグ優勝&日本一を狙う日本ハム・新庄監督(右)
前回のセ・リーグに続き、今回はパ・リーグを展望! ソフトバンクと日本ハムの"因縁バトル"が今季も繰り広げられるのか? その2強を追い、Aクラスを争うのはどの球団なのか?

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■生え抜きが流出した昨季独走の鷹

春季キャンプ花盛りのプロ野球。昨季のパ・リーグはソフトバンクが独走優勝を飾ったが、今季はどうなるか?

「ソフトバンクと日本ハムという"因縁"の2球団が優勝を争い、オリックス、楽天、ロッテがどう絡むか。西武は巻き返しを図る年です」

こう語るのは本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。日本ハムからすればここ数年、主軸だった近藤健介のFA移籍から始まり、エースだった有原航平と上沢(うわさわ)直之がメジャー経由でソフトバンクに奪われており、ライバル意識が強まっている。

「ソフトバンクが今季も強いのは間違いないですが、育成出身ながら長年正捕手に君臨した甲斐(かい)拓也(巨人へFA移籍)が抜けた穴は大きい。この10年近く、チームの頭脳としての役割をほぼひとりで担ってきたわけですから」

昨季117試合に出場した甲斐に次ぎ、51試合でマスクをかぶった海野(うみの)隆司が正捕手候補だ。盗塁阻止率など甲斐を上回る数値も残したが、打率.173と課題もある。

「海野はシーズンを通して守ることで守備の負担による疲労がたまり、パフォーマンスを落とす可能性も。ベテランの嶺井博希(みねい・ひろき)との併用、バッティングを期待するなら谷川原健太か渡邉陸を起用する手もあります」

昨季、三塁手でゴールデン・グラブ賞を受賞した栗原陵矢も捕手出身。「捕手でゴールデン・グラブ賞を取りたい気持ちはまだある」と未練を語るだけに、捕手起用はないのか?

「アキレス腱(けん)断裂の経験がある上に、三塁守備も抜群にうまくなっており、常時捕手というのは現実的ではないものの、第3捕手としての起用ならアリ。

個人的には、相手の戦力をそいだ上での補強という意味でも、日本ハムのアリエル・マルティネスを獲得すればよかったと思います」

一方、投手陣では和田毅が引退し、石川柊太(しゅうた)がロッテにFA移籍となったが、アメリカ帰りの上沢のほか、DeNAから現役ドラフトで上茶谷大河(かみちゃたに・たいが)、三森大貴(みもり・まさき)とのトレードで濵口遥大(はるひろ)を獲得した。

「上沢は肘の故障明けなのが気になります。ただ、しっかり投げられれば、あとは前田純、松本晴(はる)、前田悠伍の若手左腕トリオから誰か伸びてくれば石川の穴は埋まるはず。

上茶谷と濵口はドラフト1位の経歴どおり、才能はある投手。新チームでハマれば戦力になる可能性はあります」

ただ、昨季の先発3本柱には不安要素があるという。

「昨季最多勝の有原は好不調を繰り返す"隔年傾向"がややあり、最優秀防御率のリバン・モイネロはシーズンオフもキューバ代表の活動でほぼ休んでいないのが気がかり。

9勝&規定未到達ながら防御率1点台と安定感を見せたカーター・スチュワート・ジュニアも1年を通して活躍したことがないので未知数です」

また、猛打を振るった野手陣にも気がかりな点はある。

「柳田悠岐は37歳、今宮健太は34歳になるシーズン。内外野でもう一枚、レギュラーを狙える若手が出てきてほしい。昨季は投打共にうまくやりくりしていましたが、今季もうまくいくのか。いずれにせよ、昨季ほど絶対的な強さではない印象です」

■3年間で花開いた若きハム戦士

一方、昨季2位の日本ハムは、オフに福谷浩司(ふくたに・こうじ/中日からFA移籍)と昨季、台湾プロ野球MVP右腕の古林睿煬(グーリン・ルエヤン)を獲得。ただ、その新戦力も持て余しそうなほど、新庄剛志監督体制3年間で育て上げた選手層は分厚い。

「最多勝を獲得した昨季以上の投球をしそうな伊藤大海也(さちや)は先発ローテ確定。

そして、ドリュー・バーヘイゲンも控えており、細野晴希や達孝太らドラ1勢もそろそろ台頭してくるでしょう。さらに、根本悠楓(はるか)、上原健太、柳川大晟(たいせい)らもいい。上沢を無理に獲りにいかなかったのも納得の陣容です」

加えて、救援陣も層が厚い。

「昨季終盤にスラットを覚えた田中正義、160キロを出した齋藤友貴哉、ケガをしなければ期待できる杉浦稔大(としひろ)のほか、池田隆英、河野竜生(かわの・りゅうせい)、山本拓実もいます。

ベテランの宮西尚生(なおき)もチェンジアップを覚えて復活しましたし、さらに外国人のアニュラス・ザバラもいい。先発陣も救援陣も本当にレベルが上がっています」

そんな投手陣をまとめる捕手の陣容も12球団随一だ。

「打撃好調で昨季台頭した田宮裕涼(ゆあ)はその経験を生かし、課題だったキャッチングや配球面でも成長が期待されます。

そこに、ベテランらしい配球を駆使する伏見寅威(とらい)がいて、普段は一塁を守るマルティネスと三塁を守る郡司裕也がいざというときの第3捕手として控えています」

内野も層が厚い。

「昨季終盤に打ちまくった清宮幸太郎とフランミル・レイエスが仮にシーズンを通して活躍できれば、共に3割30本を期待できる。ショートには勝負強い打撃が魅力の水野達稀がいて、開幕4番に指名された野村佑希が期待に応えれば完璧です」

外野はセンター松本剛(ごう)、ライト万波中正(まんなみ。ちゅうせい)が不動で、レフトだけが空いている状況だ。

「昨季ブレイクした水谷瞬が今年も打てるのか。場合によっては清宮や野村が守ることも考えられます。

新庄監督が3年間であらゆるポジション、打順を経験させたことで、軸は固めつつも対戦相手や調子によって選手を使い分けることができる、高度で柔軟なチームになりました」

■小久保vs新庄。両監督の野球観

共に充実の選手層を誇り、お股ニキ氏も「今季のプロ野球で注目の2球団」と語るソフトバンクと日本ハム。昨季もレギュラーシーズンは12勝12敗1分けとまったくの互角だっただけに、今季はどんな戦いが繰り広げられるのか?

「昨季はシーズン中盤から日本ハムがカード7連勝。しかも、敵地で圧倒した時期もありました。とはいえ、山川穂高が『近藤と柳田さんがいないから』と語っていたように、ふたりが復活したCSではソフトバンクが危なげなく勝利しました。ただ、ソフトバンクが"完全体"だとしても、13.5ゲーム差をつけた昨季ほどは突き放せないでしょう」

戦力差が縮まってきたからこそ、気になるのは両監督の采配面だ。実はすでに、対ソフトバンクに向けた新庄采配が始まっているという。

「開幕投手に金村を指名したことで、次の火曜から始まるソフトバンク戦のカード頭に伊藤をぶつけられる。実は前半戦だけで火曜始まりのソフトバンク戦が5カードもあり、そのすべての初戦に鷹キラー(昨季4勝)の伊藤を起用できる算段です」

「新庄野球」のチームへの浸透度は、伊藤の普段の姿勢からもわかるという。

「新庄監督がよく使う『野球をたのしめ』という言葉は、部活のようにワイワイとやる『楽しむ』ではなく、野球に真剣に取り組み、苦しみも味わいながら勝利や好プレーを目指すことで心の底から『愉(たの)しむ』という意図がある。

伊藤自身がSNSでこだわりを持って『愉』の字を使っているように、野球を本当に愉しめるようになった日本ハムの選手たちがどんなプレーを見せるのか。純粋に楽しみです」

一方の「小久保野球」の特徴は?

「サッカーの英プレミアリーグで前人未到の4連覇を果たしたマンチェスター・シティの名将、"ペップ"ことジョゼップ・グアルディオラ監督の本を愛読しているそうです。

小久保裕紀監督はバルセロナ監督時代のペップを参考にしているようですが、ペップが現在率いているシティといえば、レギュラーシーズンは強いのに、カップ戦ではあまり勝てない。

同様に小久保監督も長期的に見れば結果を出すものの、プレミア12や日本シリーズで敗れたように、短期決戦やここ一番の戦いで柔軟性をやや欠く印象がある。短期決戦に強かった工藤公康元監督とは対照的です」

確かにソフトバンクは昨季、夏場まで独走しながら終盤にもたついた。

「10ゲーム以上も離しているのに、余裕を持った戦いができなかったから、中継ぎ陣が疲弊して日本シリーズまで持ちませんでした。近藤のケガも無理に走らなくていい場面で盗塁させたのが原因ですし、もっと余裕があれば防げたかもしれない。

野手の能力の底上げや意識づけ、起用法は優れているので、あとは柔軟性と余裕だけ。カップ戦に強いレアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督の著作を読んでみてほしいですね」

■Aクラスを目指す4球団の力関係

ほかの4球団の展望も見ていこう。3連覇から一転、昨季5位に沈んだオリックスはどうか?

「九里亜蓮(くり・あれん/広島からFA移籍)が加わり、宮城大弥(ひろや)、山下舜平大(しゅんぺいた)、曽谷龍平、東(あずま)晃平、田嶋大樹と並ぶ先発陣の顔ぶれは充実しており、さらに椋木(むくのき)蓮も控えています。ただ、山下が復活できるか。救援陣も昨季悪すぎた宇田川優希、山﨑颯一郎、阿部翔太ら中継ぎ陣がどれだけ復調できるか」

広島からオリックスへFA移籍した九里。球界屈指のイニングイーターとして新天地でもタフに投げ抜けるか 広島からオリックスへFA移籍した九里。球界屈指のイニングイーターとして新天地でもタフに投げ抜けるか
投手陣が万全だったとしても、昨季のチーム打率、本塁打数が共にリーグ5位だった野手陣は立て直せるのか?

「一昨年の首位打者、頓宮(とんぐう)裕真が昨季は打率1割台と不調でした。ほかの打者も含め、打たないことには勝てません。岸田護新監督がどのような打線を組むのか。競争を促してチーム全体で緊張感を持って臨んでほしいです」

同様に、三木肇新監督の下で戦う楽天はどうか?

「問題は昨季のチーム防御率が12球団最下位だった投手陣。特に先発が弱い。MLB経験のある158キロ右腕のスペンサー・ハワード、昨季ヤクルトでプレーしたミゲル・ヤフーレに期待がかかります」

楽天の注目は、ドラフトで5球団が競合した宗山塁だ。

「宗山の加入で内野守備がカチッとハマるかどうか。三木新監督は地味ですが戦術的にはしっかりしており、今季もリーグ全体で打低傾向が続くならば、Aクラスを狙えます」

5球団競合の末、楽天入りした宗山。鳥谷敬や坂本勇人のような遊撃手を目指す 5球団競合の末、楽天入りした宗山。鳥谷敬や坂本勇人のような遊撃手を目指す
昨季3位のロッテはドジャース移籍の佐々木朗希が抜け、代わりに石川柊が加わった。

「石川柊は通算7勝1敗とZOZOマリンを得意にしているので、その相性の良さで成績を上積みできるかどうか」

野手の大型補強はなかっただけに、大学日本代表で4番も務めたドラ1の西川史礁(みしょう)に期待がかかる。

「ロッテは球場の風の問題なのか、野手が育ちにくいですが、その環境でどこまで大成するか。得失点ではマイナスながら上位につける球団だけに、今季も吉井理人監督がやりくりしてAクラス入りするのが目標でしょう」

ロッテのドラフト1位ルーキーの西川。長打力を武器に東京六大学でMVPを2度受賞した実力者だ ロッテのドラフト1位ルーキーの西川。長打力を武器に東京六大学でMVPを2度受賞した実力者だ
最後は昨季、最下位に沈んだ西武。西口文也新監督の采配も気になるが、キャンプ直前に昨季新人王の武内夏暉が左肘靱帯(じんたい)を損傷するなど、暗雲が垂れ込めている。

「髙橋光成(こうな)は昨季が悪すぎたので揺り戻しはあるでしょうが、武内が万全でなければ台所事情は厳しくなる。西口新監督の指導力、運用力も未知数で不安材料は多いです」

ドラフト1位で西武に入団した高卒ルーキーの齋藤。遊撃手として「源田2世」との呼び声も高い ドラフト1位で西武に入団した高卒ルーキーの齋藤。遊撃手として「源田2世」との呼び声も高い
また、昨季パ・リーグ歴代ワーストのチーム打率(.212)を記録した野手陣も再編は不可欠。ドラ1で高卒ルーキー齋藤大翔(ひろと)を獲得したが、源田壮亮(そうすけ)の後継者となるには時期尚早だ。

「外崎修汰(とのさき・しゅうた)のサード転向はわからなくもないですが、昨季終盤にサードでいい守備を見せ、4番としてまずまずの打撃を見せた佐藤龍世(りゅうせい)はどうするのか。

佐藤龍の外野手転向がハマっても今度はセカンドが穴になる。チームの穴をぐるぐる動かしているだけのようにも思えます。期待はルーキー渡部(わたなべ)聖弥がどれくらい打つか」

ここから各球団、開幕までにどんな仕上がりを見せるのか。シーズンを通して盛り上がるパ・リーグを期待したい。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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