バンタム級で最も注目度が高まっているWBC王者の中谷(左)。噂される井上尚弥(右)との対戦も現実味を帯びてきている
欧米では現在、「日本でボクシングブームが起きている」と思われている。競技人気だけを見れば〝黄金期〟と言えるのかは微妙だ。それでも、井上尚弥というスーパースターのほか、合計9人の世界王者がいる日本リングが、近年まれに見る活況を呈しているのは間違いない。
中でもバンタム級はWBC王者・中谷潤人、WBA王者・堤 聖也、IBF王者・西田凌佑、WBO王者・武居由樹と主要4団体のタイトルを日本勢が独占。さらに井上尚弥の弟・拓真、比嘉大吾、那須川天心といった実力者が豊富で、「黄金のバンタム」と呼ぶにふさわしい陣容になった。近い将来、日本人同士の統一戦、〝潰し合い〟が続々と行なわれても不思議ではなさそうだ。
2月24日は、日本バンタム級にとって大きな一日になるだろう。有明アリーナで開催される興行のメインイベントで登場する中谷は、WBC同級6位(以下、ランキングは2月12日時点)のダビド・クエジャル(メキシコ)を相手に3度目の防衛戦を行なう。
アンダーカードでも、堤が同級4位の比嘉の挑戦を受け、那須川は前WBO同級王者のジェイソン・モロニー(豪州)との「世界戦に向けたテストマッチ」に臨む。この大舞台を勝ち抜いた者たちが、さらなるスターダムに大きく近づくことになる。
同階級で最大の注目を集めるのは中谷だ。現在27歳のサウスポーは、すでにフライ級、スーパーフライ級、バンタム級の3階級を制覇。29戦全勝(22KO)という快進撃を継続している。
世界で最も権威あるボクシング専門誌とされる『リングマガジン』が選定したパウンド・フォー・パウンド(全階級で体重差のハンデがない場合、誰が最強であるかを指す称号)のランキングでも9位にランクインし、日本人ボクサーの中では井上に次ぐ存在と目されるようになった。
「中谷はすべてのことを上質にこなし、攻守の両面で規律を備えている。井上と対戦するという噂話は、世界中のファンを興奮させるようになった。(井上が戦う)スーパーバンタム級の体も問題なくつくれるだろう」
海外メディア『FightsATW.com』のエイブラハム・ゴンサレス記者はそう述べ、井上vs中谷の対戦を夢見ているようだった。実際にこの日本人対決が実現すれば、軽量級ながら世界的な注目を集める一戦になるだろう。挙行はおそらく2026年だが、中谷自身のこんな言葉からも〝モンスター〟への意識が伝わってくる。
「井上選手と互角以上に戦うためには、たくさんの引き出しを用意しておくことが必要。そのひとつひとつの精度を上げることが大事になると思っています」
井上とのスーパーファイトに向けて、中谷にとっては今後のすべての試合が〝勝負〟になる。実績だけではなく、人気でもまだ差があるだけに、激突までに少しでも知名度を上げられればベター。そのため、今回のクエジャル戦も内容が問われる。
ただ勝つだけではなく、他団体王者との統一戦が話題になるような、派手なKO劇でアピールしたいところだ。
昨年10月、井上拓真(左)を破ってWBA王座を獲得した堤(右)。タフに前に出続けるスタイルで頂点に立った
中谷に次ぐ階級ナンバー2の存在としては、昨年10月に悲願の世界王者となった堤を挙げる声が多い。井上拓真に挑戦した試合では、事前には「不利」と予想されながら、最後まで攻め抜くことで相手の技術を打ち破った。
12勝(8KO)無敗2分けという戦績の29歳は〝真っ向勝負〟が信条。常に完全燃焼のスタイルで、どれだけ勝ち続けられるかは未知数だが、比嘉との防衛戦も好ファイトになることは間違いない。
共に28歳の西田、武居は世界王者になった今でも、まだ伸びしろが感じられる。昨年5月、実戦経験豊富なエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に判定勝ちという殊勲の星を挙げ、世界王座を奪取したサウスポーの西田は〝今が旬〟と思わせる勢いがある。
昨年12月15日の初防衛戦もボディブローで鮮やかな7回KO勝ち。スピード、スキルがあり、10戦全勝(2KO)という戦績が示す以上にパンチも切れる。「統一戦を熱望する中谷の相手候補」との呼び声もあり、近いうちに話題の存在となるかもしれない。
共にキックボクシングの世界で王者となり、ボクシングに転向した那須川(左)と武居(右)の対戦を望む声も多い
元K-1王者で10戦10勝(8KO)の武居は、昨年5月、モロニーに競り勝って世界王座を手にした。K-1、ボクシングの両方で世界を制した史上初の日本人ボクサーになると、同9月には比嘉にダウンを奪われながらも際どい判定勝ちで初防衛を果たしている。
この2戦は共に苦戦だったことから評価の急上昇には至ってないものの、「心身のタフネスも一定以上のものがある」と証明した、という見方もできる。身体能力を生かした得意のトリッキーなパンチなど、独特の魅力がある王者だと言えよう。
元キックボクシングのスーパースターである那須川は、プロボクサーとしてはまだ5戦(全勝2KO)ながら国内の知名度では他の王者たちを上回っている。スキル、スピード、格闘センスは紛れもなく本物。
ボクシング転向後、最初の2戦は判定勝利でパンチ力が疑問視されたが、3、4戦目は連続KO勝ちと一定のパワーも証明し始めた。順調に伸びれば、極めてハイレベルのボクサーに成長する可能性を感じさせる。
「優れた才能を持ったサウスポーであり、今後もコンビネーションパンチャーとして成長していくだろう。26年くらいまでには世界レベルで戦う準備が整うのではないか」
『リングマガジン』のトム・グレイ記者がそう話したとおり、本格化は遠い話ではなさそう。26歳と年齢的にも伸び盛りの那須川にとって、井上、武居とも対戦経験があるモロニーとの一戦は世界戦線への試金石。印象的な形で前世界王者を下せばさらに評価は高まり、世界挑戦の時期が早まっても不思議はないだけに楽しみだ。