サッカー日本代表の背番号10、堂安 律(どうあん・りつ)がドイツで躍動している。在籍3年目を迎えたフライブルクで充実のシーズンを過ごす26歳のレフティが現在の心境を明かす。
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■今季前半戦のベストゴールはあのヘディング弾
――昨季に引き続き、欧州5大リーグに所属する日本人選手で公式戦最多スコアポイント(2月11日時点で6ゴール5アシスト)を記録していますが、今季前半戦の手応えはいかがですか?
堂安 キャリアで初めてスタートダッシュできたので手応えを感じています。シーズンが始まる前に初めて個人キャンプをやるなど、自分の課題に向き合いながらやれた半年でした。結果だけではなく、中身も充実していますね。
――あれだけ右サイドを上下動しながら数字をしっかりと残しているのはさすがです。
堂安 やっと自分のパフォーマンスに結果がついてきたシーズンですね。パフォーマンスは90分いいのに数字がついてこないシーズンはこれまでたくさんあったし、逆にパフォーマンスは良くないのに数字だけがついてきたシーズンもあったけど、今は両方充実しているから自分としては楽しいです。
――今季ここまで6ゴールを挙げていますが、特に印象深いものは?
堂安 (左サイドからのクロスに大外から抜け出して頭で合わせた)第8節ライプツィヒ戦のゴールですね。あの獲り方ができれば、2桁ゴールは毎年狙えるのかなと。明るい未来が見えた、自分の新しい武器になるゴールでした。
ライプツィヒ戦は90分を通して調子が良かったというのもあって、すごく思い出に残るゲームでしたね。(左サイドのクロスに合わせて体で押し込んだ)第1節シュツットガルト戦の今季初ゴールも好きですけど。
――「毎年2桁ゴールを決めるためには〝ごっつぁんゴール〟と言われるような、ワンタッチで決めるゴールを増やさないといけない」という話はPSV時代からしていましたよね。
堂安 映像を見返してもらったらわかるんですけど、シュツットガルト戦のゴールは(チームメイトのビンツェンツォ・グリフォが)左サイドを突破した瞬間、最初の2、3mで相手の左サイドバックよりも前に入れたのが大きかったです。
ボールが来ることを予測して、1歩、2歩、相手よりも先にスプリントを始めたからこそ生まれたゴールでした。単純に足の速さだけじゃなく、頭の回転の速さでベストなポジションを取れたという意味では、必然的なゴールだったと思います。
――第4節ハイデンハイム戦では、ペナルティエリア右角付近から左足を一閃して目の覚めるようなシュートをゴールネットに突き刺しました。
堂安 いわゆるゴラッソは久々でしたね。今季はあの位置で足を振れているし、シュートの感覚が昨季からめちゃくちゃいいんですよね。
一時期、シュートはスランプの時期があったんです。フライブルク1年目の後半戦から2年目の頭にかけてシュートの調子がめちゃくちゃ悪くて、打ち方を変えたり、トレーニングの仕方を変えたり、いろいろ試行錯誤しました。
最近はシュートの数こそほかの選手と比べて多くないけど、決定力は確実に上がっているというデータも出ていて。練習の成果が徐々に出始めて、今は自信がありますね。
■監督と話さないのは信頼関係の証し
――「毎年、シーズン前半戦は調子が上がらない」とも語っていましたが、今季は序盤からしっかりと結果を残しています。コンディションはずっと維持できていますか?
堂安 もちろんこの半年で浮き沈みはありましたけど、オフの個人キャンプから取り入れているトレーニングがやっと体にハマってきました。今季はチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグがないので、その分、トレーニングで追い込めています。それがパフォーマンス向上のひとつの要因かなと思いますね。
――フライブルクでは3季目になりましたが、これは自身最長の在籍期間ですよね?
堂安 そうですね。同じクラブに3シーズンもいたことがないので、今までそういう感覚を持ったことはなかったですけど、監督、コーチングスタッフ、チームメイトが自分を理解してくれていると、どれほどやりやすいかということを感じています。
だから、移籍してすぐに結果を出す選手の素晴らしさも感じますよ。(レアル・マドリード)移籍1年目であれだけ結果を出した(ジュード・)ベリンガムはやっぱりすごい。あの(キリアン・)エムバペでさえ移籍は難しいものなので。
――昨季終了後、フライブルク移籍の決め手にもなった名将クリスティアン・シュトライヒが退任しました。今季はユリアン・シュスター新体制ですが、監督との関係はいかがですか?
堂安 ユリアンとはまったくコミュニケーションを取っていないんですよね。特にオフィスに呼ばれるわけでもなく、戦術の話を特別多くするわけでもない。話すことといったら、家族のことや日本のこと、プライベートの話題が多いです。
去年、シュトライヒから言われてよく覚えている言葉があって。「リツ、おまえのことを考えるストレスを与えないでくれ。このチームでのおまえのクオリティを考えたら、最初にスタメンを決めるべき選手にならなくちゃいけない。コンディションが良くない今はおまえが出るか出ないか、どうやってアプローチしたらいいかを考えさせられるけど、いい選手は監督にそのストレスを与えない」と言われて、まさにそうやなと思ったんですよね。
監督になったことがないからわからないけど、どんな選手がいたら一番楽かって言われたら、「こいつは安定してパフォーマンスを発揮してくれるから間違いなくスタメンだ」という選手ですよね。これほど楽なことはないですよ。試合に出ない選手へのケアとか、監督ってほかに頭を使うことが本当に多いですから。
そういう意味では、ユリアンとコミュニケーションを多く取らずに今の信頼関係を築けているのは、自分の成長をすごく感じます。リスペクトもすごく感じさせてくれるし、監督の助けに少しでもなれたらなと協力的な気持ちにもなる。あまり話はしないけど、そう思わせてくれるので、すごくいい監督だと思います。
■点を獲り続けたから市場価値が上がった
――サッカー情報を掲載するドイツのウェブサイト『Transfermarkt』によれば、ブンデスリーガの右ウイングとして、市場価値ランキングではミカエル・オリーズ、レロイ・サネ(共にバイエルン・ミュンヘン)に次ぐ3位と評価を高めています。
堂安 全然その数字にとらわれることはないので、別に低くてもなんとも思わないんですけど、他人に評価されるアスリートとしてはうれしいですね。今はメンタルの状態もすごく充実しています。今年の夏に移籍をどうしていこうとか、そういうプレッシャーも全然なくて。自分に対して、本当の自信がやっとついてきたかなと思います。
今までは自信がないから、自分に言い聞かせたり、自分の中で勝手に未来の計画を立てたりして焦っていたけど、今はもう「自分は準備ができている」という圧倒的な自信に変わっているので。どしっと構えられている感じはあります。
――日本代表では10番を背負っていますが、3月20日のアジア最終予選バーレーン戦に勝てば来年6月開幕の北中米W杯出場が決まります。
堂安 カタールW杯で自分の夢が変わったんですよね。それまではずっとチャンピオンズリーグ優勝が夢だと言ってきましたけど、W杯で優勝することが自分の夢に変わりました。ふわっと思い描いていたものが現実的にプランできるようになってきましたね。
――W杯まで1年半を切りましたが、現在のモチベーションはいかがですか?
堂安 「それだけしかない」と焦りがあるわけでもないし、ただ、「いつでも行ける」というほど準備万全でもないので、ちょうどいい時間だと思います。あんまり腕を振り回して「行くで~」ってやるのもどうかと思うし。
「集中しろ!」と言われて集中できるものでもないし、「がんばれ!」って言われてがんばれるものでもないですから。リラックスして自然体でいます。
ブンデスリーガ開幕戦でボールを体ごと押し込み、今季初ゴールをマーク
アジア最終予選では右ウイングバックのレギュラーとして攻守に貢献
――ちなみに、2024年は日本代表とクラブの公式戦で14ゴール8アシストを記録しましたが、2025年はどんな一年にしたいですか?
堂安 昨季、シュトライヒの下で右ウイングバックをやりましたけど、後半戦から数字も残せるようになってきて、今季前半戦もキャリアで初めてスタートダッシュできました。あとは継続ですよね。
ソン・フンミン(トッテナム)は毎年2桁ゴールを平気で決めていますけど、そのすごさを感じます。2桁ゴールの次の年に4、5点なんてシーズンは彼にないわけじゃないですか。だから、2025年も継続して成績を残せなければ、そのへんの選手と同じかなというのはありますね。
――具体的な目標は?
堂安 やっぱりゴールを増やしたいですね。改めて、俺は数字を残してなんぼの選手なんだと気づかされました。
なんなら今、俺が求められていることって「点を獲ったらええやん」という評価になっちゃっていて。本当はそうじゃないし、点を獲らなくてもチームを助けている試合もあるとはいえ、自分が上に行くためには点を獲らないといけない。なぜ市場価値が上がったかといえば、結局、点を獲ったからですからね。
最後のファイナルサード(編集部注:ピッチを3分割したときに相手ゴールに最も近いエリア)のクオリティを上げていくことが自分の夢をつかむための一番の近道かなと思います。
「律しかアレ持ってへんよな」と言われるのがやっぱり左足のシュートだと思うし、「あいつは一発振らせたら」ってよく言ってもらうけど、それが俺の特徴ですから。その質は求めたいですね。