現地時間3月4日のオープン戦で3回を無失点と好投した佐々木。160キロ近い直球と魔球スプリットで打者を翻弄した 現地時間3月4日のオープン戦で3回を無失点と好投した佐々木。160キロ近い直球と魔球スプリットで打者を翻弄した

ロサンゼルス・ドジャースの一員となった佐々木朗希が、MLBでのキャリアを順調にスタートさせている。3月19日に東京ドームで開催される、シカゴ・カブスとの開幕第2戦での先発が実現すれば、開幕投手に内定している山本由伸、メジャー最大のスーパースターとなった大谷翔平と共に、日本での開幕シリーズで世界一軍団の〝看板〟を務めることになる。

「ロウキはまだ〝完成品〟に近づいてすらいない。それはむしろ、彼の豊かな将来性を物語っているのだと思う。すでに現時点でも、優秀なメジャーリーグの先発投手になるための最低限の能力があることは明らかだ」

ドジャースのデーブ・ロバーツ監督はそう語った。一方で、早い段階から開幕シリーズでの登板予定を明言しながらも、「それまでの調整次第だ」とも述べていた。

実はキャンプ開始後、ブルペンでの投球練習やライブBP(試合形式の練習)の際には不安論が聞こえてきていた。真っすぐの球速は95マイル(約152.9キロ)前後といまひとつで、「ちょっと迫力不足なのでは」という声が出ていたのも仕方ない。

ただ、そんな心配は現地時間の3月4日にひとまず解消された。オープン戦初登板となったシンシナティ・レッズとの対戦で先発した山本の後を受け、2番手として5回から登板。

走者を許しながらも3回を投げて2安打無失点、5奪三振。何よりも周囲を安心させたのは、直球の平均球速が98.0マイル(157.7キロ)、最速99.3マイル(159.8キロ)と、スピード、キレなど威力が戻ったことだった。

昨オフに大争奪戦が勃発するほどの〝人気商品〟になった佐々木だが、ロッテ時代の2023年シーズンの平均球速が159.1キロだったのに対し、翌シーズンは156.0キロに低下。その点が懸念材料とされていた。

昨年12月、メジャーの球団との交渉が始まった際には、佐々木側から各チームに対して「球速が落ちた原因、それを防ぐ計画」を分析するという〝宿題〟が与えられたほど。メジャー初の実戦でその答えを出した佐々木は、試合後に控えめながらも「スピードはいつもより良かった」と納得した様子で語った。

ロバーツ監督も「春の間、常に99マイルを投げているわけではないが、今日は多く投げていて空振りも多かった」と目を細めていたのが印象深い。

これだけ速球が走れば、変化球も生きてくる。この日、18球を投げたスプリット/フォークの最大落差は48インチ(121.9㎝)。奪った8つの空振りのうち7球をスプリットで奪い、「コントロールもフォークも良かった」と安堵の表情を見せた。

真っすぐの球速に注目が集まった一方で、今春最大の話題を呼んでいるのが、このスプリットのとてつもない威力である。独特の動きをする佐々木の決め球に、百戦錬磨のメジャーリーガーたちも驚嘆しているのだ。

メジャー11年目のベテラン捕手であるオースティン・バーンズは、ブルペンで初めて佐々木のスプリットを捕球した際、思わず「オーマイガッ!」と驚きの声を上げた。

バーンズは練習終了後、「ロウキのスプリットは(ほかの投手とは)違う。あんな球は見たことがない。山本由伸(のスプリット)とも違うね。さまざまな方向に動くから、捕球するのが難しいくらいの球だ」と、興奮を隠しきれない様子で語った。

また、ブルペンや初登板のオープン戦で捕手を務めた27歳のハンター・フェドゥシアも、独特の動きをする球に仰天していた。

「どの方向に落ちるかはまったくわからず、相手はかなり苦労していた。打者は100マイルの速球を狙うのか、それともスプリットを待つのか、予測しなければならなかった。彼が投げるようなスプリットは見たことがないよ」

回転数が少ないスプリットは、そのまま真っすぐ下に落ちるか、シュート回転して右打者の手元、左打者から見れば外側に流れていくのが通常。

ところが佐々木のそれは、どちらに動くか予測不能なのだという。「まるでナックルボールのようだ」ともいわれているが、空振りさせるだけでなく、ストライクゾーンにも投げ込める〝魔球〟は驚異だ。

少なくとも何度か見て慣れるまで、メジャーの強打者たちでもとらえるのは並大抵のことではないだろう。当面、ピンチの場面でスプリットを多投すれば大崩れは回避できるはず。その点で、今季の佐々木は一定の成功が予想できる、という見方もできる。

もっとも、どんなに素晴らしい投球をしたところで、選手層の厚いドジャースが23歳の佐々木を1年目からフル回転させることはないはずだ。1週間に1度の先発機会で、毎度の投球回数は5イニング程度が現実的なところか。そうなると勝ち星はなかなか伸びないはずで、新人王などのタイトル獲得は難しいかもしれない。

それでも平均100マイル近い速球を取り戻し、メジャーリーガーたちが目を丸くするような決め球を持つ〝令和の怪物〟の将来は楽しみだ。

体ができ、アメリカの生活に慣れ、速球&スプリットに続く〝第3の球種〟のスライダーに磨きをかけられれば......。数年後には、とてつもない投手になる才能があることをすでに証明している。

「彼はまだ若く、未成熟だが学び続けている。今後は、自信を持ってもらうことが大事。成功体験などを通じて、私たちが信頼していることを、彼に感じてもらわないといけない。それが私たちにとって必要なプロセスであり、引き受けていくつもりだ」

ロバーツ監督の言葉どおり、佐々木にとってのメジャー1年目は長いプロセスの始まりだ。大器の片鱗を見せつけ、2年連続で世界一を目指すドジャースに貢献できれば大きな財産になる。計り知れないポテンシャルを存分に感じさせるようなルーキーシーズンになるのか。その投球が今から楽しみだ。