お股ニキおまたにき
野球評論家、ピッチングデザイナー。さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を見る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してSNSで活動。その理論を取り入れる選手が急増し、オンラインサロンに40人以上のプロ選手が加入。プロ、アマ問わず、千賀滉大、藤浪晋太郎(共にメッツ)に次いでMLBや甲子園を目指す投手の個人指導を行なう。
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髙橋宏斗投手。昨季、つくり直したフォームで無双。各球種の握りや投球感覚を赤裸々告白!
WBC決勝で登板し、昨季のタイトルホルダーでもある髙橋宏斗(中日)を沖縄キャンプで直撃! "セ・リーグ最強右腕"の投球の極意をお股ニキ氏(野球評論家・ピッチングデザイナー)が深掘りする。
――初めまして。私は昔から髙橋投手のファンなので、お会いできるのを楽しみにしていました。
髙橋 ありがとうございます。
――まずは投球フォームのお話から伺いたいです。髙橋投手はここ数年、山本由伸投手(ドジャース)と合同自主トレを行なっていますよね。今年のオフも山本投手と一緒に過ごしていましたが、具体的にはどのような取り組みをしていたんですか?
髙橋 今年で3年目になるんですけど、やっていること自体の変化はなかったですね。1年間戦うための体をつくったり、シーズン中にできなかったことをできるようにしたり。可動域を広げるためにブリッジや逆立ちもしますが、これはケガの予防にもなります。
――やり投げのようなフォームで練習するイメージもありますが、特に意識していることはありますか?
髙橋 右手と左手の感覚は常に意識していますね。そこが合ってこないと球にもぶれが出てくるので。体全体の流動性をどうやってボールに伝えるか、ということを考えながらトレーニングしていました。
――ちなみに、昨季はキャンプの段階で山本投手に似た投球フォームを試しましたが、開幕後、以前の投げ方に近いフォームへ再調整しました。1軍に合流した5月以降は無双モードでしたが、フォームは「元に戻した」という感覚でしたか?
髙橋 元に戻す意識ではやりづらかったので、また新しい感覚でつくり直しましたね。明日には明日の感覚が出てくるので、常に新しい感覚を大事にしながら、毎日、新しいモノをつくり上げるというか。
――以前と比べ、左手をかなり高く上げるフォームになりましたが、これは落合英二さん(当時2軍投手兼育成コーチ、現2軍監督)からのアドバイスもあったと伺いました。
髙橋 テイクバックがすごく遅れる癖があって、状態が悪いときは体に腕が全然ついてこないので、なるべく体を軸足に乗せる時間を長くしたくて。左手を以前よりも上げることで、右手をつくる時間を長くできるようになりました。
――よりジャスティン・バーランダー(ジャイアンツ)に似てきているので、個人的にはものすごく好きな投げ方です(笑)。腕はかなり高い位置にある一方、足はそこまで上げませんが、どのような意識で投げているんですか?
髙橋 僕は背がけっこう高い分(186㎝)、その角度を生かしたいので、下半身はちゃんと前へ進むけど、腕は冷静に高い位置をキープする、ということを意識していますね。
――ちなみに、髙橋投手はストレートの回転数が2000~2100回転とそれほど多くないものの、球速は150キロ台後半を計測。スピードがあって回転数が少ないと弾丸のようにズドンと来るので、打者も想像以上に速く感じると思います。ご自身ではどのように感じていますか?
髙橋 1900回転のときもありますし、回転数は本当に少ないですね。平均から外れているということは長所でもありますし、持ち味だと思っています。球速の出るスピードボールが自分の一番の売りなので、そこはこだわってやっていますね。
――高卒1年目の頃には「打たれてもいいからストレートを投げる」ということをファームで徹底していましたよね。
髙橋 それを提案してくれたのは当時2軍監督だった仁村(徹)さんでした。やり始めたときは2回13安打7失点くらいした記憶がありますけど、真っすぐでどうやって抑えていくのか、ということを勉強させてもらいましたね。
――将来を見据えたいい取り組みでしたね。昨季は特にストレートの伸びがすごかったです。コースを狙うというよりも、やや真ん中気味にミットを構えてもらったそうですが、「少し甘くなってもいいから強いボールを投げられるようにしたい」という意図があったんですか?
髙橋 コースに構えるよりは真ん中にドシッと構えて、ミットだけ動かしてほしい、ということを加藤(匠馬)さんに伝えましたね。やっぱり球が弱いと打たれてしまうので、強い球でファウルを取るイメージです。
――ストライクゾーンめがけて強く投げ、その結果として高めや低めに散れば、という感じですね。
髙橋 はい。どんどんストライクゾーンの中で勝負していければいいかなと思います。
――髙橋投手といえば、球を操る感覚が繊細です。WBCでチームメイトになったダルビッシュ有投手(パドレス)に対して、「ただストレートを投げるだけじゃなくて、少しカット気味、少しシュート気味と投げ分ける練習をしている」という話をしたと報道で拝見しましたが、試合でも細かく投げ分けていますよね?
髙橋 やっていますね。ボールの中心をずらすイメージです。同じ真っすぐの握りなんですけど、1㎝くらい右にずらすとカット気味になるし、左にずらすとシュート気味になる。そういう微調整を試合中にも細かくやっています。
――今年はそのストレートと得意のスプリットのほかにも、"第3球種"を磨きたいそうですね。キャンプでカーブを見ましたが、かなりブレーキが利いていました。昨季までは130キロ以上出ていて、ナックルカーブ気味というか、ジャイロスライダー気味でしたが、今季は山本投手のビッグカーブのような感じですね。
髙橋 そうですね。理想はそういう縦の回転のカーブですけど、腕を強く振って真っすぐにより近い感覚で投げると、130キロ前後出るスライダーのような感じになりますね。
――ちなみに、昨季はカットボールも良かったですよね。ストレートの握りを少しずらしてカットボール気味にしているという話もありましたが、そこから指をもう1本分くらいずらすと、さらにキレのあるカットボールになると思います。
髙橋 ああ、なるほど。まだ投げてみたことはないですけど、試してみたいですね。
――カットボールは非常に奥が深い球種なので私は好きなんですけど、ひと口にカットボールと言っても、マリアノ・リベラのような横すべりして伸びるボールもあれば、縦に落ちるジャイロスライダーのようなボールもあります。昨季、髙橋投手が投げていたのは左バッターのインコースに浮き上がるボールでしたよね。
髙橋 そうですね。投げ分けまではできていなかったですけど、「こういうボールを投げたい」という理想を持って投げていました。
――カットボールの投げ分けはダルビッシュ投手も昔よくやっていましたが、できるようになると同じカットボールで何種類もの変化が生まれるので、投球の幅が広がります。
髙橋 いいですね。それくらい操ってみたいです。
――握りはカットボールでもいろいろ変えていますか?
髙橋 いや、カットボールはあまり自信がないので、そんなに多く試しても良くないかなと思って。1種類だけで感覚を変えながらやっています。
――ちなみに、カーブはどうやって握っていますか?
髙橋 ナックルカーブ気味に握っています。
――山本投手は確かナックルカーブの握りではなかったですよね。
髙橋 自分はちょっと感覚が出にくかったので、アレンジしながら投げています。カットボールはフォーシームの握りを少し斜めにして、中心をずらして真っすぐと同じように投げています。バックスピンをかけるイメージですね。
――スプリットの握りはいかがですか?
髙橋 けっこう浅めです。大きく落としたいときは弱いほうの指(人さし指)から抜くようなイメージで投げますね。
――左右対称でかなり狭いんですね。実はもう少し左右非対称にしてワンシームにすると、さらに落ち幅は大きくなるんです。理論上、速度は同じでも、もう10㎝以上落ちます。感覚的には投げにくくないと思いますが、いかがですか?
髙橋 感覚自体はいいですね。ちょっとやってみたいと思います。ありがとうございます。
――今季の抱負も聞かせてください。「自分が投げていない試合にも影響を与えたい」と語っていましたが、現在の心境はいかがですか?
髙橋 昨季まで3年連続最下位ですし、8月の中盤ぐらいから順位が決まった上で試合をすることが本当に多くて。それではやっぱり面白くないですし、ファンの人もそういう姿を見に来ているわけじゃないので。8月、9月、10月にしっかりと野球ができるようにしたいですね。
――日本ハム時代のダルビッシュ投手は圧巻のピッチングで抑えることによって、その後も相手打線を狂わせたり、勢いを止めたりしていました。そのようなイメージですか?
髙橋 まさにそうですね。
――WBCでは世界一に輝きましたが、中日でも優勝争いに絡んで頂点を目指したいと。
髙橋 そういう経験を中日でもできたら一番いいですし、いろんな人たちが苦労してきているので、いいものが見られればいいかなと思います。
――個人成績も伺いたいです。昨季は球団記録となるシーズン防御率1・38をマークしましたが、今季はどのような目標を立てていますか?
髙橋 勝ち星に関しては、これまであまり具体的な数字を考えたことはなかったです。もし達成したら、燃え尽きてしまうかもしれないという思いがあるので。やっぱり昨季初めて防御率のタイトルを獲れたので、そこはこだわってやりたいなと思っています。
――夏場までは0点台を維持していましたよね。
髙橋 特に記録を意識してはいなかったですけど、周りから言われることが多くて、自然と耳に入ってきていました。夏場からの調子の落ち具合も経験してわかったので、今季は克服したいですね。
――調子がいいとイニングも増えるから、どうしても疲れがたまってくるはず。力を抜いて投げたり、相手を少しいなしたりするようなボールがあるといいですよね。
髙橋 そうですね。ひたすら一生懸命投げるだけでは疲れてきてしまうので、遊び心を持ってやらないといけないなと思います。打たれていい場面、打たれてはいけない場面など、しっかりと状況判断しながらやっていきたいです。
――将来的にはMLB挑戦も視野に入ってくると思いますが、いかがですか?
髙橋 やっぱり夢は持っていますね。常に高いレベルで野球をやりたいと思っています。
――WBCを経験して意識は変わりましたか?
髙橋 WBCのときは「メジャーってなんだろう」という感覚でしたけど、メジャーリーガーを肌で体感した上で、ちょっとずつ自分の成績も良くなってきているので、徐々に意識するようにはなりました。ただ、まずはこのドラゴンズでしっかりと戦いたいです。
――最後に、マウンドの傾斜で悩む投手に向けて、アドバイスをいただけますか? 私はプロからアマチュアまで個人指導していますが、傾斜で悩む投手が非常に多いので、髙橋投手の感覚をお聞きしたいです。
髙橋 マウンドでうまくいかないのは傾斜負けしているから。傾斜に合わせて体は反っているのに腕がついてこないという状態になりがちで、そうなると球が吹けたり、引っかけたりするんです。僕も悪いときはそうなってしまいます。
――どう対処していますか?
髙橋 僕は遠投で確かめたり、マウンドを使って確認したりしています。投げてみないとわからないので。傾斜と平地を分けて考えてはいないけど、感覚のズレは絶対出てくるので、そこだけは間違えないようにしていますね。
●髙橋宏斗(たかはし・ひろと)
2002年8月9日生まれ、愛知県尾張旭市出身。2020年にドラフト1位で中日ドラゴンズへ入団。高卒2年目に1軍デビューすると才能の片鱗を見せつけ、翌年にはWBCの侍ジャパンメンバーに最年少で選出された。昨季は開幕に出遅れたものの、1軍合流後は無双し、球団記録となるシーズン防御率1.38をマークした
野球評論家、ピッチングデザイナー。さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を見る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してSNSで活動。その理論を取り入れる選手が急増し、オンラインサロンに40人以上のプロ選手が加入。プロ、アマ問わず、千賀滉大、藤浪晋太郎(共にメッツ)に次いでMLBや甲子園を目指す投手の個人指導を行なう。
公式X【@omatacom】