カタールW杯に続き、2大会連続で出場権を獲得した森保監督 カタールW杯に続き、2大会連続で出場権を獲得した森保監督

日本サッカー史上最速、そして全世界一番乗りで2026年北中米W杯出場を決めた森保ジャパン。アジア最終予選8試合で24得点2失点と圧倒的な力を見せつけて勝ち上がってきた。監督も選手も口をそろえて「W杯優勝」を公言する中、本大会までの1年3ヵ月でどのような準備&成長が必要なのか?

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■最速突破を決めたマネジメント

3試合を残してアジア最終予選突破を決め、世界最速で北中米W杯出場権を獲得した森保ジャパン。圧倒的な力で勝ち上がった最終予選の戦いぶりはどんなものだったのか?

「最終予選は勝つべくして勝った。内容的に悪い試合はあったし、戦術面だけでいえば、セットプレー以外で就任後の足し算、掛け算的要素はほぼありません。それでも、アジアでは群を抜く個の力をいかにロスなく発揮するかという点では、森保一監督らしい引き算、割り算のないサッカーができたと言えます」

こう語るのは、戦術分析官としてYouTubeで人気を博し、自身でもクラブチームの監督を務めるレオザフットボール(以下、レオザ)氏だ。

「以前の日本サッカーは、もっと調理法(戦術)で工夫しないと一流レストラン(強豪国)には勝てなかった。でも、一流レストランに近い素材が集まっているのが今の日本代表。戦術的アップデートより選手の質を高めていく森保監督のやり方もひとつの方法です」(レオザ氏)

今回の招集メンバーのうち、欧州5大リーグ所属は15人。選手層の厚さは間違いなく歴代最高だろう 今回の招集メンバーのうち、欧州5大リーグ所属は15人。選手層の厚さは間違いなく歴代最高だろう

一方、「今回の最終予選は、ケガ人以外ではメンバーをほぼ固定。過去のふたつの反省を踏まえたマネジメントでした」と語るのは、スポーツライターのミムラユウスケ氏だ。

「ひとつは昨年のアジア杯でのベスト8敗退。もうひとつは前回カタールW杯最終予選における序盤のつまずき。いずれも目の前の試合に勝つためだけでなく、将来的な日本サッカーの発展のため、積極的に若手を抜擢したことでリスクも負ってしまった。

その反省から、今回は目先の勝利を重視したことで〝世界最速突破〟という結果にはつなげました。ただ、将来的な伸びしろに関しては不安があります」(ミムラ氏)

コーチ陣にはこれまで以上に気を配っていた、と語るのはスポーツニッポンの垣内一之記者だ。

「惨敗したアジア杯では、コーチ陣がギクシャクしていました。そこからコーチ陣の顔ぶれも変わり、『監督のために』というベクトルで一致するようになった。そのように働きかけたのは森保監督自身です」(垣内氏)

昨年引退したばかりの長谷部 誠氏を最終予選からコーチに招聘したことも話題となった。

「森保監督が強く希望して実現した人事でした。選手と近い存在の長谷部コーチがチームに加わったことで、選手の不満や希望をうまく吸い上げられるようになりました」(垣内氏)

■攻撃だけじゃない堅守支えたキーマン

選手評価の点からも最終予選を振り返りたい。今やスタメン全員が海外組で構成され、〝歴代最強〟と称されるチームの中でキーマンは誰か?

8試合で24得点を奪った攻撃陣に話題が集まりがちだが、識者3人はここまでわずか2失点の守備陣に注目する。

ミムラ氏が選ぶキーマンは鈴木。「最終予選を通して、日本代表内での信頼度、そして自己肯定感が高まっていると感じます」 ミムラ氏が選ぶキーマンは鈴木。「最終予選を通して、日本代表内での信頼度、そして自己肯定感が高まっていると感じます」

「アウェーのバーレーン戦(第2戦)もインドネシア戦(第5戦)も、GK鈴木彩艶(パルマ)のビッグセーブがなかったらどうなっていたか。アジア杯で批判を集めながらも抜擢された経験、今季からイタリア・セリエAでレギュラーを務める経験が生きたのでしょう。

最終予選を通して、日本代表内での信頼度、そして自己肯定感が高まっていると感じます。それが最終予選の一番の収穫ではないでしょうか」(ミムラ氏)

レオザ氏が選ぶキーマンは遠藤。「グラウンド内の監督的立ち位置として、森保監督の信頼も大きいはずです」 レオザ氏が選ぶキーマンは遠藤。「グラウンド内の監督的立ち位置として、森保監督の信頼も大きいはずです」

レオザ氏はチームの顔でもあるキャプテン遠藤 航(リバプール)の名を挙げた。

「三笘 薫(ブライトン)や久保建英(レアル・ソシエダ)といった攻撃陣のタレントが素晴らしかったのは確か。彼らの存在は木にたとえると枝や花。見栄えの点では重要ですが、やはりチームの幹はセンターラインです。その意味で本来は遠藤と冨安健洋(アーセナル)がこのチームの幹にならなきゃいけない」(レオザ氏)

だが、冨安は膝の手術を受けたため長期離脱中。その分、遠藤の〝幹〟としての重要性がより高まったという。

「メンタル的にもポジション的にも、冨安不在を補ったのが遠藤です。彼ほどDFライン前の〝掃除〟をしっかりやり切り、DFライン自体にもカバーに行けて、チーム全体に対して戦う意思統一もできる選手は今の代表にはいません。グラウンド内の監督的立ち位置として、森保監督の信頼も大きいはずです」(レオザ氏)

垣内氏が選ぶキーマンは板倉。「アジア杯は調子もどん底でしたが、そこから持ち直しました」 垣内氏が選ぶキーマンは板倉。「アジア杯は調子もどん底でしたが、そこから持ち直しました」

冨安不在のDFラインを支えたのは板倉 滉(ボルシアMG)だ。

「ケガ人が続出したDFラインの中で、唯一、最終予選全試合に出場しているのが板倉です。フィールドプレーヤーで出場時間は最長。突破を決めたバーレーン戦も伊藤洋輝(バイエルン)が復帰したことで急造3バックでしたが、安定した守備を見せました。

アジア杯のときは調子もどん底でしたが、そこから持ち直し、所属チームでの評価も高いです」(垣内氏)

■足りないピースは? 底上げ期待の新戦力

ミムラ氏が指摘したように、ほぼ固定メンバーでここまでの最終予選を戦った日本代表。ただ、過去を振り返っても、予選からの上積みがなければ、W杯本大会では厳しい戦いが予想される。

「2006年ドイツW杯のジーコジャパンも、2014年ブラジルW杯のザックジャパンも、今回同様に〝世界最速突破〟でしたが、どちらも予選とコアメンバーを変えず、予選と同じコンセプトで本大会を迎えて惨敗を喫しました。

その反省を踏まえるならば、現有戦力がより成長するためにも、相手国のスカウティングの裏をかくためにも、本大会までに新戦力が台頭してきてほしいです」(ミムラ氏)

これには垣内氏も同意見だ。

「2010年南アフリカW杯の岡田ジャパンも、2018年ロシアW杯の西野ジャパンも、予選と本大会ではガラリとメンバーや戦術を変え、決勝トーナメント進出を果たしました。チームを大きく変える存在を抜擢するか、相当なレベルアップをしなければ、本大会では厳しい戦いを強いられるでしょう」(垣内氏)

そこで垣内氏がイチ押しする新戦力候補が佐野海舟(マインツ)だ。昨夏に鹿島アントラーズから海を渡った24歳の守備的MFは、ここまでブンデスリーガ全試合に先発出場し、リーグ2位の総走行距離を記録するなど日増しに評価を高めている。

「守備的MFは現在、遠藤と守田英正(スポルティング)のコンビがあうんの呼吸で安定していますが、それはアジアレベルでボールをしっかり保持できているから。

強豪国相手にボールを握れない場合、どうやっていい位置でボールを奪うのか。佐野が入れば高い位置でボールを奪うことができ、そこからのショートカウンターも効いてくる。森保監督も招集したい意向は強いようです」(垣内氏)

別の視点から佐野加入の利点を語るのはレオザ氏だ。

「今の代表の課題のひとつは、冨安不在時の穴埋めをどうするか。W杯本大会までに冨安が復帰できても、全試合出場は難しい可能性もあります。

伊藤が中央でも安定してプレーできるように成長してほしいですが、現実的な選択肢として持っておきたいのが遠藤のセンターバック起用。佐野が入ることで遠藤を1列後ろに置くことができます」(レオザ氏)

遠藤は今季、所属するリバプールでも試合終盤の大事な時間帯でセンターバックのポジションに就き、〝クローザー〟として試合を締める機会が増えている。

「本職じゃない、という意見もあるでしょうが、プレミア首位クラブで緊急時にセンターバックを任される信頼度からも、十分に検討の余地はあります」(レオザ氏)

冨安不在で課題となるのは、3バックと4バックの可変システムを目指す日本にとって、中央も右サイドもできる人材がいないこと。この点で識者の意見は一致する。

「菅原由勢(サウサンプトン)も毎熊晟矢(AZアルクマール)も攻撃的なサイドバックで、守備的なタイプの選手がいないのは泣きどころです」(ミムラ氏)

「守備だけでなく、自分でボールを運べてパスもできる冨安は後ろから攻撃のスイッチを入れられる存在として重要です。そこに誰が割って入れるか。

最終予選では橋岡大樹(ルートン・タウン)や関根大輝(スタッド・ランス)らも招集されていますが、予選突破を決めたバーレーン戦に出場した瀬古歩夢(グラスホッパー)が評価を高めた印象です」(垣内氏)

「左は伊藤でメドがついた。右にもいい選手は何人もいますし、私は関根がいいと思いますが、誰もが認めるレベルかというと、まだまだ物足りません」(レオザ氏)

さらに、新戦力が台頭してきてほしいポジションはワントップだ。レオザ氏が抜擢を期待するのは、サウサンプトンからトルコ1部のギョズテペにレンタル移籍中の松木玖生。Jリーグ時代は中盤で活躍していたが、現在、トルコではFWとして覚醒している。

「松木は今すぐ代表に呼んでいいレベル。体も強くなっていて、位置取りや瞬間的な判断も的確。大迫勇也(神戸)以降、絶対的FWが不在でしたが、ポスト大迫になれる期待感があります」(レオザ氏)

■1年3ヵ月をどう過ごすべきか?

北中米W杯は、アメリカ、カナダ、メキシコによる「初の3ヵ国共催」。出場国も従来の「32」から「48」に増えるため、これまでにない準備や対策が必要になりそうだ。

「メキシコでの試合になると高地対策も不可欠に。コンディションをどう高めていくかがW杯を戦い抜く上では極めて重要です」(垣内氏)

森保ジャパンは今年9月にアメリカ遠征を行ない、開催国のアメリカ、メキシコとの強化試合を計画している。

「出場国が増え、大会が長くなるのだから、これまで以上にベースキャンプ地選びに力を入れるべきだと思います。

最終的には12月の組み合わせ抽選後に決めるはずですが、森保監督やチームスタッフは9月の遠征後も現地に残ってキャンプ地選定に時間をかけたほうがいい。いい場所があれば手付金を払ってでも早く押さえるべきです」(ミムラ氏)

ミムラ氏がこう力説するのは、過去の失敗経験を踏まえてのことだ。

「ブラジルW杯はキャンプ地から試合会場まで遠い上に、キャンプ地は涼しく、試合会場は暑かったため、選手たちはコンディショニングに苦労しました。キャンプ地選びはそれほど重要で、このブラジル大会で優勝したドイツ代表は、試合会場近くに自前でキャンプ地をつくるほど準備万全で大会に望んでいました」(ミムラ氏)

その意味でこれまで以上に協会のサポートが重要になる。

「森保監督が現場レベルでできることには限りがあります。だからこそ、サッカー協会の宮本恒靖会長にはもっとリーダーシップを発揮してほしい。コーチ以外の事務方を含めたマンパワーは明らかに足りていません。

サッカーの質だけを上げればいいのではなく、組織としての総合力が問われるのがW杯。選手もチームもレベルアップしているのだから、協会も世界レベルになってほしいです」(垣内氏)

最後に、選手レベルでできる準備や対策も考えたい。メンバー固定化の懸念があるからこそ、主力組のさらなるレベルアップが求められる。

「リスクがあることは承知の上で、移籍できるなら上のクラブを目指すべきです。例えば久保がプレミアに移籍し、さらにフィジカルが強くなることで、周りの選手の選択肢やコンビネーションが増える可能性もあります。日本代表の活動期間は限られているからこそ、1+1を3にも4にもしていかないと」(垣内氏)

「板倉は持っている能力からすれば、まだまだできるはず。もっと上を目指してほしいですね」(ミムラ氏)

現実問題として、日本代表が北中米W杯で目指すべき目標は?

「グループステージでどこと当たるか、というガチャ的側面も大きいですが、最低でもトーナメント初戦で当たるチームまでは見据えて、グループステージの試合にどう臨むのか。優勝を掲げる心意気、熱量は大事なので、その奥にしっかりと冷静さを持っていてほしいです」(レオザ氏)

「相手を支配して勝つ、という希望がファンの間でも強いのはわかりますが、日本サッカーが本当に盛り上がるためにはサッカーファン以外の注目度も不可欠。そのためには、内容以上にとにかく結果。できればベスト4を期待しています」(ミムラ氏)

「リーグ戦やどのカテゴリーでも、初優勝は難しいもの。まずは、初のベスト8。それでも十分に盛り上がるはずです」(垣内氏)

〝歴代最強〟と呼ばれたジーコジャパン、ザックジャパンはいずれもW杯本大会で惨敗を喫した。森保ジャパンにはそのジンクスを覆(くつがえ)す最高の結果を期待したい。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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