オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
開幕から打撃好調のドジャース・大谷。「打者としては全盛期の中の全盛期」(お股ニキ氏)
3月に東京ドームで開催されたカブスvsドジャースの開幕戦を皮切りに今年もレギュラーシーズンが始まったMLB。世界最高峰の舞台でしのぎを削る日本人選手の実力&ポテンシャルを徹底分析する!
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今季、開幕時点でメジャー契約(40人枠)を結んだ日本人選手は13人。その中で実際に活躍できる選手は誰か? MLBに詳しい『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏に分析してもらおう。
まずは、「当たり前に好成績を残してくれそうな選手」を4人ピックアップ。いわば〝日本人四天王〟だが、その筆頭はもちろん大谷翔平(ドジャース)だ。開幕3戦で2本塁打と、いきなり打棒をフル回転させている。
「昨季序盤は打率を残せる打撃フォームでしたが、そこから一発狙いの型になって得点圏で打てないジレンマを経験しつつ、シーズン終盤は得点圏でも結果を出す総合型になり、『50-50』を達成。その最高の状態をキープしたまま、開幕を迎えた印象です」
ワールドシリーズで脱臼して左肩手術を受けたが、その影響も感じられないという。
「このままなら打率.320、50本塁打クラス。もはや投手が勝負を避けたいレベルで、必然的に四球での出塁も増えます。盗塁は多少減るものの、20盗塁は期待できる。打者としては全盛期の中の全盛期を迎えています」
一方、トミー・ジョン手術からの二刀流復活は、当初の予定よりも少し時間がかかりそうな印象だ。
「すでに2度のトミー・ジョン手術を経験し、もしまた痛めて3度目の手術となると、年齢的に投手復帰は厳しくなる。一方、チームとしても、〝投手・大谷〟がケガをしたり、リハビリが長引いたりすることによって、〝打者・大谷〟が欠場するほうが痛い。そのため、投手復帰計画は慎重にならざるをえないでしょう」
開幕戦で今季初勝利を挙げたドジャース・山本。「25試合登板、14勝は期待したい」(お股ニキ氏)
同じくドジャースの山本由伸は日本での開幕戦で幸先良く1勝をマーク。昨季はケガで途中離脱もした中で7勝2敗。今季期待する数字は?
「球の強度は素晴らしいものの、ストレートの質はずばぬけているわけではありません。そのため、ストレートを安易にゾーンへ投げ込めず、打者ごとに神経を使いながらスプリット主体の投球となっています。それでも投手史上最高契約を結んだ選手ですから、25試合登板、14勝前後は期待したいです」
まだ試合数は少ないものの、奪三振数はリーグトップを争う位置につけている。
「スプリットの空振り率が高いですが、シームを調整して落差が増したのだと思います。投球フォームや投球技術は素晴らしいものの、投球のうまさや組み立ての妙はあまり感じません。日本時代は実力がずばぬけていて、普通に投げていれば無双できたがゆえの弊害かもしれません。逆に言えば、まだまだ伸びしろがあります」
2年目も絶好調のカブス・今永。「今季も10勝、防御率3点台は最低ライン」(お股ニキ氏)
その山本と開幕戦で投げ合いを演じた今永昇太(カブス)は今季2度目の登板で7回1失点の好投を見せ、初勝利。昨季15勝3敗、防御率2.91の成績を残した左腕に2年目のジンクスは関係ないのか?
「球の質やフォームなどは昨季のいい状態のまま。以前の今永であれば、良かったシーズンの翌年は数字を落としたり、故障したりしがちでしたが、今は投げ方がいいので、その不安もありません。今がまさに全盛期。今季も10勝、防御率3点台を最低ラインに、そこからの上積みを期待できるレベルです」
むしろ今永の場合、「投球のうまさや組み立て」においては山本以上の資質がある。
「ストレートの質が良く、困ったらストレートをゾーンへ投げ込めるのが強み。今季はフォークやチェンジアップが対策されることを見越してスライダー系を増やしたり、低めに投げるそぶりを見せて高めへ投げたり、非常に巧みです」
開幕からDH固定のカブス・鈴木。「課題はメンタルが少し繊細すぎること」(お股ニキ氏)
もうひとり、鈴木誠也(カブス)への期待度も高い。
「開幕からDH固定は打者として期待されている証拠。打球速度では昨季、大谷とMLB一、二位を争った時期もあったほどです。昨季まで2年連続でクリアした打率.280、20本塁打を最低ラインに、さらなる高みを目指してほしい。課題はメンタルが少し繊細すぎること。もうワンランク上の選手を目指すならば、もっとずぶとくなってほしいです」
続いて、成長度合いやチーム事情など、さまざまな条件がそろえば結果を残せるかもしれない、とお股ニキ氏が挙げた8選手を見ていこう。
デビュー戦で両手が痙攣したオリオールズ・菅野。「もう少し絞ればキレが増すはず」(お股ニキ氏)
まずは期待度の高いMLB初挑戦組。35歳のオールドルーキー・菅野智之(オリオールズ)はデビュー戦で4回2失点、両手の痙攣による緊急降板という船出となったが、オープン戦では好投を続けた。
「もともとはスライダー投手でしたが、昨季磨いたフォークがMLBの強打者も圧倒する球種になっています。頭も良く、球種も豊富で、制球力も球の強度もあるので、十分通用するはず。
懸念点があるとすれば、昨季より若干太ったこと。もう少し絞ればキレが増すはず。また、日本であまり経験していない、中4、5日登板での疲労、球の強度低下をいかに克服できるか」
まだ本領発揮できていないドジャース・佐々木。「9割くらいの力で100マイルを連発できるようになりたい」(お股ニキ氏)
一方、23歳でのメジャーデビューとなったのは佐々木朗希(ドジャース)だ。
「メジャー初登板では初回に100マイル(約161キロ)を計測。あのストレートを連発できて、完全試合達成時のようなジャイロフォークが投げられればMLBでも魅力的な存在。ただ、現状はフォームが乱れていて、ストレートを引っかけてしまっています」
確かに、東京ドームでも2回以降は球速も落ちていた。
「9割くらいの力で100マイルを連発できるようになりたい。また、走者を出してからの盗塁阻止と球の質、強度、制球維持が課題です。今季は、〝粗削りなハイポテンシャルの若手〟として経験を積む一年になりそうです」
昨季1勝のメッツ・千賀。「ケガがなければローテはもちろん、エース格に十分なれます」(お股ニキ氏)
続いて、復活を期す実力者たち。1年目の12勝から一転、昨季はケガで1勝に終わった千賀滉大(メッツ)はどうか?
「球速があり、お化けフォークという決め球とメジャー屈指のハードカッターがあり、ジャイロスライダーやカーブ、スイーパーにスプリームとなんでも投げられる。ケガがなければローテはもちろん、エース格に十分なれます。
ただ、新しいフォームやトレーニングを試そうとして結果的に崩れることも。もう少し再現性を高めてほしいです」
昨季3勝7敗からの復活を目指すタイガース・前田。「調子がいいのは間違いない。MLBでもうひと花咲かせてほしい」(お股ニキ氏)
MLB10年目、今月37歳を迎える前田健太(タイガース)は昨季3勝7敗からの復活を目指す。
「今季はスイーパーを封印。もともと前田のスライダーはかなり曲がっていたのに、トレンドに影響されてもっと曲げようとしたことで肘の負担が増え、球も遅くなりました。でも、原点回帰した今季は一転、球速や球の強度がだいぶ復活しています」
実際、オープン戦ではリーグ8位の奪三振数を記録した。
「調子がいいのは間違いないですが、タイガースは100マイル超のボールを投げる若手の先発が充実しており、中継ぎやロングリリーフの役回りに。今季は2年契約の2年目。年齢的にも日本に復帰して200勝を目指すルートを視野に入れつつ、MLBでもうひと花咲かせてほしいです」
MLBトップレベルとまではいかないものの、チームの戦力として期待したいのは日本人屈指のふたりの左腕。今季、エンゼルスに移籍した菊池雄星はメジャー7年目で初の開幕投手を務めた。
「昨季途中から投手改造に定評のあるアストロズへ移籍し、配球や球種割合の調整などがうまくいきました。そのことをどこまで理解しているか。優等生すぎて型にハマった投球をしがちなので、もっと意外性が欲しいところです」
同様に、「意外性に欠ける」と指摘するのは2年目の松井裕樹(パドレス)だ。
「パドレスはリリーフが良く、勝ちパターンに加わるのはなかなか厳しいでしょう。まずは与えられた出番でいかに結果を残すか」
残念ながら、負傷者リスト入りして開幕を迎えたのは、MLB14年目のダルビッシュ有(パドレス)。右肘の炎症で復帰時期は未定だ。
「今季は最多勝に輝いた2020年頃のフォームで投げており、期待していたのですが......。さすがのダルビッシュも今年39歳、いよいよ年齢との闘いになってきたのか。それでも、昨季ポストシーズンで最もドジャースを追い込んだ投手です。ケガさえなければ球の強度も球速も、年齢からすると信じられないレベルにあります」
吉田正尚(レッドソックス)はオフに受けた右肩手術の影響で調整が遅れている。
「打撃技術は高いですが、守備と走塁に難があります。かといって、DH専任ほど打ててもいないので厳しい。トレード要員として何度も話題に上るものの、敏腕代理人のスコット・ボラス案件で年俸が高すぎるため、他球団もなかなか手が出せないようです。悩ましい状況にあるのは間違いありません」
最後に、開幕をマイナーで迎えた3選手を見ていこう。お股ニキ氏がアドバイスをした経験もある藤浪晋太郎はアメリカ挑戦3年目の今季、マリナーズ傘下3Aでのスタートとなった。
「相変わらずテイクバックが入りすぎるため、ボールの抜けと引っかけが多く、日替わりの投球に。その結果、制球が定まらず、被打率は1割台なのに防御率が5点台後半という異常な数字になる。球の強さ自体はMLBでも有数ですが、この再現性の低さではメジャー定着は難しくなってしまう」
キャンプではツーシームに手応え、という報道もあったが、実際はどうなのか?
「球の回転数が多いタイプではないからこそ、私もMLB挑戦時にツーシームを本人へ助言しましたし、ダルビッシュも同様のアドバイスをしていたようです。あとはもう死球を気にせず投げるしかない。自身の理想とする投球スタイルと現実の折り合いをつけ、自分を客観視する姿勢も必要です」
同じく阪神出身、今季からポスティングでアメリカへ渡った青柳晃洋も、フィリーズ傘下3Aでの開幕となった。
「ここ2年はNPBでも結果を残せず、よりレベルの高いMLBで苦労するのはわかっていたはず。得意なツーシームが機械にチェンジアップと判定されるなど、スピードもメジャー基準では速くなく、どの球種も向こうの打者からすると対応できてしまう曲がり幅。
落ち球を磨くなど、もうワンランク上がらないとMLB屈指のフィリーズ投手陣のハードルを越えてメジャー昇格するのは厳しい道のりです。数々の課題を乗り越えてここまで来たのですから頑張ってほしいです」
同じくポスティングで中日からナショナルズへ移籍した小笠原慎之介も、マイナーで開幕を迎えることに。そもそもマイナー契約だった青柳とは異なり、メジャー40人枠に登録されているが、前途は多難だ。
「今永の活躍を受け、『同じリーグの同じ左腕』というもくろみで獲得したのでしょうが、実際にはかなり違う。球速は140キロ台で絶対的な変化球もないので、案の定、オープン戦でも打ち込まれました」
過去、メジャー順応に苦労した左腕では、井川 慶(元ヤンキースほか)を思い出すが......。
「正直、井川よりも厳しい。井川は日本で最優秀防御率などのタイトルを獲得し、メジャーでも何試合か投げられるレベルでした。しかし、小笠原は投手有利なバンテリンドームがホームでも規定投球回に達した上での防御率2点台が1度だけ。メジャーで通用するかといえば難しいでしょう」
野茂英雄(元ドジャースほか)による孤軍奮闘のメジャー挑戦からちょうど30年の今年、ここまで増えた日本人選手たちの新たな躍動に注目したい。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。