
山本萩子やまもと・しゅうこ
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。
毎度おなじみヤクルトの話で恐縮ですが、先月から今月上旬まで高津臣吾監督が組んだ打順が個人的にとても気になったので、今回はそのことについてお話しさせてください。
その打順というのは、投手を8番に、武岡龍世選手を9番に入れるというものです。
DH制が導入されていないセ・リーグにおいて、9番はある意味で投手の"指定席"です。元巨人の桑田真澄さん、ヤクルトの石川雅規投手など、打撃が得意な投手はこれまでにもたくさんいましたが、打撃で負荷をかけず投球に集中してもらうために、9番に配置されてきたのでしょう。
ただ、投手が9番というのは、プロに限った話かもしれません。高校野球では「投手兼4番」というのがスター選手の代名詞です。レジェンドの王貞治さんや、松坂大輔さん、前田健太投手、大谷翔平選手などもその重責を担っていたことがあります。しかし近年では、投手の専門性の高まりにより、投球だけに集中させる監督さんが多いようですね。
では今季の高津監督のように、そこまで打撃に優位性がない投手を、8番に置く理由とは何なんでしょう。
歴史を紐解くと、巨人がV9を達成した黄金時代に川上監督が採用し、メジャーリーグでも採用された歴史もある「由緒ある作戦」だそうです。近年では、DeNAで監督を務めていたアレックス・ラミレスさんが採用していたことを覚えている方もいるのではないでしょうか。
当時、ラミレスさんがよく9番に起用していたのは、倉本寿彦選手でした。俊足巧打の倉本選手は1番・桑原将志選手へのつなぎ役として活躍し、チームのCS、日本シリーズ進出にも貢献しました。
ラミレス監督の「8番・投手」の起用法が脚光を浴びたおかげで、その後、採用するチームも増えましたね。8番に投手を入れるメリットのひとつは、9番で打線が切れてしまうことを避けることにあるのではないかと思います。
5月半ば、絶好の野球日和ですね。私も近々、球場に赴く予定がいくつか......。
以前は、1番といえば足が速く出塁率が高い選手で、2番がバントで送り、クリーンナップで還すという形が多かったですが、近年はより打撃力が高い選手を1番で起用する傾向が強くなっています。
そう考えると、9番打者も重要になってきます。9番が出塁して1番に回すことができたら、チャンスが大きく広がります。9番が投手だと、それが難しいかもしれません。
「8番・投手」を採用していた監督のなかには、MLBのジョー・マドン監督の名前もありあす。彼の持論は、打線とはいい打者から配置する、ということでした。1番が打線に火をつけるために、"着火剤"として9番に野手を置いたのでしょう。
ヤクルトは4月後半から5月1日まで8番・投手を採用していましたが、今では9番・投手に戻しました。最下位に沈むチームのカンフル剤として採用した作戦だったのかもしれませんが、あまり結果につながらず、元のオーダーに組み直しています。
打順は"生き物"です。打順を変える際は、もちろん緻密な計算に基づいて決定されるのでしょうが、チームを好転させるための思い切った策という側面もあるでしょう。
何がどう転ぶかわからないのが勝負の世界です。少しでも相手の嫌がることをするのが、勝利への執念なのだと思います。きっと、将棋のように緻密な戦略がそこにある。それがわかると野球はもっと楽しくなると思いました。
みなさまも、こんな小さな工夫(作戦)があったら、ぜひ教えてください。それではまた来週。
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。