好スタートを切ったオリックスの岸田監督。ファームでの投手コーチの経験も生かし、チームを牽引する 好スタートを切ったオリックスの岸田監督。ファームでの投手コーチの経験も生かし、チームを牽引する

今季のプロ野球で健闘しているのが、4人の新監督だ。現在(5月4日時点。以下同)、パ・リーグ首位のオリックスでは、岸田 護監督が見事な手綱さばきを見せている。リーグ3連覇が途絶えた昨季の終了後、中嶋 聡前監督が電撃退任したものの、「継承の準備はできていた」と球団関係者は語る。

「ファームから準備させてきましたからね。勉強熱心で、気心の知れた選手たちからうまく力を引き出しています」

現役時代に「マモさん」と慕われた右腕は、オリックス・バファローズ球団初の〝完全生え抜き〟監督として就任。オープン戦は昨季の課題だった打撃陣が振るわず最下位だったが、開幕後はリーグトップクラスの得点力を誇る。

3月の強化試合で日本代表に初選出された2018年ドラ1の太田 椋は、4月の月間安打39本で右打者の球団タイ記録を樹立。21年の本塁打王・杉本裕太郎、23年の首位打者・頓宮裕真、23年オフにFAで加入した西川龍馬も昨季の不調から脱却した。

投手陣はエース宮城大弥、FAで加入した九里亜蓮が防御率1点台。九里が4月18日の日本ハム戦に中5日で先発、2-1で完投勝利し連敗を止めると岸田監督は「バケモンやと思います」とたたえるなど、人心掌握術も優秀だ。

4月20日の日本ハム戦では、先発・宮城とのコンビに大卒4年目捕手の福永 奨を抜擢。「シーズン終盤に主力がケガになったとき、球を受けたことがなければもっと苦しいですから」と、先を見据えた手も打っている勝負師だ。

一方で、「会見が面白くなった」と評判なのが西武の西口文也監督だ。昨季、歴史的最下位に沈んだチームの指揮を請け負った西口監督は、ズバズバと本音を語る。

「源田(壮亮)が帰ってきてもショートを守れるかはわかりません」

右足痛で登録抹消された源田顔負けの〝たまらん〟好守で身長164㎝の滝澤夏央が穴を埋めると、西口監督はそう話した。今季はミスが多く、「ぬるい」と指摘された体質を変革中。

〝鬼軍曹〟鳥越裕介ヘッドコーチは全力疾走を怠る選手に即注意。理論派の仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチは、情熱と冷静さを使い分けて若手を伸ばしている。

レギュラー不在の外野は、バットコントロールに優れる西川愛也、牧 秀悟(DeNA)を引き合いに出される新人・渡部聖弥を1、3番に起用し、打線の形ができつつある。

カギは2番。西口監督は打率1割台の長谷川信哉を「これから頑張ってもらわないと」と起用し続けたが、5月5日のソフトバンク戦では滝澤を抜擢。適任者は見つかるのか。

投手陣はエース今井達也、3・4月の月間MVPを受賞した左腕・隅田知一郎が、共に4月は防御率0点台。待たれるのは4月29日、前年からの連敗を13で止めて597日ぶりの白星を手にした髙橋光成の完全復活だ。その試合後、西口監督はこう声をかけた。

「背番号13なんで、連敗もやっぱり13で止まったな」

和歌山県出身で笑いのタネを絶妙にまく指揮官が、西武の浮沈を左右しそうだ。

「2軍監督の経験がありますから、落ち着いて采配していると感じます」

中日の井上一樹監督を、元広島の捕手で解説者の西山秀二氏はそう評した。現役時代は中日ひと筋で20年。2軍監督を通算2年間務めた後に「師匠」と慕う立浪和義前監督からチームを受け継いだ。

過去3年連続最下位の中日は〝過渡期〟。西山氏も今季の戦いぶりをこう評す。

「打線が弱すぎる。得点圏にランナーは進めるのですが、そこから一本が出ない」

66得点はリーグ最少。得点力不足は積年の課題だ。19年ドラ1の石川昂弥を開幕から13試合4番に抜擢するも、打率.160で4月12日に登録抹消。ただ、西山氏は「今の中日に絶対的な実力の打者はいない。あの戦力でよく戦っている」とも評価する。

上林誠知、山本泰寛、板山祐太郎ら立浪前監督が獲得した他チーム出身者たちをやりくりし、なんとか得点を奪おうという戦いは徐々に実を結んできている。

4月30日の阪神戦では、同点の9回裏2死満塁で山本が投手前へのセーフティバント失敗で好機を潰すも、井上監督は「びっくりした」としながら「責めるつもりはない」とかばった。自ら考案したスローガン「どらポジ」のとおり、ミスをしても前を向く。

5月2日、チームとして1年ぶり、井上監督は初の貯金1を手にすると、「〝納豆野球〟ができるようになってきた」と笑顔。粘り強い戦いを続けていけば、20年以来のAクラスも見えてくるかもしれない。

もうひとり、阪神の藤川球児監督を、西山氏は「投手を中心に、守りの野球を目指しているように思う」と評した。好調の村上頌樹を軸に、高卒3年目の門別啓人やドラ1・伊原陵人、左腕の富田 蓮が台頭。中継ぎの石井大智が4月末に体調不良で登録抹消されたが、桐敷拓馬、及川雅貴、漆原大晟が好投している。

藤川監督は「岡田イズムを継承する」と話していたが、独自カラーを打ち出そうという姿勢が目立つ。大きな変化のひとつは盗塁だ。昨季はリーグ5位の41個だったが、今季はすでに26個をマーク。西山氏は「投手目線から、自分がされて嫌だったことをやっている印象」と話した。

打線は1月から「4番は森下翔太」と明言していたが、4月中旬に3番・佐藤輝明と入れ替えると、これがハマった。森下は打率3割台に復調してリーグ首位打者、佐藤輝も10本塁打と、力を引き出している。

選手起用で見せるのは勝負への厳しさだ。4月19日の広島戦で3失策したショート木浪聖也はレギュラーを剥奪。また、4月30日の中日戦、6回2死一、二塁で登板し、四球を与えた岡留英貴は即交代で翌日に2軍に落とした。

阪神は球団創設90周年。リーグ王者奪還は至上命令だ。現役時代に守護神として数々の修羅場をくぐり抜けてきた指揮官は阪神を歓喜に導けるのか。その手腕に注目だ。

中島大輔

中島大輔なかじま・だいすけ

2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。

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