中国のネット民たちの間では、こんなジョークがあるという。
「釣魚島(尖閣諸島)の帰属を判別する方法は簡単だ。島にPCを持っていってネットに接続し、ツイッターにつながらなければ中国領、つながれば日本領さ!」
中国当局は国内に6億人とされるネット民への情報統制に躍起だ。すべてが党の管理下にある公的メディアと違い、ネットは個人が自由に意見を書ける。そのため、当局に都合の悪い世論が拡散しかねないからだ。
中国の言論統制の代表的な存在が「GFW(グレート・ファイヤーウォール=紅い万里の長城)」と称される通信遮断機能だろう。これは政治的にヤバい単語の検索を不可能にし、反体制情報に接触し得る国外サイトへの接続を制限する国家規模のシステム。中国公安部の管轄下だ。
“ヤバい単語”の中でも、1989年6月4日に起きた「六四天安門事件」は、中国最大のタブー。毎年、この時期はネット規制が強化され「六四」や「天安門」どころか、「65-1」「63+1」という数式までNG化される。ちなみに昨年は、天安門事件から24年目なので「24年」もダメ。「今日」「昨日」「明日」「あの日」「あの年」なども、この年月日を指す場合は全部ダメ。もはや何も検索できない。
ところで日本のネット上には、自民党の麻生太郎氏を「ローゼン閣下」と置き換えるような類(たぐ)いの隠語が多い。中国でも同じ手を使えば、検閲をごまかせるのではと思うかもしれなが、現実は甘くない。
たとえば、「方便面(即席ラーメン)+下台(クビ)」。現在、失脚がささやかれている胡錦濤(こきんとう)政権時代の最高幹部・周永康(しゅうえいこう)の名前は検索することができない。そこでネット民は、彼の名前の一字が入った「康師博(こうしふ)」(即席ラーメンのブランド名)と呼び始めたら、それも規制対象に。ついには「方便面」と即席ラーメンそのもので言い換えるも、これまたNGワードになってしまった。
ビッグマックがNGワードになった驚きの理由
また、「巨無覇」(ビックマック)。これは、2012年3月に失脚した党高官・薄熙来を指すNGワードだった。その理由は、彼が女優チャン・ツィイーを愛人に囲った疑惑(後にデマと判明)のニュースを報じた台湾の新聞の見出し真上に「ビッグマックが大安売り」という緊張感ゼロの広告が出ていたこと。この画像が中国のネット上で流通し、「ビッグマック」が同事件を指す隠語になったのだ。やがてNGワード化したが、規制する側もあまりにアホらしいと考えたのか、間もなく解除されている。
中国のネット上で政治を語るのは本当に大変なのである。だが、中国人には事態を深刻に感じない人も多いという。著書に『中国のヤバい正体』がある中国人マンガ家・孫向文氏が解説する。
「日本のネット民にも『まとめサイト』しか見ないような人が多くいますが、中国はその傾向が一層強い。友人とのチャットや娯楽ニュースを楽しめればOKな人が大半なのです。彼らは言論統制をまったく問題視していません。中国のネット空間でも、ヒマつぶしだけなら十分できますからね」
体制は違っても、そこで生きている若者たちはどの国でも一緒なのだ。
(取材/安田峰俊)
■週刊プレイボーイ11号「中国政府指定『検索NGワード』を大公開!!」より