日米の巨大IT企業によるスマホ用対話アプリの買収が相次いでいる。
2月14日、楽天がキプロス発のバイバーを9億ドル(約910億円)で買収すると発表。その5日後には米フェイスブック(FB)も、米ワッツアップ買収を発表したのだ。その買収額は、なんと190億ドル(約1兆9200億円)!
バイバーは2010年、無料インターネット通話アプリとして誕生した。音声品質が高く、利用者同士だけでなく固定電話にも格安の値段でかけられるのが特徴だが、テキストメッセージ機能も用意されている。現在の利用者は約3億人。ヨーロッパを中心に中東、アジア、中南米に広まっている。
そして、ワッツアップは09年、スタンプ機能などを持たないシンプルなメッセージングアプリとしてスタート。全世界で約4億5000万人の利用者を抱え、アメリカではFBのメッセンジャーに次ぐ第2位、ヨーロッパや南米、オセアニアの国の多くではトップシェアを誇る。今年の春以降には、無料音声通話サービスも追加される予定だ。
楽天やFBによるこうした対話アプリの巨額買収には、どのような意図があるのだろうか。
携帯電話ライターの佐野正弘氏が語る。
「楽天の場合、まずはバイバーを無料音声通話ツールとして普及させた上で、そのプラットフォームを使ってゲームを販売したり、楽天モールへの導線にするつもりでしょう」
そして、本格的な海外進出をにらむ楽天にとっては、バイバーの抱えるユーザー情報も魅力だ。
ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が語る。
「すでに各国で多くのユーザーを抱えているサービスを買収すれば、海外での新規顧客の開拓を効率的に行なえますからね」
一方、FBの思惑は?
「欧米ではFBが普及しすぎたため、それに縛られる人間関係から逃れたいと考える人が増えてきているんです。例えば、親子でFBをやっていると、子供の行動がすべて親に筒抜けになっている(笑)。だから、若い人を中心に、このところFB離れが起こっています。そこでFBとしては、完全な別ブランドとしてワッツアップを抱えることで、そうした層の受け皿をつくり、会社全体としてのユーザーを一気に増やそうと考えたのでしょう」(前出・佐野氏)
LINEのひとり勝ちは、まだ続く?
さらにはFBのアキレス腱といわれる、モバイルデバイスへの対応という側面もあるようだ。
「楽天同様、FBもパソコン発祥のサービスです。しかし、今や市場やユーザーはスマホやタブレットを中心に動いていて、パソコン的な発想のソフトはモバイル機上で何かと使い勝手が悪い。そのハンデを埋めるためにワッツアップを買い、モバイルデバイスに親和性の高い部門もつくろうとしたのでしょう」(前出・石川氏)
両社それぞれの目論見(もくろみ)を持っての買収だったというわけだ。
となると、気になるのは対話アプリとして日本で圧倒的なシェアを持つLINEの牙城を、バイバーやワッツアップが崩せるのかということ。何しろ楽天、FBという巨大企業がバックについているのだ。彼らの力をもってすれば、ひょっとして現在の勢力図を一変させられるのでは……。
「いや、そう簡単ではありません。コミュニケーションツールというのは、『皆が使っているもの』が絶対的に強い。そうでなければ、多くの人とつながれませんからね。すでに日本で寡占状態にあるLINEを切り崩すのは相当に困難です。しかも、バイバー、ワッツアップとも、提供するサービスはLINEとさして変わりがないわけですから、魅力が薄い。
もっとも、バイバーに関しては、固定電話と格安に通話するためのアプリとして、限定的に使われることはあるかもしれません。ですが、それでも、LINEに取って代わることはまず無理でしょう。ワッツアップに至っては、そもそも日本での基盤がないに等しいので、勝負になりません」(前出・佐野氏)
さらに、どうにかLINEに食らいつけそうなバイバーにしても、こんな懸念がある。
「楽天って、買収した海外企業を活用できたためしがないんです。バイバーを入り口にして、楽天本体に収益をもたらすような具体的ビジネスプランを、本当に持っているのかどうか……」(前出・石川氏)
LINEのひとり勝ちは、まだまだ続くってことのようだ。