まさかの肩透かし?
ゴールデンウイーク明けにも発表されるのではと噂されていたKDDI(au)の音声通話定額制導入が、見送りとなった。
携帯キャリア最大手のNTTドコモは、6月から音声通話完全定額制プラン「カケホーダイ」のサービスを開始。また、ソフトバンクモバイル(SBM)はそれを受け、ドコモに先駆けて定額制をうたいながら、1回当たりの通話時間制限が設けられていることが大不評を買っていた「スマ放題」をいったん引っ込め、プラン内容の再検討に入っている真っ最中。
こうしたなか、先行する2社を追って、auも音声通話定額制を夏前に打ち出すことが確実視されていた。しかし、5月8日のauの夏商戦向け新端末・サービス発表会で、音声通話定額制の導入はまったくアナウンスされなかったのだ。それどころか、発表会に先立つ4月30日の決算会見の時点で、同社の田中孝司社長は定額制導入について、「もう少し様子を見たい」と公言したのである。
ライバルたちが踏み出そうとしている音声通話定額制の流れに、あえて背を向けたようにも見えるau。その裏には、どんな思惑があるのだろう? ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が言う。
「カケホーダイを含む6月からのドコモの新料金プランが、いったいどれほどのユーザーに支持されるのかを、まずはじっくり見極めようとしているのでしょう。その上で、対応策を出すかどうか、出すとしたらどんな切り口にするのかを決定するわけです」
実はドコモの新料金プランには「あまり音声通話をしない、ファミリー割引がきかない単身者にとっては、かえって割高になる」など、導入前から疑問を呈する声が少なくない。だからauは、ドコモが6月以降にどれほど新規ユーザーを獲得したかのデータを踏まえ、“後出しジャンケン”でより訴求力のある音声通話定額プランを打ち出すというのだ。
VoLTE(ボルテ)の導入待ち?
そしてauには、もうひとつの事情がある。携帯電話ライターの佐野正弘氏が語る。
「彼らとしては、LTE回線で音声通話も行なう新通信システムであるVoLTE(ボルテ)の導入と同時に定額制を開始したい、というのが本音なのです。ドコモの新料金プランがよほどの好評を博さない限り、その既定路線を貫くでしょう」
auは現在、LTE網の整備を急ピッチで進めていて、ほぼ日本全土をカバーしている。VoLTEはこのインフラをそのまま使うため、現在の3G回線による音声通話とLTEによるデータ通信との二本立てよりも、コストが下がる。結果、無理なくユーザーに安い料金プランを提供できるから、同社としてはVoLTE導入と定額プラン開始の足並みをそろえたほうが好都合なのだ。auは今年中にVoLTEのサービスを開始する予定なので、そのタイミングで音声通話定額制という隠し球を出すというわけだ。
となると、気になるのがauの料金戦略のカギを握る、VoLTEの開始時期。
「夏商戦に間に合わなかったのですから、常識的に考えれば秋冬モデルとして対応端末を発表する10月頃でしょう」(前出・佐野氏)
そう、VoLTEは通信インフラだけでなく、端末の側も対応しないと使えないのだ。さらには、こんな可能性も考えられるという。
「9月あたりに出ると噂されている新型iPhoneがもしVoLTE対応機だったら、その発売に合わせ、auがインパクトのある定額制を打ち出してくるかもしれませんよ」(前出・石川氏)
iPhoneとの絡みも含め、auが秋に繰り出すであろう音声通話定額制は、業界の台風の目となりそうだ。