ソフトバンクモバイル(SBM)は、同じソフトバンクグループで米携帯キャリア3位のスプリント、そしてシャープと共同開発したAndroidスマホ「AQUOS CRYSTAL」(クリスタル)を8月18日に発表した。日本では同29日から発売され、スプリントを通じてアメリカ市場にも投入される。
クリスタルの最大の特徴は、液晶画面を取り囲む額縁を極限までなくした「フレームレス構造」。まるで液晶画面だけを持っているような新感覚を楽しめるのだという。さらに日本向け端末には、高級オーディオブランドである米ハーマンカードン製スピーカーも同梱される。
SBMの孫正義社長は今春、「季節ごとの新端末一斉発表会を今後取りやめる」と宣言していた。しかしクリスタルは、スプリントが系列会社となってから初めて協業したオリジナル端末。しかも、同一スペックで日米の市場に投入するという戦略商材であることから、異例の発表会見に至ったようだ。
しかし、どうにも解せないことが……。
SBMというキャリアは、徹底した“iPhone推し”戦略でシェアを伸ばしてきたはず。なのに、なぜ今になって、わざわざオリジナルのAndroid端末を開発し、鳴り物入りで売り出そうとしているのか。
どうやらそこには、日米ふたつのマーケットの直近事情が影響しているようなのだ。ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が語る。
「まず日本では、昨年のNTTドコモ参入によって大手3キャリアがすべてiPhoneを扱うことになり、各社間の差別化が難しくなってきています。SBMとしては、遅まきながらAndroid端末の充実に着手せざるを得ない状況なのです」
新戦略の前途は多難?
そして、アメリカにおいては、また別の事情が。
「スプリントでもiPhoneは扱っていますが、主力はあくまでAndroid端末。しかも同社は中、低価格帯の端末を使うユーザーの比率が他キャリアより高いので、そうした層に向けて見栄えのするオリジナル端末を投入する必要があったのです」(石川氏)
え? アメリカでの中、低価格帯スマホといえば、中国メーカーの製品に代表される、特別な機能がほとんどない端末じゃなかったっけ?
そう、クリスタルは外見こそ斬新だが、日本の大手キャリアが扱うスマホとすれば、実はかなりの低スペックなのである。携帯電話ライターの佐野正弘氏が解説する。
「ワンセグ、おサイフケータイ、防水機能、赤外線通信などには非対応ですし、カメラの画素数やメモリ容量も貧弱です。それでは日本市場で見劣りするので、立派なスピーカーを同梱した結果、定価が5万4480円に跳ね上がってしまいました」
同一機種を日米で展開することで仕入れコストが下がり、端末価格も抑えられる、というのがスプリント買収時のソフトバンクの主張だったが、アメリカ市場にも適応させるため機能が削られた挙句、価格も安くないのなら、日本のユーザーにとってはなんのメリットもない。
「ハイエンド端末でさえ、2年縛りだと実質0円で購入できる日本では、クリスタルはかなり苦戦を強いられそうです。今年12月以降に出る、ワンセグなどの機能を盛り込んだ日本専用の上位機『クリスタルX』なら訴求力はありますが、その前に新型iPhoneが発表されるでしょうから、どこまで売れるか……」(佐野氏)
“Android推し”を試み始めたSBMだが、新戦略の前途はなかなか多難?