auを展開するKDDIが、格安スマホ事業に参入する。
同社が100%子会社のMVNO(仮想移動体通信事業者)「KDDIバリューイネイブラー」(以下、KVE)を設立し、KDDIから回線を借り受けたKVEがパケット通信容量や通信速度をauより抑えた安価なサービスを提供するというもの。
KVEは、スーパーや家電量販店などのパートナー企業を通して回線とセットにした格安スマホを販売するだけでなく、auの廉価版的な独自ブランドを立ち上げ、格安スマホを直接販売することも検討している。
従来、格安スマホといえば、イオンやビックカメラのそれに代表される、NTTドコモ(以下、ドコモ)回線を利用したMVNOとのセットが大多数だった。そこへ、KDDIが自ら子会社をつくってまで乗り込んできたのはなぜなのか。携帯電話ライターの佐野正弘氏が語る。
「今春以降、格安スマホ市場が盛り上がりを見せています。当然、KDDIとしては自社ユーザーが流出していくのを見過ごすわけにはいかないのですが、かといってauがディスカウント攻勢をかけたのでは、ブランドイメージを損ねてしまいかねません。そこでKVEを受け皿にして廉価ブランドをつくり、ドコモ系の格安スマホに流れる顧客をKDDIグループの中にとどめようという狙いでしょう」
ただ、ドコモ系への流出を食い止められたとしても、auユーザーがKVEのMVNO回線に流れてしまえば、通信料金が安い分、KDDIグループ全体としては減益につながりかねない。身内同士で“共食い”して沈んでしまっては、元も子もないんじゃないだろうか……。
しかし、そこはKDDIも織り込み済みのようだ。ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が語る。
「このままライバルキャリア系の格安スマホへの流出を許しているより、たとえ客単価が下がってもKVEでユーザーを受け止め、グループ内で収益を確保しようという判断が働いたのだと思います」
ほかの格安スマホにはない画期的な使い勝手?
また、KVEのユーザーが増えたからといって、必ずしもKDDIグループの減益につながるわけではない。
「auのフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)で少しの音声通話とメールぐらいしかやっていないユーザーが格安スマホに興味を持ち、KVEに移行してくれれば、逆に客単価は上がります。それにKVEで取り込めるのはauの既存ユーザーばかりとは限りません。ほかの大手キャリアやMVNOからの新規顧客が増えれば、むしろグループとしては増益を見込めます」(前出・佐野氏)
というのも、KVEの端末には、ほかの格安スマホにはない使い勝手を期待できそうなのだ。
「従来のドコモ系格安スマホは何か不具合があった場合、原因が端末にあるのか、ネットワークにあるのかをユーザー自身が判断し、それぞれ別の窓口に対処法を尋ねなければならず、スマホ初心者向けではありませんでした」(前出・石川氏)
しかし、KVEは自社ブランドのユーザーに対してだけでなく、パートナー企業に対しても端末の調達や顧客対応サービスまでを引き受ける。
「ですから、ユーザーの相談窓口が一本化される可能性が高いのです。それだけでも画期的なのですが、さらにauショップでもKVE端末の販売やサポートを行なうようであれば、ビギナーにも優しい格安スマホになるでしょうね」(石川氏)
となれば、ライバル事業者も現行のサービス体制を見直さざるを得ない。KVEの参入によって、どうやら格安スマホバトルの第2章が始まりそうだ。